第26話 夏休みに入りました
この話から夏休みイベントが続きます。麗人へのアタックを色々な人が色々な方法で仕掛けてきます。お楽しみ下さい。
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終業日に草むしりと水やりをして終わったのが、なんと午後二時。三人共昼食を摂っていなかったので、そのまま駅前のファミレスに入る事になった。
ここに九条先輩と入るのは二回目だが、今回は佐久間さんもいるので、周りから変な誤解は受けないだろう。それにあの時の様な事はもうしないだろうから。
俺達は注文をした後、ドリンクバーからジュースを持って来て座ると、九条先輩がいきなり
「麗人、夏休みのプールいつ連れて行ってくれるの?」
「えっ?プ、プール?」
そりゃ、佐久間さん驚くよな。
「先輩、俺から連絡するって言ったのに何でここで言うんですか。また周りを意識して意図的に言っているの?」
「ち、違う。だって、明日から夏休みだし、ここで聞かないと忘れられてしまうと思って」
「先輩は俺を全然信用していないんですね。その件聞いたのって一昨日ですよね。まだ二日しか経っていないですよ」
「ち、違うの。麗人と行きたくて気が焦って…」
「あ、あの。早乙女君、九条さんの言っている事、私も分かります。私恋愛経験なんて無いけど、行きたいけど行く予定が見えなくて、その予定は自分で決めれなくて、でも早く知りたくってと思ったら、それに一緒に行く相手が早乙女君の様な素敵な人なら、今みたいに口に出してしまうと思うんです」
「佐久間さん」
まさか、彼女が助け船を出してくれるとは。
「なるほど、って言うか、だったら別のタイミングでスマホで連絡すればいいじゃないですか。何でファミレスの中で言ったんですか。周りには星城高校の生徒いるの知っていますよね」
「そ、それは…」
麗人と私の関係をアピールしようとして、また急いでしまった。確かに彼の言う通りだ。
「佐久間さん、八月二十五日って空いてます?」
「えっ?」
「俺達と一緒にプールに行きませんか?」
「え、ええ、ええーっ?わ、私が早乙女君と一緒にプールゥ!」
あっ、白目向いて口から泡吹いて長い椅子に横になってしまった。
「ちょ、ちょっと佐久間さん。麗人がいきなりとんでもない事言うからよ」
先輩が佐久間さんの背中をさすりながら起こすと
「い、行ってもいいんですか?」
「はい、俺と九条先輩と一緒に行きましょう。先輩、異議は受け付けないですよ」
「…………」
せっかく二人で行かれるプールだったのに。後で佐久間さんを断らせるようにしよう。でも麗人の言葉で周りは園芸部の夏休みの遊びと捉えたって事になる。事の鎮静化に役に立ったか。
俺は、持って来た注文の品を食べ終えると
「佐久間さん、プールに行く時の連絡が必要だからスマホの連絡先交換しましょうか」
「えっ!」
私みたいな陰キャが、早乙女様と呼ばれている男の子とスマホの連絡先を交換するなんて大丈夫だろうか。それに美少女No1の九条さんと一緒にプールに行くなんて。何か不安になって来た。
「あの、早乙女君。私、プールは止めておきます。スマホの連絡先交換もいいです」
「えっ?!」
佐久間さん、あなたなんて事言うの。麗人の連絡先は全校生徒が欲しがっているのよ。
「私が、早乙女君の連絡先を知っていると分かれば、どんな目に遭うか分からない。まして二人と一緒にプールに行ったなんて知られたら。
私は学校生活を静かに過ごしたいんです。園芸部だって八頭さんや運動部の女子に脅されて入っただけです。本当は辞めたいんです」
「佐久間さん…」
この人は本当に麗人の事には興味が無いんだ。多分、価値観が違うんだと思う。でもこんな人もいるんだ。
「悪かった。佐久間さん、無理言ってごめんなさい」
「あっ、いえ。そんな事言って貰うつもりは無かったの」
それから、ファミレスを出て駅で別れた。麗人と佐久間さんは同じ方向へ私は反対方向のホームで電車を待っている。
麗人の事になるとどうしても冷静さを失う。今回もやってしまった。何とか他の人に私と麗人は近い間柄と見せたい、麗人を独占したいという思いが強くなっている。
少し押さえないとまた同じ事をしてしまう。
俺は、佐久間さんと一緒に電車に乗りながら
「佐久間さん、さっきは済みませんでした」
「もう、あの事はいいです。夏休みも九条さんと二回、水やりと草むしりするだけで、それ以外は会う事も無いし」
「そうですか」
俺は自分が降りる駅で佐久間さんに挨拶をして電車から降りた。
彼女は俺が園芸部に入っていなかったら今の様な事にはなっていなかったんだと思うとなんとも言えない気持ちになってしまった。
翌日、朝目が覚めて机の上にある時計を見ると午前七時だ。そろそろ起きるか。
洗面所で顔を洗ってダイニングに行くとお父さんと美麗がいた。お父さんはコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。美麗は紅茶だ。
「おはよ、お兄ちゃん。何か飲む?」
「おはよ美麗。冷たい紅茶がいいな」
「分かった」
「お母さんは?」
「まだ寝ているんじゃない。昨日遅かったし」
「そうか」
「ねえ、お兄ちゃん。夏休みはどうするの?勿論家族旅行以外だけど」
「ああ、色々入っている。でも取敢えず今月いっぱいは夏休みの宿題かな」
「そうね。私も同じ。家でやるの?」
「どうしてそんな事聞くんだ。家でやるに決まっているけど」
「そっか。じゃあ、私は図書館でみんなとやる」
そういう事か。
「悪いな」
「まあ、とっても綺麗で可愛いお兄様を持った妹の宿命です」
「それ、嫌み?」
「それ以外、どう理解するの?」
「二人共、朝からそういう事言わない。兄妹なんだから仲良くしなさい」
「「仲良いよ」」
「そ、そうか」
「ところでお父さんは、大学も来月から夏休みでしょ」
「大半は出る。論文もまとめないといけないし、秋の学会の発表資料も作らないといけないから」
「そっかぁ。大学教授って大変なんだね」
「そんな事ない。大変と思うかやりがいと思うかは個人の問題だ。お父さんは、今行っている研究が世の中に必ず役に立つと思っているから大変なんて思った事無いよ」
「流石です。お父さん」
「まあ、二人とも勉強は大事だ。頑張りなさい」
「「はーい」」
午前八時になってお母さんも起きて来た。皆で少し遅い食事を摂ると俺は自室に入って宿題を始めた。のだけど…。
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