第57話 三学期が始まって
俺は、いつもの様に学校の最寄り駅で待っていると健吾と雫が改札から出て来た。今日は都合で秀子さんと一緒の登下校は無い。
「「おはよ麗人」」
「おはよ、健吾、雫」
「麗人、出ていたな」
「ああ、お母さんの頼みで後ろに座っていただけなんだが」
「はははっ、麗人のお母さんは綺麗だからな、カメラに映るのは当たり前だけど、真後ろに麗人を座らせたのは、考えている感ありだな」
「まあ、そう思うよな。この前もワンカットで良いから出ないかって言われて」
「へーっ、麗人も遂に芸能界デビュー?」
「雫、冗談は止めてくれ。俺は静かに高校生活を過ごしたいだけだ」
「麗人、気持ちだけは分かるが現実が違い過ぎる。まあどうするかは麗人次第だけどな。ところであれなんだ?」
校門の近くで他校の制服を着た人と麗人様を守る会の登りと麗人様命とか書いたハチマキをおでこに締めているうちの高校の生徒がもみ合っている。
―あっ、麗人様が登校よ。
―きゃーっ、やっぱり素敵。テレビで見るよりいいわー。
―みんな、麗人様を守るのよ。
―はい!
はぁ、新学期早々これかよ。それでも俺を守る会のお陰で他校の生徒から変な事されずに門を通る事が出来た。心で感謝!
昇降口に行って上履きに履き替える為に下駄箱を開けると
ザ、ザ、ザ、ザーッ。
「うわっ!」
綺麗な色や可愛いリボンをした小さい封筒が、一杯零れ落ちた。
「麗人どうした。あっ、みんなラブレターか?」
「多分?」
「これじゃあ、体育祭後に後戻りだよ。麗人」
「ああ、仕方ない。とにかく片付けるか」
散らかしておくわけにもいかないしな。初日からこれじゃあ、後が思いやられる。
三人で教室に入ると誠也や川上、相模それに田畑さん達が寄って来た。
「麗人、見たぜ。麗人の前に座っていたのがお母さんか?」
「早乙女君のお母さんって霧島花蓮だったの?」
「凄い美人のお母さんだな」
「今最高に売れている女優さんだよね」
「早乙女君が綺麗な理由分かったわ」
流石に見かねた健吾が
「まあ、皆、待て待て。麗人が困っているだろう」
「小早川は知っていたのか、麗人のお母さんが霧島花蓮だって」
「まあ、そりゃ、小学校からの付き合いだからな」
「それって狡くない。なんで教えてくれなかったの?」
「個人情報だから」
今度は雫が
「みんな、とにかく落着いて。麗人を困らせて嬉しいの?」
「そ、それは…。良くないよな。うん」
「そうね。ごめんなさい。早乙女君。つい興奮しちゃって」
「「「ごめんなさい」」」
仕方ない。はっきり言うか。
「俺のお母さんが霧島花蓮というのは本当だ。でも俺は俺だから、今までと同じにしてくれると嬉しいんだけど」
「麗人、悪かった。テレビ見た時、驚いちゃってさ」
「誠也、もういいよ」
騒いでいる内に予鈴が鳴って担任の桜庭京子先生が入って来た。
「皆さん、体育館で始業式を行います。廊下に出て下さい」
私は高校でクラスを持って七年になるけど、自分のクラスにまさか女優の息子がいるなんて思わなかった。
入学時の履歴書には母親の名前欄に早乙女花蓮と書いて有ったからもしかしてとは思っていたけど。面談にも来ないから分からなかったわ。
しかし、これからまた騒ぎが大きくなりそうね。ふふっ、楽しみだわ。
俺達1Aのクラスが体育館に入って行くと
―ねえ、見た。
―うん、見た見た。
―やっぱりねぇ。あれだけ綺麗だもの。
―麗人様が霧島花蓮の子供だったなんて。納得するわー。
―私も、私も。
ざわつく周りを無視して自分の椅子に座ると少しして始業式が始まった。
校長先生の話や連絡事項が言い渡された後、自分達の教室に戻ったのだけど、少しして入って来た桜庭先生が緊張した面持ちで開口一番、
「皆さんに重要な連絡が有ります。早乙女君の事です。皆さんももう知っている人も多いと思いますが、学校内において早乙女君に必要以上の接触をしない様にする事。
これは早乙女君が在学中の特別校則として決まりました。守らない人には学校側より厳重な注意が有ります。内申にも大きく影響します。また度重なる校則違反の生徒は一定期間停学となりますので注意して下さい。以上です」
「「「「「えーっ!特別校則!」」」」」
「「「「「て、停学ー!」」」」」
クラスの人が一斉に俺を見た。
お母さん辺りが、また校長に頼んだんだろう。しかし、また凄い事を頼んだものだ。
「先生質問」
「何ですか?」
「クラスメイトとして普通に話すのは良いんですよね」
「それは構いません。必要以上にとは、意味も無くまとわりつく事です」
「意味有れば良いですか?」
「それは早乙女君に判断して貰います」
えっ、俺にそれ振るの?
また、皆が俺を見た。はぁーっ。どうすればいいんだ?
今日は二限だけ授業が有った。何故か入って来る先生も俺の事を一度ジッと見てから授業を始める。何とかしてくれ。
放課後になり、健吾と雫が
「麗人、今日水やりあるのか?」
「無ければ一緒に帰ろうか。今日二人とも部活無いんだ」
「今日は火曜日だから無い筈だけど。一応花壇の確認してから帰る事にするから、先に帰って良いよ」
「大丈夫か。一人だと不味いだろ。あの校則は校内だけだからな」
「ああ、分かっているけど仕方ない」
「そうか、悪いな」
健吾と雫が一緒に帰って行った。俺はバッグを肩に引っかけて校舎裏の園芸部室兼倉庫に行くと九条先輩が居た。
「あら、麗人、来たの?今日は水やりの日じゃないけど」
「分かっています。でも冬休み見に来なかったんで、ちょっと心配で」
「そう、嬉しいわ。見ての通り、この季節だから草は生えていないけど、大分枯れた花や葉が多いからそれだけ取らないといけないわ」
「分かりました」
二人でゴム靴に履き替えて花壇に入り、枯れた花や葉を取った。校門の方の花壇にも行って同じ事をしたけど、思い切り注目された。でも校則が効いているのか、変に声を掛けたり行動を取ったりする人はいない。
それが終わるといつもの様に取った枯れた花や葉を入れた袋を隣校舎裏の焼却炉の傍に持って行った後、倉庫に戻って来るとまだ九条先輩は残っていた。
「先に帰ってくれても良かったのに」
「そうはいかないわ。一人で帰るの不味いでしょ」
「それはそうですけど…」
「じゃあ、構わないじゃない。一緒に帰りましょう」
「……………」
どう考えればいいんだ。
だけど、駅までの帰り道、九条先輩が居たおかげで変に寄って来る人はいなかった。
でもあの件本当にお母さんが校長に依頼したのかな。朝はそんな時間無かったはずだけど?
―――――
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