第31話 夏休み ふふっ、見つけた


 前話の続きです。


―――――


 俺達は一度部屋に戻ってから着替えを持って大浴場に行った。最上階にある大きなお風呂だ。ここのホテルの売りでもある。


 一度シャワーを浴びて塩水を体から落として湯船に浸かった。

「麗人、気持ちいいなぁ」

「ああ、景色も最高だ」


 ここだけは、俺も健吾も裸で…当たり前だけど湯船に浸かっている。首だけ出していると、新しく風呂に入って来た男性がぎょっとして俺の顔をジッと見た後、洗い場にいく。


 そして、俺と健吾が風呂から上がると、もう一度俺を見て、またぎょっとする。まあ仕方ない。俺は男だーってどこかで聞いたセリフが頭の中に流れるが、仕方ない。


 体を洗い終わって、また湯船に入った後、洋服を着て部屋に戻った。二人共新しいTシャツと短パンだ。


 部屋に戻ると雫はまだ帰ってきていない。まあ女性の方が長いのは仕方ない。風呂から部屋に来る途中自販機で買った炭酸ジュースを健吾と二人で飲んでいるとに十分位して雫が戻って来た。

 雫はノースリーブシャツと白いショートパンツだ。少しだけ肌が赤くなっている。


 まだ、時間は午後四時半だ。

「ねえ、港でも見に行かない?」

「いいな。行こ行こ」

「ああ」


 三人で、ロビー階に行って受付フロントに行こうとした時、

「あっ、早乙女君」


 顔を声の方向に向けると

「えっ!新垣生徒会長。どうして?」

「どうしてもないでしょ。家族とここの海に遊びに来ただけよ」


「優子、誰?」

「あっ、お母さん。学校の後輩の早乙女君、小早川君、東雲さん」

「あら、可愛いお嬢さんかと思ったら、男の子?」

 まあ、そうなるな。


「うん、早乙女君は星城高校で美少女No1の男の子」

 どういう説明しているんだ。


「三人でこれからどこ行くの?」

「港に散歩です」

 雫が応えると


「そう、今日は泊まるんでしょ。明日一緒に遊びましょう。じゃあねぇ」


 家族で有ろう男性と女性、それに新垣さんより年上の若い男性がエレベータに向った。


「なんか、予想外だな」

「ああ、明日は気を付けるか」

「うん」



 俺達は港に行って、今上がって来たばかりのアワビやサザエ、伊勢エビやスーパーでは見た事のない魚が入ったいけすを見てから堤防を散歩してホテルに戻った。これぞ海って感じだ。



 午後六時からレストランで食事になったが、三人で座った席のテーブルにはこれでもかという程の海の幸の料理が並んでいて俺達でも十分にお腹が一杯になった。



 部屋に戻ってからお布団を敷く。そう自分達で敷くのがまた楽しい。毎年のように三人でくっつけて敷いて、真ん中が雫、俺は右、健吾が左だ。ずーっと前からこうして寝ている。



 

 カーテンは閉めて有ったけど、窓からカーテンを通して差し込む太陽の光が強くて目が覚めてしまった。

 健吾と麗人はまだ寝ている。二人とも上品な姿だ。もしかして私が一番酷い格好していたかな。でもジャージは乱れて無いから大丈夫か。しかしいつもこの二人の寝顔は可愛い。


 スマホの時計を見るとまだ午前六時半だ。お布団の上でゴロゴロしていると二人の目が覚めた。

 健吾は思い切り手足を伸ばしながら

「うーっ、雫。おはーよう」

「健吾、おはよ」


 今度は麗人が手足を思い切り延ばしながら

「ふわぁ、おはよう。健吾、雫」

「「おはよ、麗人」」


 まだ三人共浴衣替わりのジャージのままだ。

「今何時?」

「健吾、まだ午前七時前だよ。朝食が午前八時だからまだ三十分以上寝てられる」

「「そうっかぁ」」


 健吾と麗人がまた目を閉じてしまった。私も少し寝るかな。



「雫起きろ。もうすぐ午前八時だ」

「えっ?」


 どうも三人共、あれから一時間近く寝てしまったらしい。三人で急いで顔を洗って着替えて二階のレストランに降りて行って中に入ると一斉にこっちを向いた。

「あっ!」

「麗人、何も被っていない」

「はぁ、急いでいて忘れた」

「仕方ないさ。とにかく朝食を食べよう」

「ああ」



 周りから凄い視線を浴びながらビュッフェスタイルの朝食のおかずを取っていると

「ふふっ、ここでも凄い注目ね。早乙女君」

「あっ、生徒会長おはようございます」

「ここで生徒会長は止めて」

「そうですか生徒会長」

「意地悪で言っているの?」

「いえ、違います新垣さん」

「もう」


 一通りおかずを取って自分達の席に戻ると

「麗人、朝からだな」

「ああ、運が悪い」

「仕方ないよ。同じホテルなんだから」



 俺達は朝食を摂った後、部屋で少し休んでから昨日と同じ格好して受付フロントに鍵を預けに行ったのは良かったのだけど、偶然?に新垣さん親子と会ってしまった。


「あっ、早乙女君。これから」

「はい」

「じゃあ、一緒に行く」

「いえ、新垣さんのご家族の都合もあるでしょうから」

「お父さん、お母さん。早乙女君達と一緒で良いよね」

「私達は構わないが」

「じゃあ、そういう事で」



 俺達は先を歩きながら

「まさか、ここで会うとはな」

「もう仕方ないだろう」

「偶然は避けられないよ」


 昨日と同じ場所で海の家からパラソルを借りて立てて貰うと雫がシートを敷いた。


 新垣家族もほとんど隣の位置にパラソルを立ててシートを敷いている。ボンボンベッドとかいう奴も一つ借りて置いてある。



 俺達が昨日の様にサンシェードとサングラスを外してビーチサンダルを脱いで海に行くと新垣さんも付いて来た。

 はっきり言って結構なスタイルだ。いつもの長い髪はそのままにしてある。


「早乙女君、ラッシュガードは脱がないの?」

「ええ、日差しが強いですから」


 残念。早乙女君のナマお腹見れたのに。それにもしかしたら胸膨らんでいるのかな?


「新垣さん、なんか変なこと考えていませんでした」

「えっ、ソンナコトナイワヨ」

「なんで、棒読みなんです」


 ここまで来たら仕方ないと新垣さんを含めて四人で遊ぶことになった。でも彼女が入ってくれたおかげで水かけや鬼ごっこが女性二、男性二で結構楽しく出来る。これはこれでいいかも。


 一時間近く水の中で遊んだので、今度は波打ち際で遊ぶことにした。穴を掘って海からの水を防ぐ堤防を作ったり、砂団子を作って誰が一番大きいかを比べたりしながら遊んでいると結構時間が経った。


 四人で一緒に居ると流石に声を掛けてくる人はいない。これは結構使える手だ。



 この後、水の中に入って水着に入った砂を落としてからパラソルに戻って頭を拭いてシートに座ると新垣さんのお父さんが

「君、芸能界に居るの?」

「いえ、ただの高校生です」

「そうか、私の好きな女優で霧島花蓮という人が居るんだが、よく似ている気がしてね」


 その瞬間だけ健吾と雫と顔を合わせて驚いた。声は出さなかったけど。だけど、新垣さんが、爆弾発言した。


「言われてみると早乙女君って、確かに霧島花蓮に似ているわね」

「そ、そうですか。俺、あまりテレビとか見ないので分からないです」


 これは不味いな。

「健吾、雫。お腹空かないか」

「「空いた」」

「じゃあ、今日は海の家で食べようか」

「「そうしよう」」



 俺達は三人共サンシェードとサングラスを付けて海の家までいった。昨日の女の子が

「今日は中ですか?」

「うん」

「じゃあ、あそこの四人掛けテーブル席でお願いします」


 今日は俺と健吾がかつ丼と親子丼、雫がカレーを頼んだ。後アメリカンドッグとソーセージも。


 海水浴場の景色と海を見ながらこういう食事をするのはやはり夏ならではだ。三人で他愛無い事を話しながらゆっくり食べてからパラソルに戻ると新垣家族もどこかで食べているのか、パラソルとシートはそのままに誰も居なかった。


「健吾、雫。行くか」

「おう」



 直ぐには海に入らずに波打ち際で海を見ながら三人でのんびり立っていると

「麗人あれ」


 健吾が指差した方を見るとなんと新垣さんが三人の男からナンパされている。家族は一緒に居ない様だ。


「まあ、モテるからな」

 そのまま、三人で様子を見ていると、あっ、一人の男が彼女の腕を掴んだ。周りの人は見て見ぬふりをしている。


「健吾、雫。ちょっと行って来る」

「いいのか?」

「仕方ないだろう。知合いなんだから」

「じゃあ、俺も行く」

「私も」



 俺は、嫌がる新垣さんの腕を掴んでいる男に

「おい、嫌がっているだろう。放してやれ」

「なんだ。てめえは?」

「その人の知合いだ。放してやれ」

「うるさい!女が口を出すな!」


 何故か隣の男が殴りかかって来た。ここでそれするか。簡単に避けるとそのまま腹に膝蹴りをしてやった。


 ぐぇ!


 まだ離さない男の腕を掴もうとすると蹴りを入れて来たのでそれを払うと掴んでいる腕の親指を掴んで捻じ曲げた。


「いてぇ。や、止めろ」

「折ってもいいか」

「や、止めてくれ」

「じゃあ、もうこの人にかまうな」


ーすてきー。

―私もあんな綺麗な人に助けられたい。

ーそれに可愛いわー。いいわねー。


 俺は男だってーの!



 強い。早乙女君ってこんなに強い人だったの。


 三人の男が去ったので

「新垣さん、どうして一人なんですか?家族は」

「助けてくれてありがとう早乙女君。お兄さんと両親はまだ食事している。私は海を見ていたらあの人達に絡まれて」

「そうですか。気を付けて下さいよ」


 去ろうとすると

「ねえ、また一緒に遊んで」


 俺は健吾と雫の顔を見ると仕方ないという顔をしていた。それから午前中の様に四人で遊んでパラソルに戻ると新垣さんのご両親がいた。男の人はいない様だ。


 体をタオルで拭いていると後ろから声を掛けられた。

「君強いね。妹を助けてくれてありがとう」

「あっ、お兄さん。どこ行ってたのよ。早乙女君が助けてくれなかったら大変だったのよ」

「いや、食事が終わってお前を探していたら人だかりが出来ていて、そこに行ったらこの子が優子を助けていたから、見物させてもらった」

「酷い。それでも兄なの」

「嫌だって、この子滅茶強いじゃん。俺が出る必要もないと思ってさ」


 なんて事言うんだ。この人は。


「優子、どうしたんだ?」

「えっ、ちょっと有って、早乙女君に助けて貰ったの」

「でも、女の子なのに強いな」

「男です!」

「「「えっ!」」」


 兄と、両親が驚いている。昨日男だって紹介されなかったっけ。


「なんだ、ラッシュガードを脱がないのは晒しでも巻いているのかと思った」

「お兄さん、早乙女君は男物の水着着ているでしょう」

「いやぁ、それは今時だから」


 なんて誤解するんだ。


「健吾、雫。ホテルに戻ろう」

「ああ、その方がいいな」

「そうしよう」


「あの、ごめんなさい。早乙女君」

「いいです。いつもの事ですから」


 あーぁ、助けて貰って一緒に遊んでいい雰囲気になったのに。


「お兄さんの馬鹿!」

「えっ、俺が悪いの」

「早乙女君達が戻っていったじゃない。せっかく一緒に遊べたのに。学校では、あの子に近付くのさえ難しいのよ」

「えっ?!そ、そうなのか」

「そうなの!」

 でもこれで早乙女君に近付けるきっかけが出来たかも。

 


 俺達は、新垣さんの件でちょっと有ったが、そんなに気にしてはいない。いつもの事だ。帰って来たのは、もう疲れた事もある。


 昨日の様に最上階の大浴場で海を見ながらゆっくりと風呂に入った後、部屋に戻って休んだ。雫は昨日と同じ様に十分遅れで部屋に戻って来た。



 夕食時間まで体を休めた後、食事をしてホテルの近くにあったお店で花火を買って浜辺に出かけた。


 手持ちの花火や、打ち上げ花火をして最後は線香花火で勝負。花火の光に映る健吾や雫の顔が嬉しそうに輝いて見える。この二人が友達で良かった。


 次の日は、泳がずに港を見たり、浜辺を散歩して昼前の特急で東京に帰った。ちょっとだけ色々有ったけど、とても楽しい時間だった。


―――――

 

 夏休みイベントまだ続きます。家族旅行や田所達とのプール、それに九条先輩とのプールです。

 でもどれも何事も無くは行きません。お楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひ作品へのフォローとご評価★★★を頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。

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