第59話 ドラマ撮るって大変だ


 お母さんの我儘で、民放のドラマにスリーカット出る事になった俺は、条件として


 撮影は土曜日午後と日曜だけ。

 三学期末考査の前の土日は撮影出来ない。

 セリフとかは出来るだけ無しにする。


 この条件を出した所、調整可能だ問題ないと言われたのだけど、役回りが美人で無口、武道の達人でお母さんを守る女性?って役になった。なんだそれ?


 土曜日の午前中は、勿論道場で稽古だ。これは欠かせない。



 ドラマに出る事は健吾と雫に言った。勿論登校中なので秀子さんの耳にも入ってしまうけど。


「麗人、やっぱりだな。お母さんの術中にはまった感ありだな」

「ああ、やられたというか、お母さんが困っているなら仕方ないよ」

「でもスポンサーがドラマの脚本内容まで口出すの?それにそのドラマって三月一杯で終わるドラマでしょ。あーっ、もしかしてそれって麗人のデビューテストカット?」

「デビューテストカット?なにそれ?」


「お母さんは麗人を今後ドラマに出したいけど、脚本家や監督からすれば、麗人がどんな人物か分からないし、撮影に向かないかも知れないじゃない。だからドラマの最後の方に出してカメラ映りや麗人の俳優としての資質を見たいのよ」

「それって?」

「そう、四月以降のドラマの配役をこなせるか実地テストするようなものよ。それに視聴率の事も有るし」


 やられた。お母さん、そこまで考えていたとは。でも絶対に出ないからな。俺は高校生活を楽しむんだ。


 

 撮影は二月の始めの土曜の午後から始まった。薄井さんの運転する車で東京湾沿いにある民放局に行ってお母さんと一緒に控室で待っていると、監督や演出家それに脚本家って人が来て、その日撮る場面を説明してくれたり、どんな動きをするかとかも説明してくれた。


「お母さん、なんか凄そうだけど?」

「麗人なら大丈夫よ」

 お母さん、何を根拠に大丈夫だって言うんだ。



 それから撮影現場に行ってと言っても今日はスタジオの中らしい。スタッフに紹介された。勿論、霧島花蓮の息子ということも有って滅茶苦茶注目された。


 俺だけの部分を先に撮るらしく、俺の相手をする人と立ち回りの練習が有って、それから一言だけのセリフだけどその言い方も教えて貰った。


 緊張して全然うまく言えなかったのだけどお母さんが、普段私と話しているようにすればいいと言われたので素で言ったらそれでいいと言われた。良く分からん。



 それから衣装に着替えると言うので、またお母さんの控室で待っていると何故かカメラマン、監督、脚本家、ディレクター、美術それにメイクの人までやって来た。


「うーん」

「そうだなぁ」

「これでいいんじゃないか」

「衣装ないしなぁ」

「軽くリップを付ければ大丈夫だと思います」

「肌も綺麗だし」

「じゃあ、これで行くか」


 なんと、俺の身長にあう女性の洋服がないらしい。お化粧は素の顔がいいと言われた。本当かよ?


 そして、役としては、お母さんが暴漢に襲われそうになった所を娘の俺が助けるという場面が俺の今日のカットだ。


 問題はリハの時、俺が役者さんに本当に蹴りを入れてしまって、手加減はしたんだけど…。怒られてしまった。

 セリフは一言『お母さん大丈夫』だけだったので普段の声でやったらそれでいいと言われた。


 そんな場面だけでもリハから本番まで二時間近くかかる。ドラマってなん時間取っているんだろう?



 その日、俺はそれだけだったのでお母さんの出る場面を端の方で見ていたけど、

「ねえ、君。この後時間有る?」とか

「なあ、今度食事に行かないか?」とか

「明日終わったら、私と一緒に食事しない」とか

 言われたけど、傍にいる薄井さんが


「この子はまだ十六才です。何を誘っているんですか」

 と怖い顔して撃退してくれた。声を掛けた人って、皆有名な人なんだけど、こんなに軽いとは思わなかった。この世界はやっぱり俺には向いて無さそうだ。



 その日のお母さんの撮影が終わると薄井さんに送って貰った。もう午後八時だ。


「麗人、今日はありがとう。お母さん、これでスポンサーさんに顔が立ったわ。後ツーカットだから。そうそう監督さんやカメラマンさんが麗人の事褒めていたわ。生まれながらのスターだって。カメラ映りや一言だったけどセリフがとても上手かったって」

「そんな事言っても、俺はこれだけだからね」



 そんな感じで二月一杯で撮り終えてくれたのだけど、初回放送が何と学年末考査の前の月曜日に放送された。


 翌火曜日の朝、秀子さんと健吾と雫で一緒に登校しながら

「麗人、見たぜ。上手いもんだな」

「私も見た。素敵だったわよ」

「でも麗人女性役だったね」

「それ、言わないでくれ」



 そんな話をしていると例によって校門が騒がしい。何故か俺を守る会という人達の人数が増えているのは気の所為か。

 でもおかげで他校の生徒が近付く事が出来なかったから今度お礼でも言わないといけないな。


 そして秀子さんと校門で別れた後、三人で教室に入って行くと誠也と田畑さんが寄って来た。


「麗人、見たぜ。ついにデビューか?」

「誠也、勘弁してくれ。偶々だ、お母さんに言われて仕方なしにだよ」

「でも早乙女君。女性役だったよね。やっぱり綺麗だったわ。本当にファンデも何もしていないの?」

「していないです」

「はぁー。分けて欲しいわ。その肌」

「止めて下さい」


―ねえ、聞いた。早乙女君ドラマに出たの?

―らしいわね。

―直ぐにどのドラマか聞かないと。


 誠也と田畑さんが自席に戻ると他の生徒が群がっていた。誠也、つまらんことを言った所為だぞ。


 でも後二回放送がある。もう学期末考査だっていうのに。大丈夫かな俺。


―――――


 ドラマ制作については、端折って書いているのでご理解の程お願いします。


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宜しくお願いします。

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