第66話 お母さんからのお願い


 部活プレでは、色々有ったものの、とにかく園芸部員一人は募集出来た…けど。なんと望月さんだ。


 水やりの木曜日、放課後になり俺は望月さんに声を掛けた。

「望月さん、園芸部室に行きますよ」

「うん♡」


―ずるい。なんで望月さんが。

―そうよ、そうよ。

―あんな嬉しそうな顔をして。

―世の中不公平だわ。



 俺は周囲の雑音を無視して望月さんを園芸部室兼倉庫に連れて行くと、もう九条先輩は来ていた。


「先輩。来て貰いました」

「望月美紀と言います。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくね。望月さん。ところでもう一人なんだけど。美奈、挨拶して」

 

 園芸部室の中からもう一人出て来た。名前呼びしたよね?


「私の妹、九条美奈よ。一年生部員になるわ」

 道理であの後、もう一人の募集再開をしなかったわけか。この子が先輩が言っていたもう一人か。えっ…。妹さん?


「麗人何驚いているの。前に言っておいたでしょう。一人は決まっているって。美奈挨拶して」

「九条美奈です。姉の静香がお世話になっております。早乙女美麗さんとは同じクラスです」


 なんと、これはまたクロスオーバーな関係になって来たぞ。先が見えなくなって来た。


「では早速、私が二人に基本的な事を教えるわ。麗人は校門の傍の水やりをやって来て」

「分かりました」



 えっ、早乙女君から手取り足取り教えてくれるんじゃないの?彼がジョーロとホースが巻かれた物を持って校門に行ってしまった。なんか期待していた状況と違うな。


「望月さん、麗人が教えてくれると思ったの?」

「いえ、そんな事は無いですけど…」

「まあ、いいわ。それより基本的な事から教えますね」



 俺は、校門の花壇に水をやっていると

「お兄ちゃん」

「美麗か」

「一人でやっているの?入った人は?」


「今、先輩がイロハを教えているよ。ところで美麗、九条美奈って子知っているか?」

「私と同じクラスの子で、初日に声を掛けてくれた子」

「そうなのか」

 先輩、どういうつもりなんだ?自分の妹を園芸部に入れるなんて。


「美奈ちゃんがどうかしたの?」

「園芸部に入った」

「えっ?!」

 これは一度まとめて考える必要がありそうね。



 俺は、校門の花壇の水やりを終わって、園芸部室兼倉庫に戻って行くと

「ほら、同じ所にずっと水やっちゃ駄目でしょう。いい加減に水撒きしない。適切に丁寧に」


 何故か、望月さんだけに言っている様な。妹さんには何も注意していない。


「先輩、終わりましたよ」

「ご苦労様、麗人、こっちが終わったら、今年の年間スケジュールを説明するから待っていて」

「はい」


 望月さんが先輩に注意される度に怒った顔をしている。どう見てもパワハラの様な。


「あの、先輩。望月さんには、俺が説明するからスケジュールの説明の準備お願いします」

 望月さんの顔がパッと明るくなった。


「分かったわ。望月さん、後はせっせと終わらせて」

「はい」

 今日は仕方ない。どう見てもこの先輩、私を目の敵にしている。でもどうせ秋までの話。後は早乙女君と私の世界だわ。妹なんて関係ない。


 先輩からの年間スケジュールの説明が終わると

「水やりは、四人でやる事無いわ。私と麗人、美奈と望月さんにしましょう」

「それは無いです。九条先輩。先輩は妹さんと一緒にやって下さい。私は早乙女君と一緒に…」

「黙りなさい。その辺は部長である私が決めます」


 困ったな。何とかしないと

「先輩、二人共まだしっかり覚えてないし、一学期中は四人でやりませんか。六月以降で回数が多くなったら二組に分かれましょう」


 何故か、先輩は望月さんを睨みながら

「そうね。そうしましょうか」


 早乙女君、ありがとう。私を助けるなんて、うふふっ、可能性あるかも。


 剣道部は退部できなかった。水やり以外の日は来れるだろうと言う顧問の先生と先輩や一緒に入った子達に引き留められてしまった。


 私としては園芸部で麗人と一緒に水やりが出来ればいい。そこからチャンスを作るんだから。でも九条美奈か、先輩の企みほんと見えるわ。




 水やりが終わって、四人で駅に向かっている。しかし、秀子さん、木曜日は登校だけで良かった。これで下校時に彼女がいたらと思うと…考えたくない。



 俺は家に戻ると、珍しくお母さんが帰っていた。

「ただいま」

「お帰り、麗人」

「お母さん、仕事は?」

「うん、今日はね、麗人に大切なお願いが有って」


 嫌な予感しかない。



 夕食も終わり、食器も片付け終わった所で、お母さんが

「麗人、ちょっといいかしら?」

「いいけど」

「あのね、スポンサーさんがね」

「お母さん出ないよ」

「そう言わないで最後まで聞いて」

「……………」

 何となく雫が言っていた事が…。


「スポンサーさんがね。三月に麗人に出演して貰った番組を見て、ぜひCMに出て欲しいと言って来たの」

「ドラマじゃないの?」

「今回はドラマでは無いわ」

 なんか含みあるな?


「スポンサーさん、化粧品メーカのコネボー化粧品。ファンデショーションのCMに出て欲しいってお願いされたの。

 そのスポンサーさん、今度お母さんが出る映画のスポンサーなのよ。麗人にそのCM断られるとお母さん立場厳しくなるの。ねっ、お母さんを助けると思って」


 お母さんが困る様な事は出来ない。しかし、CMか、また時間かかるのかな?

「お母さん、それって時間かかるの?」

「ううん、GWの時に全部取れるわ。麗人が受けてくれたらそこに合わせて準備する」

「分かったよ。でももうこういうの止めて。俺の高校生活、これ以上大変にしたくない」

「分かっているわ。大切な息子だもの」


 あーぁ、お兄ちゃん、お母さんに完全にからめとられている。お兄ちゃんは芸能界とか興味無いから知らないけど、今度お母さんが出演予定の映画って同じスポンサーよ。



 翌月曜日、健吾と雫と学校のある駅で待合せて学校に行きながら

「俺、今度コネボー化粧品のCMに出る事になった。お母さんからどうしてものお願いで断れなかったよ」

「はははっ、いよいよ。本格デビューも近いな」

「そうね、その化粧品メーカって色々な番組のスポンサーしているものね」

「二人共止めてくれよ。俺はそんなつもり全くない」

「ところで、そのCMって、どんな内容なの?」

「ファンデーション」

「えっ、じゃあ、今度も女性役」

「ああ、仕方ない」


 はぁ、俺の将来どうなるの?


―――――


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