第33話 夏休み 家族で旅行でも偶然が続くその二


 昨日は、偶然八頭さんと会ったけど、今日は美麗とレンタル自転車で湖の周りを回る。流石に今日は会わないだろう。


 俺達は、お父さんに車でレンタル自転車のお店まで連れて行って貰って自転車を借りると

「お兄ちゃん取敢えず、湖の周りを回ろうか」

「そうだな」


 一周約四キロのコースだ。のんびり走っても三十分位だ。日差しが強いので美麗も俺もサングラスを掛けている。顔に当たる風が気持ち良くて気持ちいい。


 並走して走っているとボート乗り場が有った。流石に二人では乗らないけど、急ぐ事も無いので、そこで一休み、あまり走っていないけど。


 美麗と二人でボート乗り場の傍のベンチに座っていると遠目にこちらを見ている人が居る。

 流石にここはスカウトやナンパはいない様だ。見られるだけなら慣れているのでそのままにしていると

「お兄ちゃん、あれ」


 美麗が指差す方向を見ると八頭さんと昨日一緒にいたお姉さんと呼ばれる人が居た。ボートに乗るらしい。それも二人で両足で漕ぐタイプだ。


「へーっ、二人で乗るんだ」

「まあ、普通じゃないか」

「でもあの年で白鳥のボートだよ」

「まあ、人それぞれだから」


 見ていると八頭姉妹が乗ったボートが動き出した。


「美麗、行くか」

「うん」



 やはり約四キロしかないコースはゆっくり走っても三十分位で元の場所に戻って来てしまった。


「お父さん達と待ち合わせには、まだ一時間ある。どうする?」

「うーん。今度は歩いてみる。ちょうど一時間位だろう」

「えーっ、今、自転車で走ったばかりじゃない」

「途中に在ったガラス細工工房とか見て帰って来る?お昼食べたら二人でカヤック乗ろうよ」

「そうね。湖の上ならジロジロ見られる事も無いし」

「よし、そうするか」


 俺達は、レンタル自転車を返して、歩いてガラス工房に行った。歩いても十分位しかかからない。

 そこで三十分位見学した後、元の場所に戻ってお父さんにピックアップして貰い、一度別荘でお昼を食べた。


「麗人、午後はどうするんだ?」

「美麗と一緒にカヤックに乗ろうと思っている」

「そうか、お父さん達は、近くの温泉に浸かろうと思っているが」

「温泉かぁ」

 美麗の顔を見ると反対の顔をしている。気持ちは分かる。


「いいよ。二人でいる」

「そうか。では、また車で同じ場所に送るからそれでいいか?」

「うん、そこから歩いても二十分位だし、っていうか温泉からカヤック乗り場まで歩いて五分位だよ」

「そうだな。じゃあ、温泉まで一緒に行くか」

「うん」


 俺達は、昼食をのんびり食べた後、両親が行く日帰り温泉のそばで降ろして貰った。


 まあ、ここまで家族のんびりで良かったんだけど…。カヤック乗り場に行ったら人気が有って二十分待ちだという。仕方なしに待っていると


 えっ、なんで。八頭さん姉妹がこっちに歩いて来た。


「早乙女君達もカヤックに乗るの?」

「ええ、まあ」

「ふふっ、良かった。並走しようか」

「いえ、結構です。八頭さん達は自由に乗って下さい。俺達も勝手にするので」

「えっ、でも」


「音江、ああ言っているんだからそうしましょう」

「えーっ。でもお姉さん」

「いいじゃない。でも二人とも本当にお母さんそっくりね」

「「えっ!」」


「何を驚いているの。君達、霧島花蓮さんのお子さん達でしょ」

「え、え、ええーっ?!」


 このお姉さん、こんな所で何てこと言うんだ。周りの人が一気に注目したじゃないか。

「早乙女君、それほんと?」

 

 俺が何も言わずに黙っていると

「早乙女さん、カヤックの用意が出来ました」

 

 良かった。

「美麗、直ぐ乗ろう」

「うん」


 さっと、カヤックに乗って岸を離れた。

「参ったわね。あの人。あんな所であんな事言わなくてもいいのに」

「俺も参った」


 早乙女君が、霧島花蓮の息子。綺麗で可愛い理由が分かった。でも彼はなぜ女性の様な、いえ女性の風貌をしているんだろう。

 そんな事は関係ない。益々彼に興味を持ってしまった。この事は私だけのそう私だけが知っている秘密。

 ふふっ、必ず彼を捕まえて見せる。二学期が楽しみだわ。




 これで九条先輩だけでなく八頭さんに素性がばれてしまった。二学期静かでいてくれるといいんだけど。


 カヤックであまり岸から離れないぎりぎりの所を二人でゆっくりと漕いだ。まさかここまで追ってこないだろう。


 最初の十分位はのんびりと美麗と景色の話題をしながら湖面の上をスイーッという感じで滑る様に走っていると


「早乙女くーん」


 嘘だろう!

「美麗。逃げるぞ」

「うん」


「待ってよーっ」

「無視だ」

「うん」


 まさか、白樺湖の上で逃走劇?を演じる羽目になるとは思わなかった。

「はぁはぁ、お兄ちゃんもう大丈夫だよ」

「はぁはぁ。そうだな」


 八頭さん達のカヤックは、遥か遠くにいる。諦めたようだ。向こうも肩で息を切らしているのが分かる。


 結構遠くに来たので八頭姉妹のカヤックに近寄らない様にしてゆっくりと景色を見ながらカヤック乗り場に逃げた?


 結局待つ時間も入れると丁度一時間。歩いてお父さん達の日帰り温泉に行くと、まだお父さん達は出て来ていなかった。

「美麗、待つか?」

「そうするしかないね」


 

 三十分位、景色を見ながら温泉の傍をぶらぶらしているとお父さん達が出て来た。俺達の顔を見ると

「麗人達、少し早いが、BBQの用意するか?」

「「うん」」


 これで、あの人達と会う事もない。



 午後四時位から始まった我が家のBBQ。毎年行っているが、本当に楽しい。普段こんな形で四人で食事をする事はないので、両親も美麗も思い切りの笑顔だ。


 二時間位して、残った肉類は焼いてから片付けた。リビング兼ダイニングで、お父さんとお母さんは二次会をするらしい。


 俺と美麗は順番にお風呂に入るとそのまま一度リビングに戻ってお父さんとお母さんのお話に付き合って、午後十時に解散となった。


 翌日は、中央高速が混むのが嫌なので、午前十時には別荘の使った食器の片付けと再度別荘の周りを見てから管理人さんの家によって、挨拶をして帰路に着いた。


 八頭さんとの遭遇が有ったけど、お父さんやお母さんとこんなに話したのは、いつぶりだろう。とても楽しかった。大切な妹の美麗とも一杯遊べたし。


―――――


 夏休みイベントまだ続きます。田所達とのプール、それに九条先輩とのプールです。

 でもどれも何事も無くは行きません。お楽しみに。


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