第67話 GWが過ぎて


 コネボー化粧品のCMはGW中にスタジオ内で収録された。メーカの化粧スタッフが、俺の顔に変な機械を当てた時、


「普段何かご利用になっていますか?」

 と聞かれたので


「いえなにも」

「え、ええーっ、そ、そんなぁ」

「どうしたんだね」


 そう言うとそのスタッフは、偉そうな男の人の耳元で、機械のディスプレイを見せながらゴニョゴニョゴニョ。

「なに!」


 何を話しているんだ?


「コホン、このCMは何も付けないで行こう」

「えっ?」


 いいのか。ファンデーションのCMなのに。それと問題は俺が来ている洋服だ。これどう見ても女性もの。

 髪は櫛が何回も丁寧に入れられて。なんかいつもいく床屋さんより丁寧だ。当たり前か。


 そんな訳で、俺の大切なGWは、何も出来ずに終わった。ほんとにいいのか俺これで?



 CMの撮影が終わった後、お母さんと男の人が、お互いの耳元で何か話している。嫌な予感がしてならない。



 GWの撮影も無事終わるとお母さんが俺の所に寄って来て


「お疲れ様、麗人。お母さん助かったわ。これでスポンサーに顔が立つわ」

「それは、良かったのだけど、もうこういうの終わりだからね」

「勿論よ。ドラマもCMもここまでにしましょう。麗人が高校生のうちは」

「お母さん、俺は大学に行くつもりだから」

「勿論よ。麗人には大学に行って欲しいわ」

 おかしいな。どう見てもこの会話、何か隠れているぞ?



 そして、CMが流れた六月初め。新しく放送されるドラマのCMに入れている様だ。一回目が放送されると、健吾と雫が登校中に


「麗人、見たぞ。また美しく映ってたな」

「麗人、ファンデ乗せたの?」

「いや、素顔」

「「え、ええっ?」」

「そ、それって?」

「ああ、想像の通りだ」


 全く、何処がファンデーションのCMだ。俺は何も塗っていない。これでいいのか?



 学校の校門近くになると、他校生の他に大学生なのか一般人なのか、分からない人が、また俺のファンクラブを名乗る人達と押し合いしている。ファンクラブの人数、また増えていないか?


「あっ、来たわよ」

「ナマ麗人様だ」

「駄目ですよ。近寄ってはいけません」

「いいじゃない、もう少し近くで」

「駄目です」


 ファンクラブの人達のお陰で今日も普通に校門を通り抜ける事が出来た。今度お礼に行かないと。



 昇降口に来て下駄箱を開け……。


 ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ。


 またか。もういい加減に止めてくれ。健吾が

「あーっ、またか。麗人が新作出るたびに増えて来るな」

「勘弁してくれ」



 それを健吾と、雫に協力して貰いながら教室に持ってくと誠也や田畑さん達が寄って来た。というか皆寄って来た。


「見たぞ麗人。凄い綺麗だったな。男ながら惚れてしまうよ」

「止めてくれ誠也。俺は男だよ」

「早乙女君、じゃあ、じゃあ、私なら良い。私は女の子よ。まだ手付かずの女の子よ」

「「「私も、私も、私も」」」


「みんな、麗人が困っている。とにかくここは一度引いてくれ」

「小早川君は良いわよね。いつも側に居れるし。狡いわよ」

「そんな事言われても」

 とうとう、健吾も言われ始めた。これは不味いな。しかし、どうしたものか。



 私、望月美紀。ふふふっ、彼と一番身近に居れるのは私よ。園芸部は私と早乙女君の将来へのパスポート。早く九条先輩消えて。



 そんな事を望月さんが考えているとは露知らず…。皆で話をしていると予鈴が鳴った。




 私、桜庭京子。早乙女麗人のクラス担任。昨日見たドラマのCMに彼が出ていた。はっきりって頭が痛い。


 彼のお陰で中学生からの当校への問い合わせが増えているという。校長、教頭は顔に一杯の笑みを浮かべて


「桜庭君、三年間、早乙女君を君に任す。あの子のお陰で我が校への希望者がうなぎ登りだ。当然、偏差値も上がり我が校の評判も上がる。

 彼を大切にしてくれ。くれぐれも問題が起きない様にな。これを務めあげれば学年主任への道も開ける。失敗すれば…分かるな」

「は、はい」


 これだものね。いっその事、あの子が私の夫になってくれれば解決する…しないか。

 今日も教室が騒がしいわ。全く。



 六月初めは体育祭がある。開催はされるが、俺は怪我や事故が有っては大変だと言うことで出場が出来なくなり、なぜか先生達のいるテントで一人静かに…なんて出来るはずも無く、来賓が近寄って来ては話しかける。なんか来賓応対要員のような気がして来た。


 美麗は出場した。彼女が参加する競技はどれも大変な人気で俺以上に凄かった感じがした。



 そして、静かな?六月も中旬が過ぎ、一学期末考査が近付いて来たところで家に帰ると、またお母さんが先に帰っていた。


「ただいま」

「麗人、お帰りなさい」

「ただいま、お母さん早いね」

「うん、麗人にお願いがあるの」

「出ない。絶対に出ない。出ないから」


 俺は急いで自分の部屋に行こうとして腕を掴まれた。お母さんは涙目で…演技に決まっている。俺のお母さん女優だもの。


「麗人、ごめんなさい。本当にあのCMで終わりだとお母さんも思っていたの。そうしたら…」

「聞かない。絶対に聞かない」

「麗人お願い。出ないとお母さん、出演出来なくなるの」

「えっ?!」


「お母さん、今度映画に出るのよ。前にも話したでしょ。それでね。お母さんが出れる条件は…。麗人が主役をやる事なのよ。お願い。お母さんを助けて」


 前にも言われた様な。

「お父さんと美麗が帰って来てから話そう」



 俺は自分の部屋に入って学期末考査の準備をしようとするけど、お母さんの言っている事が気になってしょうがない。


 俺は、普通に高校生活を送りたいだけなのに。中学の時だって、大変だったけど、こんな事なかった。


 なのに高校に入ってからこんな事になっている。この顔の所為だ。これを傷つけてしまえば、みんな俺から離れて行く。


 でも…そんな事出来る訳ない。この体は両親から貰った大切なもの。俺が勝手に傷付けていい権利なんか無い。

 でももう出たくない。出る度に問題が出る。


―――――

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