第58話 美麗の進学先


 俺は、家に帰ると珍しくお母さんが戻っていた。お父さんと美麗はまだ戻っていない。


「ただいま」

「お帰り、麗人。ご飯は?」

「まだ、食べていない」

「なら私と一緒に食べましょうか。私も今帰って来た所なのよ」

「うん」


 俺は、自分の部屋に行って部屋着に着替えて、手洗いうがいを済ませてからダイニングに行くとキッチンでお母さんがチャーハンを作っていた。


「もうすぐ出来上がるから待っていてね」

「分かった。ところでお母さん、うちの学校の校長に何か言った?」

「えっ、何の事。何も言っていないわよ」


 おかしいな。だとするとあれは本当に学校の独自判断か?一生徒の事であそこまで干渉するなんて何かおかしいな。


「あっ、そう言えばお父さんが、麗人が心配だからって、仕事先から校長へ電話するって言っていた。どうかしたの?」

「そういう事か」

 俺は今日学校で言われた特別校則の事を話した。


「ふふっ、流石お父さんね。麗人が心配なんだわ。でも良かったじゃない。これでテレビに出ても何も干渉されないでしょ」

「テレビ?」

「そう。ねえ、麗人。ワンカットで良いのよ。民放の今、お母さんが出ているドラマなんだけど、そこのプロデューサさんがね、どうしても麗人と私のカットを取りたいんだっていうの。お母さんのお願い聞いてくれないかな?」

「えーっ、やだよ。もっと目立つ事になるじゃないか」

「だから、特別校則が有るじゃない」

 どう見ても俺をテレビに出したいお母さんが校長にねじ込んだとしか思えない。後でお父さんに聞いてみるか。



 出来上がったチャーハンは少し薄味だけど、こうして二人で食べるのは久しぶりだ。さっきの話の方向を変える為に


「ところで美麗の進学先は何処なの。もうこの時期だからお母さん知っているでしょ」

「ああ、その事ね。本人から聞いて。色々事情があるみたいだから」

「えっ、そうなの?」


 何だ、色々事情って?



 それから少しして美麗が帰って来た。

「ただいま」

「お帰りなさい、美麗」

「ただいま、お母さん。お昼ある?」

「有るわよ。美麗の分も作ってあるわ。今麗人と一緒にチャーハン食べた所なの」

「わぁ、嬉しい。食べる、食べる」


 お母さんは薄味というより調味料の組み合わせが分からないみたいだから、お兄ちゃん物足りなかったんじゃないかな。


まあ、仕方ないよね。十五才の時からずっと芸能人なんだもの。料理作るっていうか、包丁を持ったのがお父さんと結婚してからって言うから無理も無いか。結婚してからだって、料理をする時間無かったみたいだし。



 私が着替えを終えてダイニングに行くとお兄ちゃんがまだ座っていた。私がお母さんが作ってくれたチャーハンを温め直してから食べようとすると


「美麗、進学先何処にするんだ?」

「お兄ちゃんと同じ高校」

「えっ?!俺と同じ高校?」

「何驚いているの。当たり前じゃない。お兄ちゃん、高校でも私を守ってよね」

 そういう事?


「でも、俺と同じ高校だと、美麗に迷惑が掛からないか?」

「他の高校に行って、身バレして騒がれたり付き纏われたりするなら、最初から有名人のお兄ちゃんの妹ですって言った方が、相手も身構えるでしょう。それに特別校則も出来たって友達がお姉さんから聞いたって言っていたし」


何なんだ。その情報伝達速度は。


「お兄ちゃん、今時、一瞬で情報なんて伝わるわ。友達もお姉さんからの連絡で知ったって言ってたよ」

「そうなのか」

「ちなみその子も私と同じ高校だから」


 はぁ、どう考えればいいんだ。



 翌日は、秀子さんが登校だけ一緒に行ってくれる日だ。ところがいつもの様に俺の家の最寄り駅のホームで会って一緒に電車に乗ると


「麗人、大学は冬休みになるから三月一杯迄毎日登下校一緒に出来るわよ」

「えっ、でもそれって申し訳ないですから」

「いいのよ。私がしたいんだから」

 早く麗人との関係を偽無しにしたいしね。


「そうですか。すみません。でも金曜は水やりがあるので下校の時はいいですよ」

「良いわよ。校門で待っているわ」


 でも最近は秀子さん、偽彼女ってバレているしな。どこかで断るか。しかしなぁ、四月から美麗が入学してくるとなるとまた色々有りそうだな。



 ともあれ、朝は秀子さん、健吾、雫と一緒に登校、帰りは秀子さんと一緒に下校という日が続いた。


 最近は、九条先輩、八頭さんそれに望月さんから変な誘いは無くなっている。あの校則の所為かな。それに新垣さんは受験シーズンも相まって全く顔を見ていない。

 



 二月に入ってすぐの事だった。家に帰って来たお母さんが、

「麗人、この前言っていた、お母さんの民放のドラマの出演なんだけど、どうしてもってプロデューサーさんが言っていたでしょ。今度はねスポンサーさんが、麗人の事言って来て。どうかな?私もスポンサーさんには弱いのよ」

「えーっ、断ってよ。テレビには出たくない」

「そこをなんとか。ねっ、麗人」


 参ったなぁ。でもなぁ、お母さんが困っているなら仕方ないのかな。これも女優の息子に生まれた運命か。


「ねえ、お母さん。絶対に、絶対に、今回一回きりだよ。それにワンカットだけだからね」

「それがね。どうもワンカットじゃ済まないようなの」

「お母さん!」


 はぁ、俺の運命どうなるんだ。


―――――


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