第32話 夏休み 家族で旅行でも偶然が続く


 健吾と雫と楽しい夏休み旅行をした後、家で二日ほど休んだ翌日、学校へ水やりに行った。

 九条先輩が校舎裏の花壇で先に一人で草むしりをしている。大きな麦わら帽子に長袖のシャツ、それにジーンズ姿だ。靴は花壇に入るゴム靴に履き替えている。


「先輩、遅れてすみません」

「いいのよ。少し先に来たから。麗人、今日は先に草むしりしましょう。大分生えて長くなっている」

「分かりました」



 先輩が先にやっていたとは言え、二十分ほどかかった。その後、水をやってから校門の所の花壇の所に行って同じように草むしりと水やり。こちらは三十分以上かかった。日当たりが良い分だけ草の伸びが良いようだ。


 草の入った大きなビニール袋とジョーロとリールフォルダを持って一度園芸部室兼倉庫に戻って、ジョーロとリールフォルダを仕舞うと

「俺、草を隣の校舎裏の焼却炉の所に置いて来ます」

「お願い」


 隣の校舎裏の焼却炉に行って、プラスチック箱に入れて帰る時、チラッと焼却炉の傍に建つ倉庫を見たが、あいつが出てくることは無かった。当たり前か。あいつあの後どうしたのかな?



 園芸部室に戻るとドアを開け放したまま、九条先輩が中で待っていた。

「ご苦労様。帰ろうか」

「はい」

 駅まで一緒に歩いたけどお昼食べようとか誘われる事も無く、


「じゃあ、今度は二十一日ね。じゃあね麗人」


 そう言って先輩は改札の中に入って行った。らしくないけど俺にとっては都合がいい。明日から家族で旅行だからな。



 麗人が反対のホームに立っている。本当は抱き着きたい位だけど、今回は止めた。次の水やりの時に来なくなったら大変だと思ったから。それに二十五日は二人きりでプール。その時は、ふふふっ。




 翌日は、朝早く午前六時には家を出た。お父さんの運転する車で長野県白樺湖にある別荘まで行く。高速道路を使えば、三時間とちょっと。途中休んでも四時間位で着く。

 急ぐ理由は無いが、朝早く出ないと中央道が混むからだ。


 途中、双葉SAで朝食を摂った後、休んでから白樺湖の別荘に向った。我が家の別荘は白樺湖の別荘地にある5LDKの別荘。庭でBBQも出来る。


 両親が、土地も一緒に購入して新規に立てた別荘だ。来ない時は管理人さんに維持を任せている。夏だけでなく秋や春もいい。



 一度、管理人さんの家に行って挨拶とお土産を渡すと、とても喜んでくれた。その後別荘に向った。



「麗人、美麗。自分達の荷物を入れたら、簡単に掃除をしてから食材を買いに行くぞ」

「「はーい」」


 ここに来ると特に顔を隠すとかしない。こういう所はそれなりの人が一杯いるし、ちらとは見られるけど、そんなに気にしていない様だ。

 お母さんも仕事の時のお化粧ではないので少しいつもと違って見える。


 買い物と言っても一般スーパーとかに行く訳では無い。別荘所有者用のスーパーが有って、それなりの食材をちょっと高いけど用意してくれている。


 今日のお昼と夜、それに明日の二食分と明日の夜のBBQ、帰る日の朝食分は中途半端な量ではない。


 それにお父さんとお母さんのワインやビール、それに俺達のジュースと飲料用の水もだ。別に別荘の水が飲めないという事ではないが、仕事柄仕方ないところ。


 大きな段ボール箱二つと小さな段ボール箱一つ分ある。これはお店の人が直ぐに届けてくれる。


 今日のお昼分だけ自分達で持って帰ると、美麗とお母さんがキッチンに入って昼食を作ってくれる間、俺とお父さんは、別荘の周りを見て、壊れた所や木が倒れていないかとか、管理人さんが見てくれているとはいえ、やはり自分達で見て回る。


 そうしているうちにスーパーの人が食材の入った大きな段ボール二つと小さな段ボールを持って来てくれたので、それをキッチンの中にある大型の冷蔵庫と冷凍庫に分けて入れて取敢えず完了だ。



 お昼を外の良く見えるリビング兼ダイニングでのんびり摂っているとお父さんが

「麗人、美麗。今日はこのまま周りを散策するか。明日と明後日は自由だが、どうする予定だ?」

「お兄ちゃんどうする?二人で動かないと不味いよね」

「そうだな。美麗の行きたい事やしたい事を言ってくれたら、その後、俺が言うよ」

「それって狡くない。先にお兄ちゃんが言ってよ」


「いや、俺は散策したいし、湖畔でのんびりしたいし。そうだ、レンタル自転車借りよう。行動範囲が広くなる」

「それ良いわね。散策も一緒でいいでしょ。それに自転車借りれば結構動けるものね」

「お父さん、大体そんな所」

「そうか。明日の夜はBBQだ」

「「うん」」



 昼食をのんびりと食べて、お母さんと美麗が食器を洗い終わってから、美麗と一緒に散策に出かけた。


 夏だけどここは結構涼しい。特に木々に囲まれた道を歩くと長袖でないと寒く感じる位だ。


 美麗と他愛無い話をしながら歩いていると向こうから女性二人が歩いて来る。どこかで見た事有る様な気がしたけど思い出せないのでそのまま素通りをしようと思った時、

「早乙女君!」


 いきなり名前を呼ばれた。

「お兄ちゃん知合い?」

「…………」

 誰だっけ?


「えっ、私の事覚えて無いの?」

「すみ…。あっ。八頭先輩」


「良かった。覚えていてくれて」

「奇遇ね。こういう所で会うなんて。うちの別荘が近くにあるの。早乙女君の所も近く?」

 まさか、こんなに近くに知っている人の別荘があるなんて。


「えっ、まあ」


「音江。誰?」

「同じ学校の一年生で早乙女麗人君」

「君?女の子じゃないの?」

「ふふっ、我が校の美少女No1の男の子」

 うん?どこかで聞いたような。


「お兄ちゃん、行こう」

「ああ、そうだな」

 なに、〇塚の男役みたいな女の人がいきなりお兄ちゃんに声掛けて来るなんて。それに失礼なことも言うし。


「先輩、失礼します」

「あっ、ええ。またね」



 参ったなあ。毎年会っていたのかなぁ。全然知らなかった。

「お兄ちゃん、あれも学校の人?」

「うん」

「お兄ちゃんの学校の人って、この前家に押しかけて来た人もそうだけど、失礼な人ばかりね。学校変えたら」

「いや、それはちょっと」

 健吾と雫と一緒に入ったし。



「音江、綺麗で可愛い子ね。本当に男の子なの。隣にいた子もとても可愛かったけど」

「うん、男の子…のはず。頭が良くて一学期末考査は二位。中間が一位。背が高くて綺麗で武道も習っている完璧な子。

うちの学校ではファンクラブもある位よ。学校の女子ばかりでなく男子にも大変な人気の子」

「そうなの凄いわね。でもあの子どこかで見た様な気がする。どこだったかなぁ」



 八頭先輩と偶然会ったのは驚いたけど、海での新垣先輩といいどうなってんだ?


―――――

 

 まさかの八頭音江との遭遇です。もう一話続きます。


 夏休みイベントまだ続きます。この家族旅行や田所達とのプール、それに九条先輩とのプールです。

 でもどれも何事も無くは行きません。お楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひ作品へのフォローとご評価★★★を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。


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