第60話 園芸部員募集


 俺が出演したドラマ放送がオンエアされた月曜日から学年末考査ウィークに入った。授業は全て午前中だ。


 この考査は一、二年だけなんだが、考えてみると九条先輩は新学期から三年生だ。当然秋には引退する。


 そうすると俺一人になる。園芸部は花壇の水やりだけじゃない。草むしりや肥料の施し、新しく植える草花の選定、生徒会への予算申請とかまだまだ色々ある。とてもじゃないけど一人でやる事は出来ない。


 考査が終われば、新しい花の植え付けや春の肥料を施す作業も有る。不味いぞ。でも九条先輩、新入部員の勧誘は桜庭先生と話して止めている。それを解除しないと。



 金曜日、学年末考査が始まった日。他の部活は全て停止されるが、園芸部はそうはいかない。水やりをしないと花が枯れてしまう。今の時期は特にそうだ。


 俺は、考査が終わって直ぐに校舎裏の園芸部室兼倉庫に行くとまだ、九条先輩は来ていなかった。


 仕方なく、俺一人でやり始めたが、校舎裏の花壇を全部やり終えても来ない。一人で校門の方へ行って水やりをしていると


「早乙女君、一人で水やりしているの?」

 後ろを見ると望月さんと数人の女子生徒が居た。


「いえ、本当は九条先輩も来るはずなんですが、今日はまだ来ていないので一人でやっています」

「二年生は一年生より科目数が多いからまだ考査中じゃないかな?もし良かったら手伝おうか?」

「いえ、一人でやります。後ここだけなので」

「ねえ、九条先輩、今年三年生だよね。秋から早乙女君一人でしょう。私が入部してあげようか」

「えっ、美紀。剣道部はどうするの?」

「勿論止めるわよ」

「それ有りなの?だったら私も」

「「それなら私も」」


「あははっ、まだ部員の募集はしていないので」

「じゃあ、いずれするのね。だったら公募する前に言って。私が入るから」

「ちょ、ちょっと。美紀、抜け駆けは駄目だよ。私達も入る」

「九条先輩や桜庭先生から話しが出たらという事にします」

「分かった。絶対先に声掛けてね」


 それだけ言うと望月さんと他の子達は帰って行った。


 そうか、二年生は科目数が多いのか。まあ、当たり前か。俺が校門の花壇の水をやり終わり、倉庫に戻ってジョーロやリールフォルダを片付けていると先輩がやって来た。


「ごめん遅れて」

「いいです。もう終わってしまったので」

「えっ、ほんと。ごめんなさいね」

「それより九条先輩、新学期から三年ですよね。秋には引退するじゃないですか。俺一人だと回せないし、直ぐに入っても出来ないし、新しい人を応募するしかないですよね」

「佐久間さんは?」

「知りません。途中で来なくなってしまったし。あの人元々八頭さんの言われて無理矢理やらされていただけですから。それに先輩と同じ三年生でしょ。誘えないですよ」


「困ったわね」

 ここで部員の募集をしたら、どうなるかは想像つく。新入生への部活紹介なんかで募集したら目も当てられない状況になるのは分かっている。どうするかな。


「桜庭先生と話すしかないですよね」

「そうね、考査が終わったらそうしようか」

「はい」


「ところで麗人、ドラマ見たわよ。素敵だったわ。私も麗人の出るドラマに出させてもらおうかしら」

「あはは、あれっきりです。もう出ません」

「そう、残念だわ」

 せっかく、もっと近付けるチャンスだったのに。



 考査が終わったのは、翌週の水曜日。当然月曜日には俺が出演したドラマの二回目が放送された訳で…。考査中なのに朝から


「早乙女君見たわよ」

「素敵ねぇ。早乙女君の女性姿って憧れる」

「ねえ、お化粧の仕方教えて」

「こんど、撮影見に行っちゃ駄目かな」


 見かねた健吾が

「みんな、今は考査中だ。とにかく考査終わるまで麗人を静かにしてやってくれ」

「じゃあ、考査終わったら良いのね?」

「いや、それは…」


 健吾頑張れ。と思っている内に担任の桜庭先生が入って来て、

「皆さん、席に着いて。それと特別校則忘れたのですか。早乙女君には必要以上に近付かない様にして下さい」


 女子だけでなく、何故か男子もブツブツ言っている。でも先生助かりました。



 そして水曜日、学年末考査が終わると、皆が帰り始めたので俺も帰ろうと思っていた所に、1Cの望月さんがやって来た。この前の女の子達もいる。


「早乙女君、考査が終わったよ。園芸部の部員の件なんだけど」


―えっ、園芸部の部員。

―もしかして募集する?

―それなら私も。

―早乙女君と一緒に居れるチャンス。


 ミスった。口に出してしまった。

「あははっ、何の事かな。ねえ早乙女君」

「もう遅いですよ全く。園芸部の部員の募集については、まだ何も決まっていません」

「でも、もう話は進めるんでしょう。私、桜庭先生の所に行って来る」

「えっ、ちょっと待って」


 あーあ、皆行っちゃった。桜庭先生ごめんなさい。



 そして数分後、

 職員室の中と前は三十人近い女子生徒で埋め尽くされていた。


「ど、どうしたんですか?」

「桜庭先生、園芸部の部員になります」

「「「「私も、私も」」」」


「ちょっと待って下さい。そんな事誰も言っていないですよ」

「でも、もう募集するんでしょう。しないと早乙女君一人になってしまいます」

「そ、それは…」


 焦った教頭が言わなくていい事を言ってしまった。

「園芸部の部員は公募によって選びます」


「公募日何時ですか」

「そ、それは、桜庭先生…」


 馬鹿教頭が!勝手にいい格好しいして、私に振るな。




 俺は、そんな職員室の喧騒を知る事も無く、校門に急いだ。校門に秀子さんが来ているはず。早く行かないと。


 校門に行くと秀子さんが立っていた。もう生徒は見慣れたのか彼女をチラチラ見る程度だ。

「すみません。送れてしまって」

「ねえ、職員室辺りが騒がしいようだけど」

「さあ、何でですかね。それより早く帰りましょう」


 桜庭先生。お願いしますよ。平穏に平穏に募集は進めましょう。




 そして、次の月曜日。麗人出演の三回目のドラマの放送が終わると、放送した民放のカスタマセンターでは、

「はい、えっ、あのドラマの出演者ですか?」

「は、はい。あのドラマの出演者ですか?」


「センター長、誰ですかぁ。霧島花蓮さんと共演した女性。私見ていないんですけどー」

「センター長、何とかして下さい」

「電話が鳴りやみません。どうにかして下さい」

「一時回線クローズしろ!」

 全く花蓮ちゃん、やってくれるじゃないか。しかし、あの子これから大丈夫かな?


―――――


ぜひフォローとご評価★★★を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る