第25話 もうすぐ夏休み


 今日は火曜日。月曜日が海の日だったので花壇の水やりは今日と明後日終業式の木曜日にやる事になっている。


 なんと九条さんは鬼なのか終業式の日に草むしりをすると言っていた。せっかくの夏休み気分が半減だ。


 さて、俺の夏休み計画だけど、

☆夏休みに入った翌日の七月二十一日から三十一日まで集中的に夏休みの宿題を終わらせる事にしている。これは毎年の事だ。読書感想文は、まあ後で。


☆八月に入ってからは四日から六日まで道場の夏合宿。でも俺は参加しないというか出来ない。

 中学の時、参加して俺が男湯に入った時、大騒ぎになったり、体育館以外の場所で稽古している時、人が集まりだして騒ぎ始めたりと大変になり、稽古どころではなくなってしまったからだ。

 だからという訳では無いが、いつも行く道場の留守居役を預かる師範代と午前中だけだけど三日間の稽古をして貰える。


☆八月七日と二十一日は九条先輩と一緒に水やり。


☆八日から十日までは二泊三日で健吾と雫と一緒に海水浴に行く事にしている。毎年行っている千葉県の外房にあるホテルだ。

 勿論、部屋は三人で和室一部屋。本当は親が一緒でないと泊まれないが、小さい頃から毎年行っている為、今は俺達だけでも泊まる事が出来る。

 昔からずっと同じ部屋という事もあり雫と俺達は同じ部屋だ。女子という意識はない。まあ、三人で一緒に風呂に入ったのは中学一年までだけど。


☆家族とは、お母さんの仕事の都合次第だけど、今年は十四日から十六日まで長野県白樺湖の別荘に行く事にしている。


 という訳で結構パラパラと予定が入っている。他の日は健吾や雫と会ったり、本を読んで過ごす予定だ。


 健吾も雫も部活の練習があるらしく、それなりに予定は詰まっていると三人のグループチャットで言っていた。

 

 

 いつもの様に三人で登校して教室に入ると皆も夏休みの予定の話をしているのか、ざわざわしている。



「上条さん、おはよ」

「おはようございます。早乙女君は夏休み、どこか行くのですか?」

いきなり聞いて来た。


「まあ、それなりに」

「何処に?」

「まあそれなりに、海とか湖とかに行きますけど」

「何処のですか?」


 ちょっとしつこいと思いつつ周りの女の子を見ると耳が何倍にも大きくなっている気がする。みんなエルフの子孫なんだろうか?


「ごめん、そこまでは教えられない」

「そうですか」

 残念そうな顔をしているけど仕方ない。教えたら結果が見えている。


 上条さんとの話が終わったので、健吾と話をしていると誠也(田所)がやって来た。川上と相模も一緒だ。


「麗人、夏休み俺達と一緒にプールに行かないか?」

「えっとぉ。それって誠也と川上と相模の三人だけだよな」

「ああ、そのつもりだけど」


 急に女子が静かになりこっちを見ている。

「三人とだけなら良いけど。健吾も一緒に行かないか?」

「行く日次第だな」

「一応、前半か後半のどっちかって思っているんだけど」


 断るのも簡単だけど、せっかく声を掛けてくれたんだから行く事にするか。

「半ばまでと二十一日が予定入っているからそれ以外なら良いぞ」



「分かった。じゃあ、日にち決まったら教えるよ。ここで言うの不味いだろ」

「ああ、ありがとう。分かった」


 誠也達が席に戻ると何故か女子達に囲まれている。何となく理由は分かるが、誠也頑張ってくれ。



 昼休みになり、健吾と雫と三人でお昼を食べて話をしていると、田畑さんと数人の女子がやって来た。


「ねえ、早乙女君。田所君たちと一緒にプールに行くなら私達とも一緒に行ってよ」

「いや、それはちょっと」

「何で。クラスメイトでしょ」

「でも…」

「私達だけで駄目なら田所君達と一緒に行く日に一緒に行きたいわ。ねえ皆」

「うん、うん」


「いや、それも。誠也達の都合もあるし」

「田所君たちがいいというなら良いの?」



 あっ、麗人こっちに振るな。

「川上、相模。トイレに逃げるぞ」

「「おう」」


「「「待って」」」

「いや待てない」

 田畑さん達の声に直ぐ反応した誠也達だったけど、彼らを数人の女の子達が追いかけて行く。誠也逃げきってくれ。



 予鈴が鳴る前に追いかけて行った女子達が帰って来た。

「なによ。男子トイレに逃げ込んだまま出て来ないんだから」

「皆。絶対に田所君達にうんと言わせるのよ」

「「「うん!」」」



 予鈴が鳴って、午後の授業が始まる直前に誠也達が帰って来た。俺の方を見ると大丈夫だって顔をしている。


 五限が終わった中休み、誠也達がやって来て

「麗人、健吾。ちょっと廊下で良いか?」

「ああそうしよう」


 廊下に出ると俺達に耳打ちするように

「今回の件は表向き中止にしよう。でも実際は、二十二日でどうだ。場所は埼玉にある遊園地付きのプールだ」


 俺と健吾は、言葉に出さずに頭を縦に振って了解の意思を示すと

「じゃあ、そういう事で」



 しかし、近くでこちらに背を向けながら聞いていた女子が一人いた。

 ふふっ、いい事を聞いたわ。



 教室に入って俺達は何事も無かった様にして席に戻ると誠也達の所に女子達が寄って行く。プールが中止になった事を言うとがっかりした様な顔をして自分の席に戻った。良かった。



 放課後になり、園芸部兼倉庫に行くと九条先輩と佐久間さんは来ていたけど、水やりをしていなかった。始めておいてくれてもいいのに。


「先輩、遅れてすみません」

「良いのよ。さっ、佐久間さん始めましょうか」

「はい」


 今日は俺が校舎裏の花壇をして、先輩と佐久間さんが、校門の傍の花壇に水をやる事になっている。


 俺は水やりをしながら花壇を見ていると結構花の間に雑草が生えている。終業日は結構手間がかかりそうだ。



 俺達が水やりを終わらせると九条先輩と佐久間さんも帰って来た。二人が片付け終わった所で帰ろうとすると


「麗人、ちょっと待って話がある」

「えっ?」

「私先に帰ってもいいですか?」

「佐久間さん、ご苦労様」

「はい」


 佐久間さんが校舎裏から見えなくなった所で

「ねえ、麗人。もうすぐ夏休みでしょ。二人でプールか遊園地に行かない。テーマパークでも良いわ」

「二人で、ですか?」

「勿論よ」

「先輩、俺そういう事は…」


「麗人、私を一生守ってくれるって言ったよね」

「言っていません。花に水やりをする為にです」

「麗人の嘘つき」

「嘘なんかついていないです。先輩が勝手に思い込んでいるだけです」


 先輩が俺の顔をジッと見ている。段々目に涙が溜まって来た。

「麗人。なんで、なんで…」


あっ、また抱き着いて来た。少しの間そうした後、


「麗人。あなたの事が好きなの。本当に好きなの。どうしようもない位。だからそんな事言わないで」

「…………」

 なんて返せばいいんだ。


「麗人お願い。私をプールに連れてって」

 うん?どこかで聞いたような?



 先輩が抱き着きながら涙を流している。どうするかな。ここで妥協すれば、他の事も許してしまいそうな気がするけど。でもこんな所他の人に見られたら大変だ。


「先輩。考えさせて下さい」

「えっ、連れて行ってくれるの?」


 涙目になって俺の顔を見ている。

「考えさせて下さいと言っただけです。とにかく離れて下さい」

「うん」

 

 俺から離れてポケットからハンカチを取り出して目に当てながら


「いつ返事くれるの?」

「決めて無いです。でも必ず連絡しますから」

「分かったわ。なるべく早く欲しい。行くなら水着買いに行きたいし。あっ、一緒に行く?私の水着買いに」

「先輩!」


「じょ、冗談よ」

 ふふふっ、上手く行った。スタイルには自信がある。何としても麗人の心を掴むんだ。

 

―――――

 

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