第48話 男子運動部は正統派で


 私は、昨日の起こった事を、新垣生徒会長に話した。彼女は今受験で手いっぱいだが、事が麗人の事となると別問題の様だ。


「何ですって。麗人にそんな事するなんて!絶対に許さない!」

 あら、この人、麗人を名前呼びしている。でも相当に怒っている。


「九条さん、直ぐに名前教えて。今日中に退学にしてやるわ」

 流石にそれは…。


 新垣さんは、校内放送で関わった六人を名指しで昼休み生徒会室に呼び出した。それも緊急用件という事で。



 校内放送でいきなり生徒会室に呼び出され驚いた顔をしている六人に


「ここに呼び出された理由は分かっているわね。事と次第によっては、あなた達をわいせつ罪とほう助で退学にしてやるわ。このスマホの持ち主は誰?」

「わ、私です」

「直ぐにロック解除しなさい」


 ロックが解除されたスマホから録画された映像を見ると新垣さんは

「何ですかこれは!直ぐに生徒指導の先生に言ってあなた達を退学して貰います」

「そ、それだけは…」

「自分達がやったことが分かっていないみたいね」



 それから数日して、麗人に直接関わった三人の女子は退学になった。私を部室に連れ込んだ女子達は一週間の停学処分になった。


 これで麗人を部活に誘う人なんていないでしょ。…と思っていたんだけど。




 駅前のファミレスで部活帰りの男子達が話をしている。


「おい、聞いたか。女子バスケ、女子バレー、女子テニスの部長三人が一週間停学になったってよ。後、部員三人が退学だって」

「知ってる知ってる。噂じゃ、あの早乙女に色仕掛けで園芸部を辞めさせて、部活のマネージャになる様に言い寄ったそうだな」

「馬鹿だなあ、俺にしてくれれば、直ぐにマネージャになったのに」

「お前じゃ無理だろう」


「ところでさ、女子部はあんな馬鹿な事したけど、俺も早乙女には入って欲しいと思っている。俺達はまだ二年だけど、来年は最後だ。ちょっと位良い思いしたい」

「そうだな。でも俺はあんな馬鹿なことしないぞ」

「当たり前だ、俺達が早乙女の前で裸になってどうする」

「じゃあ、どうやって?」

「こうするんだ…」




 巷で変な噂が流れているが、俺は無視を決め込んでいつもの生活をしている。健吾と雫には、翌日に事と次第を話している。二人共呆れていたけど。



 あんな事が有ってから一週間が過ぎた。後二週間もすれば二学期末考査だ。健吾と雫と一緒に教室で昼食を摂っていると上級生が二人入って来た。


「早乙女、俺は空手部の郷田(ごうだ)だ。俺と戦え。お前が負けたら空手部に入れ」

「はっ?!」


「俺は、剣道部の細野(ほその)だ。俺と戦え。お前が負けたら剣道部に入れ」

「えっ?!」


「どうだ。お前も武道を習っているそうじゃないか。俺達を負かす事が出来ればもう勧誘はしない。でも負けたら俺達が鍛えてやる」


「あの、道場外での格闘は禁止されているんです。だから出来ません」

「格闘じゃない。勧誘だ」



 言っても退きそうにないな。仕方ない。

「道場主に聞いてみます」

「出来るなら来週の金曜日はどうだ?」

「金曜日は園芸部で水やりです」

「では、水曜日はどうだ?」

「聞いてみます」


 二人の上級生が出て行った後、

「麗人面倒になったな」

「ああ、女子部があんな事しなければ」

「ふふっ、麗人は女子からも男子からも人気有るからね」

「勘弁してくれ」



 俺は、その週の土曜日午前中、道場に行くと稽古が終わった後、

「師範、相談が」

「なんだ麗人」

「実は…」



 俺は道場主である師範に事の次第を説明した。道場主は呆れた顔して

「何だそれは?しかし、無謀な奴もいるものだな。高校二年程度で麗人に叶う訳無いのに。まあいい。怪我をさせるなよ。面倒だからな」

「すみません師範」

「お前が謝ることではない。ところで高校生ならば寸止めだろう、うちの道場は防具を付けての実践だ。出来るか寸止め?それとも防具を持って行くか」

「相手の身長は俺と同じ位です。一応持って行こうかと」


 この話を聞いていた東郷さんが

「わぁ、見たいわ」

「見たいわって言っても学校には入れないでしょ」

「出来るわよ。私が防具を持って行ってあげる。いつやるの?」

「水曜日の午後三時半からです。空手と剣道の両方です。でも水曜日は東郷さん来れないでしょ」

「麗人の為よ」

 何でそうなる?



 次の水曜日。この季節、もうこの曜日は水やりをしないので空手と剣道部の道場に行った。勿論、胴着だけは持っている。


 空手部と剣道部は同じ場所にあるのでそちらに行くと、えっ?入り口や練習場の周りに生徒の人だかりが出来ている。誰かばらしたのか?


 そして、どうやって入ったのか知らないが東郷さんが、道場の防具入れを持って部室の傍に居た。


 おれは、東郷さんの傍に行くと

「どうやって入ったんですか?」

「いいじゃない。そんな事。それより防具どうするの?」

「聞いてみます」



 俺は着替えの為に部室に入らせて貰ってから空手部の郷田部長に

「郷田さん、空手は寸止めですか。俺は実戦でやっているので、出来れば防具を付けて貰うと嬉しいんですけど」

「俺が防具だと、たわけた事を。早乙女が実戦形式なら、それでいい。防具無しで行こう」

「いや、しかし」

「怖気ついたか?」

「そんな事は無いんですけど」

「では決まりだ」



 俺と郷田部長が畳敷きの練習場に行くと女子がきゃあきゃあと凄い。


 俺が練習場に入る前に東郷さんが

「麗人、要らないの?」

「はい」


 大丈夫かしら相手の子。一瞬で飛んで行かないと良いんだけど。



 空手部顧問の審判という事で郷田部長と俺が相対すると場が自然と静かになった。


「はじめ」


 郷田部長は自然体のままにすっと前に出て来た。そしていきなり後ろ回し蹴りをして来た。得意技なのか?


 俺はさっと身を引いてその蹴りを避けると直ぐに相手の軸足を払う様にしたが、流石部長、簡単に避けると

「面白いな。俺の後ろ回し蹴りを避けたのはお前だけだ」

 そう言って、今度は正面から打って来た。


 どうしたものか。やはり実践ではない。踏み切りが甘いし、相手の攻撃を見切るのが簡単だ。

 避けてばかりでは仕方ないので、相手が回し蹴りをして避けた所でその背中に動きが最小の蹴りを入れた。


 部長がよろめいてこちらを見たところで顎に蹴りを正面から入れた。部長が後ろに飛んだところで


「そこまでだ。勝者早乙女」


「「「「うおーっ!」」」

「「「きゃーっ!」」」



 郷田部長が顎を押さえながら

「負けた。お前の勝ちだ。格が違ったな。早乙女、もう勧誘しないが俺達の仲間になってくれ。お前を尊敬する」


 

 そして剣道の勝負も俺が剣道の防具はいらないと言うと細野部長もいらないと言ったが、部長が上段の構えから振り下ろす瞬間、下段から払い、そのまま袈裟懸けに首から胴に切り落とした所で勝負がついた。両方共五分と掛からない勝負だった。



 周りがシーンとする仲、東郷さんがまた要らぬことを言った。

「麗人、手抜きし過ぎよ」

 この人に一度でいいからKYって教えてあげたい。


 彼女の言葉に部員が、注目すると

「真剣だったら、この子の首と胴が真っ二つよ。坊や達」


 その言葉に細田部長ばかりでなく周りの生徒が顔を青くした。

「東郷さん、何言って…」

「あなた、秀子でしょ」


―え、ええ、えええーっ!!!

―あ、あなたーっ!!

―もう私の明日は…。


 この人なんて事言うんだ。


 東郷さんは俺の傍に寄って来ると

「冗談よ、こんな無粋な所はさっさといなくなりましょう」

「……………」


 この人怖くなって来た。

 

―――――


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