第36話 夏休み 最後は九条先輩とプール


 いよいよ長かった夏休みイベントもこれが最後です。


―――――


 今日は思い切り楽しみにしていた麗人とのプールデート。彼はデートなんて思っていないけど、男女が二人だけで行くんだからデートだよね。うん。


 麗人がうちの最寄り駅で待っていてくれる。本当はプールと遊園地の両方に行きたい。そして夕方観覧車に乗って夕陽を見ながら二人で…うふふっ、なんて出来ないかなぁ。

 急ぐと失敗ばかりだし、ここはプールだけにするか。プールデートが出来れば遊園地のデートだって。



 

 俺は家を午前六時半に出た。九条先輩の家の最寄り駅まで三つだけど、早めに行っておくことに越したことは無いだろう。待たせるとまた何か言われそうだし。


 先輩の家の最寄り駅の改札に来るとまだ先輩は来ていなかった。約束の午前七時まで後十五分。


 しかし、今日も良く晴れている。この時間だというのに日差しがきつい。俺はサングラスに帽子を目深にかぶり、先輩を待っていると五分前に来た。


 ピンクのTシャツとデニム生地のホットパンツ。それに白色のかかとの付いたサンダルだ。先輩のスタイルの良さが良く分かる。


「麗人、待ったぁ?」

「いえ、今来た所です」

「そう、良かった」


 二人で直ぐに電車に乗って埼玉にあるプール付きの遊園地に向った。三日前に健吾や誠也達と行っているので気分的に楽だ。


 電車は空いていた。乗った時間も有るけど世の中もう夏休みは終わるからだろうか。

「麗人、今日は楽しみ。二人だけでプールデートだよ」


 考えればこの夏休み、二人だけで出かけるのは妹を除けば先輩が初めてだ。

「それは良かったです」

「ねえ、そういう時は、俺もだとか言ってよ」

「いやでも先輩とは…」

「麗人、先輩は無しって約束でしょ。九条さんて呼んで。出来れば静香がいいけど」

「流石に名前呼びは出来ないですよ。九条先輩」

「麗人、意地悪で言っているの?」

「あっ、そんな事は無いです。九条さん」

 心の中では先輩にしよ。


「麗人、名前呼びは駄目?ねえ今日だけで良いの。お願いだから名前呼びして」

「駄目です。九条さんを名前呼びする理由は無いですから」

「なんで?小早川君や田所君は名前呼びしているでしょ」

「彼らは俺の大切な友達です。健吾や雫とは小学校からの親友です。だから名前呼びするのは当たり前です」

「私と麗人は?」

「同じ高校の先輩と後輩です。名前呼びする理由はありません」

「麗人のケチ」

 何で俺がケチなんだ?



 先輩はそれで諦めたのか、この夏休みの事を勝手に話し始めた。家族とどこそこへ旅行に行ったとか、高校の友達と何処へ行ったとか。そして最後に

「麗人は夏休み誰と何処へ行ったの?」

「家族や仲間と一緒に遊びに行きました」

「何処へ?」

 しつこいな。


「家族とは白樺湖の別荘に、健吾と雫とは外房へ海水浴かな」

 今から行く所は三日前に言ったという事は伏せておこう。


「えっ、小早川君と東雲さんと一緒に海水浴?でも東雲さんって女の子だよね」

「あいつらは小学校からの親友です。健吾も俺も雫とは男女という事に関係無く一緒に居られます」


「でも寝る時って」

「はい、三人で一緒です」

「えっ?だ、だって。それって…」

「九条さん、何考えているんですか。全く」

「でもぅ」

 東雲さんが羨ましい。勿論異性と見られないのは悲しいけど、私も麗人の傍で寝たい。


 先輩が変な方向に話を持って行きそうだったので、後は見た映画の事とか話して話題を逸らせた。


 そんな事を話している内にいつの間にか遊園地のある駅に着いた。今日も一杯チケット売り場に並んでいる。


 俺達は、一緒に並んでプールの入場券を買うとゲートからプールのある方向へ歩いた。

「麗人、なんか慣れているみたいだけど。前にここに来た事あるの?」

 いけない。つい、勝手に歩いてしまった。


「はい、小学校の頃親と一緒に」

「そ、そうなの?」

 そんな時の事覚えているのかな?


 プールの入口でチケットを見せるとロッカールーム兼着替え室の入口に行った。


「着替えたら、ここで待っています」

「分かった」


 先輩がロッカールームに入って行くのを見てから俺も入った。この前と同じような反応をされたけどそんなこと無視して彼女を待っていると

「お待たせ」


 なんと、オレンジのビキニだ。手にラッシュガードと小物入れを持っている。

「どう?」

「とても素敵です」

「ふふっ、良かった」

「九条さん、ラッシュガード着ないんですか?」


 周りの男達からの視線が凄い。これだけの容姿を見せつけられれば、当たり前だけど。

「着るわよ。でも麗人に私の水着姿を見せたかったから」

「…………」


 どうせプールに入る時は、ラッシュガード…。そうか脱がないのか。正しい判断だな。九条さんがラッシュガードを着た後、俺達は空いている場所を探した。


「麗人、あそこは?」

 この前俺達が座った場所だ。監視員からも遠い。


「あっちにしませんか」

「あんなに人混みの中は嫌、あそこがいい」

 麗人とこれからイチャイチャしたいのに周りに人が居るのは煩わしい。


 どうしたものか。この前の経験でここはそれが目的の人が多いらしいから出来れば先輩と俺が監視員の傍で周りに人が多い所が良いと思うのだが。


「麗人、行こう」

 俺の腕を掴んで引っ張った。強引だけど仕方ない。確かに人の多い所は、座る場所も少ない。仕方なくこの前のパラソル付きの四人掛けテーブルの傍に行って準備運動軽くした。


 今日は、サングラスとサンシェードそれにラッシュガードを着たままでプールに入る事にした。こうすれば周りの人からの目も気にならない。


 でも、九条さんは、ラッシュガードを思い切り脱ぐと

「麗人は脱がないの?」

「いいです。日焼けしたくないので」

「そう」

 まだいいか。


 二人でプールに入っても泳ぐわけでもなく、何故か俺に抱き着いている。

「あの、九条さん。これって?」

「いいの、いいの」


 ふふっ、麗人に思い切り体を着けている。私はスタイルには自信がある。彼に私の体の魅力を知って貰うんだ。


 参ったな。鳩尾辺りに九条さんの胸がくっ付いている。あまり良くない状況だ。


「九条さん、泳がないんですか?」

「泳げないもの」

「じゃあ、浮輪借りましょうか?」

「いいよ、これで」

「駄目です。借りましょう」

「だったら、あれをしたい」


 指差したのはウォータースライダーだ。この状態より良いか。

「分かりました」


 俺は、一度テーブルに戻り、サンシェードとサングラスを外すして飛ばない様にして置くと二人でウォータースライダーに行く事にした。二人でプールの縁を回りながら歩いていると


―ねえ、凄いわ。あの二人。

―うん、綺麗な子(娘)が二人で歩いていると絵になるわね。

―小さい子は胸も有ってスタイルも良いけど、大きい方は絶壁よ。

―ラッシュガード着ているから下にさらし巻いているんじゃない。

―さらし取ったらバーンって感じかな。

―かもね。


 好き勝手言ってろ。男物の海水パンツ履いているだろうが。


 ウォータースライダーに着いて十分程待って順番が来ると係員が、

「一緒に滑りますか、別々に滑りますか?」

「一緒です」

 俺が別々という前に返事されてしまった。


「それでは大きな女性の方は前に、あなたは後ろに座って下さい。後ろの方は前の人のお腹に手を回してしっかりと手を握って下さいね」

「はーい」

「では、スタートです」


 右に左に回る程に先輩の胸が捩れる様に俺の背中にプレッシャーを感じる。参った。


 ザブーン、ザブーン。


「ぷふぁ、面白かった。もう一度やろう」

「別々で滑るなら良いですよ」

「ええ、同じがいい」

 どこかの子供の様な言い方をしている。


「駄目です」

「もう一度だけ、ねっ、もう一度だけ」

「もう一回だけですよ」

「うん♡」


 今度も先輩の胸のプレッシャーを思い切り感じながら滑り終わると


「きゃーっ」

「どうしたんですか」

「麗人、離れないで」

「えっ?」

 先輩が離れていた体を再度俺の背中にくっつけて来た。

「首の紐が解けちゃった。いい動かないでよ」


 先輩は胸の下に手を入れてそのままビキニを押さえる感じにすると

「麗人、ゆっくり離れて、私の後ろに回って首から解けている紐を結んで」

「お、俺がですか?」

「他に誰が居るのよ」


 仕方なくゆっくりと離れてから彼女の後ろに回って前に垂れ下がっている紐を手に取って首に巻き付けて軽く結ぶと

「もう少しきつく結んで。これじゃあ取れちゃう」


 結び終わると

「ふー、助かった。ありがとう麗人」

「…………」

 どう言っていいのか分からない。


 その後、テーブルの傍に戻って途中売店で買ったジュースを二人で飲んでいると

「ねえ、お姉さん達。二人だけなの?」


 プールの方に向けていた視線を声の方に向けるといかにもチャラそうな二人の男が立っていた。

「俺達と一緒に遊ぼうよ」

「結構です。今彼とデート中です。邪魔しないで下さい」

「か、彼?その人女性でしょ?」


 俺は立ち上がってラッシュガードの前のジッパーを降ろすと

「悪かったなぁ、俺は男だ」

「で、でも。顔が…」

「だからどうだって言うんだ!」

 少しきつい言い方をすると


「ちぇ、男かよ。行こうぜ」

「ああ」


 良かった。この程度で済んで。


 麗人の体って贅肉一つないし、腹筋バキバキ。凄い。触って見たい。

「ね、ねえ麗人」

「何ですか?」


 先輩は椅子を立って俺の所に来ると

「ちょ、ちょっとだけだから」


 いきなり俺のお腹を触った。

「す、凄い。麗人本当に凄い」

 今度は抱き着いて来た。


「せ、先輩」

「先輩じゃない。静香」

「九条さん、何しているんですか」

「静香、そう言わないと離れない」


 また、腕を腰に回されてがっちりホールドされた。不味いな。皆が見ている。

「静香さん、離れて下さい。皆が見ています」

「いい。えっ静香?!」

 腕が緩んだ隙に後ろに回した腕を解くと


「止めて下さい。こういうことは」

「ごめんなさい。でも私、麗人の事が好きで。こういう風にしていたい」

「…………」

 答えようがない。


「とにかくここでは駄目です」

「えっ、他なら良いの?」

「言葉の綾です」

「私はいいけど」

「…………」



 そうこうしている内に時間は過ぎ、お昼を一緒に食べて、少し休んだ後、流れるプールに行った。今度は浮輪を借りている。


 先輩は、お尻を浮輪の中に入れ、足を外に出して、手で水をピチャピチャしている。ゆっくり流される浮輪に乗りながら

「麗人、浮輪を持って押して」

「はい」

 俺は、足側の浮輪を持ってゆっくり押していると

 えっ、足が滑った。そのまま俺の体が前に倒れ込み、顔が彼女の胸の辺りに


「「うわっ」」


 なんといきなり俺の頭を抑え込んで来た。

「ふふっ、麗人。そんなに私の体に触りたいの。いいわよ、今から行っても」


 先輩に頭を押さえられて顔が彼女の胸に押し付けられている。息が出来ない。強引に彼女の手を退けると

「何するんですか」

「でも、麗人気持ち良かったしょ」

「そんな事有りません」


 それから強引に浮輪を押すと

「きゃーっ」


 浮輪のバランスが崩れて、見事に彼女が水の中に、お返しだ。

「もう酷いじゃない」

「あっ、すみません」

「わざとでしょ?」

「ソンナコトナイデス」

「なんで棒読みなのよ」



 それからも少し遊んだ後、俺達はプールを後にした。もう午後三時半を回っている。駅のホームで電車を待ちながら

「麗人、今日はありがとう。とても楽しかった」

「それは良かったです」

 

 本当は麗人に告白したい。でも断られるのは目に見えている。実績でも作ればいいのだけど、そんな事出来るはずもない。


「麗人、私って魅力ない?」

「そんな事無いですよ。九条さんは綺麗だし、スタイル良いし」

「本当にそう思う?」

「嘘ついてどうするんですか」

「そう、良かった」

 全く可能性ゼロじゃなさそう。今はこれでいい。



 俺達はそのまま電車に乗った。乗って直ぐに疲れたと言って俺の腕にしがみつく様に頭を寄せて来て目を閉じてしまった。

 悪い人じゃ無いと思うけど…。好きだと言われても俺はそういう感情を持ってないし。


 そもそも自分がこういう容姿だからか、女性にあまり興味を持てない。九条さんだって、後一年半もすれば卒業する。それまでは良い先輩で有ってくれて欲しい。ちょっとだけ、彼女の頭を反対の手で撫でた。柔らかい綺麗な髪の毛だ。


 ふふっ、麗人が私の頭を撫でてくれている。嬉しい。



―――――


 何とか、夏休みシーズンも終りです。次話からは二学期。最初から大変そうです。何と言っても二学期はあれが有りますから。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひ作品へのフォローとご評価★★★を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。


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