第45話 穏やかな日々は短い


 賑やかだった九月も過ぎ、十月に入った。九条先輩との土曜日午後からの肥料やりは、手間がかかったけど、先輩は変に絡んで来る事も無く終わった。


 ただ帰りに駅前のファミレスで疲れたからお茶を飲んで休んで行こうと言われた。今の時間は部活帰りの子はいないと思うけど用心するに越したことはない。


だから最初は断ったのだけど、しつこかったので目立つ声や行動はしない事を条件に一時間程付き合った。


 普通にしていれば、容姿は良いし、頭もいい。性格も良い人だと思う。だから俺みたいのに構わずに好きな人を作ればいいのにと言ったけど、本人にその気がないみたいだ。


 俺だけだと言うけど、そんな気持ちにはならないから諦めた方がいいですよと言ったのだけど、いずれ気が変わるかも知れないからそれまで待つと言われた。


 こんな他愛無い会話でも先輩は満足したらしく、そのまま素直に帰って行った。先輩が卒業するまで、まだ一年半もある。この状態が続くと思うとちょっと頭が痛い。



 日曜日、午前中は道場に行って稽古をして、午後は部屋でのんびりと本を読んで過ごした。


 月曜日、今日東郷さんは下校時だけだ。だから健吾と雫といつもの様に学校の最寄り駅で会って、そのまま学校に行った。

「麗人、もうすぐ中間考査だね」

「ああ」

「一位を狙うの?」

「順位に興味なんて無い。いつもの勉強で取れた点数が俺の実力だからそれでいいと思っている」

「麗人、そう思い通りに行くかな?」

「なんで?」


「望月さんだよ。一学期末考査で彼女一位取っただろ、あの時のセリフ。名前呼びしたければ、あなた達も麗人より上位に来なさいよ。って言っていただろう。

お前より上位になりたいと思っている人多いんじゃないか?気を抜いている訳には行かないと思うけど」

「あっ!」

「麗人、今回は、真面目に対策しないと行けなそうね」

「……………」

 考査の準備なんかしたくないのに。だけど中間考査まではまだ二週間ある。急ぐ事は無いだろう。


 

 午前中の授業も平穏?に終わり、健吾と一緒に購買に行ってお昼を買った後、教室に戻ろうとした時、前から見覚えのある女子生徒がやって来た。そう言えば会うのはプールの時以来か。


「麗人、これからお昼?」

「あの、俺の事名前呼びは」

「いいじゃない。もう名前呼びの仲でしょ」

 いつからそんな仲になったんだ。


「麗人、もうすぐ中間考査ね。楽しみにしているわ。もし私が勝ったら、次の考査まで私の彼氏をしてね」

「はぁ?そんな約束出来る訳ないじゃないですか。それに考査の結果でそんな事しません。失礼します。健吾行こう」


 俺達は教室に向うと後ろから

「約束したわよ。私の未来の彼氏さん」


 勝手に言ってろ。でも周りの子が


―ねえ、望月さんより上だったら私達も早乙女君の彼女になるチャンス有るって事?

―そう言う事になるわね。

―燃えよう。早乙女君の彼女を目指して。

―おーっ!


 また変な声が聞こえている。


「麗人、あの人。気を付けた方がいいな。本当にお前より上に行ったら、事実はともかく彼女だと吹聴しかねないぞ」

「おかしな。東郷さん効果はあの人には効かないのかな」

「らしいな」


 ふふっ、待っていなさい。偽の彼女なんて蹴散らして私が真の彼女になってあげる。


 背中がゾクッとしたような。風邪引いたかな?



 放課後の水やりも静かに終わり、九条先輩に今日は東郷さんが迎えに来ますからと言って部室を出た。何故か今日は素直に聞いてくれた。ファミレス効果かな。でもかえって気になる。



 校門に行くと東郷さんはもう来ていた。下校する生徒達が彼女を見ているのが分かる。俺が校門に近付くと手を振りながら

「麗人、迎えに来たわ」

「ありがとうございます」

「付き合っているんだから当り前よ」


 さっ俺の手を繋いで来た。周りの女子生徒が驚いた顔をしている。

「さっ、行こうか」

「はい」



 駅に向いながら

「麗人は、何処の大学に行くつもり」

「まだ一年生なので決めていません。三年の二学期の時の力で行ける所に行こうと思っています」

「ふーん、私と同じ大学にしなさいよ。麗人が入って来た時、私は四年生。色々教えられるし、いつも一緒に居れるわ」


「あははっ、俺が東郷さん行っている大学に入れる訳ないじゃないですか」

「麗人、約束!」

「あっ、秀子さん」

「駄目」

「秀子」

「うん、それで良し。麗人は頭いいから今から準備すれば問題ないわ」

 いつ俺の学力知ったんだ?


「買いかぶり過ぎです。俺なんか中の中ですから」

「嘘言っても駄目よ。麗人が頭悪いなんて想像出来ないわ。それにもし本当に出来ないなら、麗人のご両親に言って私が専属の家庭教師になってあげる」

「いや、それは…」

「いいでしょう。ご両親も私なら安心するし」

 俺が安心出来ない。


「結構です。自分で勉強します」

「あら、やっぱり出来るんじゃない。もうすぐ中間考査よね。結果教えて。それで考えましょう。悪かったら家庭教師決定よ」


 これは不味い。望月さんといい、東郷さんといい、真面目に考査受けないととんでもない事になりそうだ。


 俺は、望月さんの事は無視しても東郷さんの事は冗談には出来ないと思った。彼女は帝都大文学部だし、うちの家族からも信頼が厚い。彼女がうちの両親に話せば冗談で無くなる。せめて五位以内に入らないと。


 中間考査は範囲は広くない。だから、ケアレスをなくせば結構な点数は取れるはず。という訳で真面目に二週間勉強した。

 この間も東郷さんとの登下校は続いた。周りの視線はまだ痛いけど。



 そして迎えた中間考査。火曜日から金曜日までだ。何とかやり切るしかない。


―――――


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