第27話 夏休み 九条先輩は我儘です
俺は自室で夏休みの宿題を始めようとしたところでスマホが震えた。画面を見ると九条先輩だ。画面をタップして出ると
「麗人、私」
「何ですか?夏休み入ったばかりなのに」
「ねえ、夏休みの宿題はどうするの?」
「自宅でやります」
「私も一緒じゃ駄目かな?」
「何言っているんですか。もう切りますよ」
「ま、待って。お願い。麗人の家でも私の家でも良いわ。一緒にやろう」
「やりません。一人でやって下さい」
ガチャ!
馬鹿らしくて話してられない。あの人どういう頭しているんだ。あっ、また掛かって来た。
「先輩、一人でやって下さい」
「違うの。プールの件だけど八月二十五日でいいんだよね」
「はい、そのつもりです」
「何処にする?」
「埼玉にある遊園地と一緒のプールにしようと思います。ここからなら一時間半位で行けるので。もし先輩が行きたい所有るならそちらでもいいですけど」
「ううん。麗人が選んだ所がいい。プールの事は分かった。ところでさっきの話だけど」
ガチャ!
切られちゃった。いいじゃない。少し位一緒に居ても。私は居たいのに。でも七日は一緒に水やりが出来る。その時、会えるか。
でもなあ、学校では毎日会えていたから、半月近く会えないのはきついな。なんかいい方法無いかな。
俺は、九条先輩からの理解出来ない連絡の後は、宿題に集中した。家には俺しかいないから静かでいい。
そんな状況が四日ほど続いた二十五日。宿題は半分を少し終えた所だった。
ピンポーン。
誰だ?こんな時に。机の上にある時計を見るとまだ午前十一時だ。一階に降りて玄関に行き、テレビカメラで門の外を見ると、えっ?!先輩。何でここ知っているんだ。
手には、大きなバッグを持っている。
ピンポーン。
居留守使うか。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
うるさいなぁ。仕方なく家の中から門の鍵を開けて
「鍵開けましたから入って下さい」
あっ、麗人が居た。半分賭けで来てみたけどラッキーだ。お母さんには感謝。
俺は玄関の鍵も開けてドアを開くと
「麗人、来ちゃった」
「どうしてここが?」
「ふふっ、それは後で。暑いから中に入れて」
外は暑い。仕方なく
「どうぞ」
玄関に入れたが上がらせてはいない。
「どういう事ですか。ここは知らない筈ですけど」
「ふふっ、ちょっとね。ねえ、上がらせてよ。玄関で立っているだけなんて酷いよ」
「勝手に来た人が悪いんです。何しに来たか知りませんが、今忙しいんです。帰って下さい」
「えーっ。それないよ。せっかく来たのに」
「俺はそんな事知りません」
二人で玄関の上り口で話していると
ガチャ。玄関が開いた。
「あっ、お母さん」
この人が麗人のお母さん。早乙女花蓮。テレビで見るより全然綺麗。
「あら、麗人。お客様?」
「いや、学校の先輩」
「そう、上がって貰ったら。ここで立ち話も良くないでしょ」
お母さんから言われたのでは仕方ない。先輩に上がって貰いリビングに行こうとした時、
「ねえ、あなた、名前はなんて言うの?」
「挨拶が遅れてすみません。九条静香と申します」
「九条?…もしかして美里ちゃんのお嬢さん?」
「はい、叔母様の事は母から聞いております。母がまだモデルをしていた頃、とても仲良くして貰っていたと言っておりました」
「美里ちゃんとは、お互い女子高生だったから色々な話をしたわ。そう、お母様に良く似て綺麗ね」
「あの、お母さん、どういう事?」
「麗人には、話してなかったわね。私がまだ高校時代にモデルをしていた時、友達になったのが、広瀬川美里(ひろせがわみさと)ちゃん。今は結婚して姓が九条になったのよね」
「はい」
「先輩、この事知っていたんですか?」
「ごめん。前から知っていた」
「だから、俺に近付いて来た」
「そんな事ない。絶対にない。私は…」
「麗人、立ち話もなんだからリビングにお連れして。今紅茶を出すわ」
「お母さん、仕事は?」
「午後三時にまた出かけるわ。麗人とお昼食べれるかなと思って帰って来たの」
もうこうなったら仕方ない。俺は先輩をリビングに案内すると
「先輩がうちを知っていたのは分かりました。でも急に来た理由は何ですか?」
「麗人と一緒に夏休みの宿題したかったの」
「…………」
どうするかな。一年と二年では範囲も違うし。一緒に居ても意味無いだろう。
「麗人、一緒に居させて」
「でも…」
「あら、いいじゃない麗人。美里ちゃんのお嬢さんなら安心だし。一緒に勉強したら」
どこが安心なんだ。
「あら、もうすぐお昼ね。静香ちゃん、一緒に食べるでしょ」
「はい」
はぁ、どうするんだよ。今日の午前中の予定が飛んだよ。
お母さんが作ってくれたお昼を三人で食べた後、仕方なくリビングで夏休みの宿題を始めた。俺の部屋に連れて行く訳には行かない。
宿題を初めて二時間。先輩は、真面目にやっている。変に俺に話しかけても来ない。これならいいか。
ふふっ、やっぱり麗人の傍が良い。何も話さなくてもこうしているだけで何故か安心する。明日からも一緒に出来るといいな。
「麗人、お母さん、お仕事に出かけるわね。静香ちゃん、麗人を宜しく」
「はい!」
また、何て事言ってくれるんだ。先輩は絶対冗長するよ。
お母さんが、出かけた後、
「ふふっ、麗人のお母さんから君の事宜しくって言われちゃった」
「先輩、あれは挨拶代わりです。意味はありません」
「そうかしら?私はそうは思わないわ」
「先輩、宿題しないなら帰って下さい」
「えーっ、分かったわよ。仕方ないなぁ」
午後五時になった。
「先輩、もう午後五時です。帰った方がいいんじゃないですか」
「うーん、ここからなら三駅先なだけだからもう一時間やって行く」
「そうですか」
もうすぐ美麗も帰って来る。不味いな。絶対に誤解する。
少しして
「ただいまー。あれ女の人の靴?お母さんのじゃない」
不味い。こっちに来る。
「お兄ちゃん、ただい…。誰?」
「俺の高校の先輩の九条静香さんだ」
「えっ、どういう事。お兄ちゃん一人で勉強していたんじゃないの。家族が居ない間に女の人を家に上げるなんて」
「ち、違うんだ。これには事情が」
「妹さん?」
「はい、美麗と言います」
怖い目で見られている。でもお母さんそっくりというか麗人にもそっくり。とても可愛い。
「ごめんなさい。私がいきなり来てしまったの。私の母とあなたのお母さんは昔、一緒にモデルをしていて仲が良かったの。それで家を知っていて」
先輩が、さっきお母さんと話していた事を美麗に説明した。
「そういう事か。でもなぁ。我が家に家族以外の人が入るなんて」
どうも妹さんには歓迎されてないらしい。
「麗人、私ももう帰るから」
「えっ、ああ」
いきなり来て、麗人のお母さんがタイミングよく帰って来て、最初は上手い具合に行っていたけど、妹さんが帰って来るとは予想外だった。妹さんがいるとは聞いていたけど。
明日も麗人と一緒に宿題したいけど、難しいかな。妹さんに嫌われたくないし。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。
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