第24話 藤堂の悪だくみ


 俺は学食で昼を食べ終わり、教室に戻ろうとすると早乙女の奴が、新垣生徒会長に腕を掴まれて引き摺られている。


 あの野郎のお陰で、俺の周りからの評価はボロボロだ。この前は、廊下で殴り掛かったけど簡単に避けられて鳩尾を殴られた。


 俺は中学からバスケをやっていて、喧嘩だって何度もしている。だから、あんな女顔した奴に負けるとは思わなかった。


 あれは、武道の心得が有るか喧嘩慣れしているかだ。後者はなさそうだから多分、武道をしているんだろう。喧嘩じゃ勝て無さそうだ。


 挙句、周りの奴らが俺を一方的に悪者にしやがって。あの後、生徒指導室に連れて行かれて、担任と生徒指導の先生にたっぷりとお説教された。全く俺の言ってることなんか信用されない。まあ、停学処分にならなくて済んだから良かったけど。


 更に中間考査では、あいつが一位。俺が五位だ。頭でも差をつけるのかと思って、期末考査は真面目に勉強して臨んだのに、あいつは二位、俺は七位だ。


 そして俺が好きな九条先輩は、あいつにべったり。これじゃあ、俺の腹の虫が収まらない。


 どこかにあいつを痛めつけるチャンスがあるはずだ。それと九条先輩を俺に振り向かせる事も出来るはず。夏休みまで後二週間弱。夏休み前が駄目なら夏休み中だってチャンスはある。

 

 あいつは園芸部だ。必ず学校に出て来る時があるはず。その時がチャンスだ。その時を待っていろよ。早乙女麗人。




 俺は、新垣生徒会長に腕を掴まれ、引き摺れるように生徒会室に連れて来られた。


「みんな、来て貰ったわ」


 俺が生徒会室に入ると中に六人位の人が居た。男子二人、女子四人だ。そして俺の顔を見て驚いてる。


「へーっ、遠目で見た事有るけど、近くで見ると、これはこれは」

 変に馴れ馴れしく近づいて来た男が、好きな事を言い始めた。


「駄目よ。両角(もろずみ)君。早乙女君は生徒会にとって大事な人。言葉や態度に気を付けて」

「でも、こいつ一年生だろ。俺達三年が、なんで気を使わなければいけないんだ」

「両角君。あなたは私の権限で生徒会に入る事を許可したのよ。私の言葉に従えないのなら、今すぐここを出て行って!」

「えっ!いやそれは」

 くそ、新垣優子に近付く為に生徒会に入ったのに、首にされたら元も子もない。ここは引き下がるか。



「早乙女君、右から座っている人を紹介するね」

 

 そう言われて副会長一人、書記一人、会計二人、各部対応二人を紹介された。さっき俺に変な事を言った人は各部対応らしい。他に書記一人いると言っていた。


「早乙女君、こっちに来て座って」


 俺はローテーブルの横にある三人掛けのソファの入口側の端に座った。新垣さんは向かい側だ。この人生徒会長の割にスカートが短い。


「早乙女君、中学の頃、何か部活していたの?運動部、文化部、その他何でもいいわ」

「部活は全くしていません。帰宅部でしたから」

「そう、何となく理由は分かるけど。

 生徒会はね、学校内での生徒達の生活の充実や学校生活の改善、向上の為に、自発的に自治的活動を行なうのが目的。その為に学校側からは結構権限が与えられている」


「権限?」

「ええ、各部の申請予算の精査と決定権限、文化祭等のイベントの開催費用や割り振りの権限、生徒達が自由な学校生活を送る為、一部の不心得者を取り締まる規則の作成権限とか、生徒会は生徒の楽しい学校生活を支える反面、彼らに対して影響力も強いのよ。

 生徒会を敵に回せば部費だってゼロに出来るわ。どうかな、生徒会に入ってその権限を自由に使ってみて。私の権限で君を上級副会長にしてあげる」


 この人馬鹿か。そんな事で生徒会に入ると思っているのか。


「生徒会長。俺はそんなものに全く興味ありません。これがさっき言った生徒会の魅力なら俺には全く魅力ないので」


 俺が立ち上がり出入口へ向かおうとすると

「待って、早乙女君。君が入ってくれれば、生徒会が注目される。そうすれば生徒会がどれだけ生徒の学校生活に役立っているか振り向かせる事が出来る」


 やっぱりそれが目的か。


「俺は、生徒会のアイコンになる気はありません。失礼します」

「あっ、待って。早乙女君。…あーぁ、行っちゃったぁ」


「会長、あんな固い事言ったら私だって入りませんよ。もっと会長の魅力をアピールしないと」

「それは難しいよ。あの器量だよ。全く歯が立たないよ。でもー。早乙女君には傍に居て欲しいのー」


―要は、彼が好きなだけじゃないか。


「両角、なんか言った」

「いえ」


 はぁ、目の前に強敵が現れてしまったよ。しかもよりよって早乙女麗人とは。でもあの様子じゃ生徒会には入らないな。




 俺は急いで教室に戻ると健吾が

「大丈夫だったか?」

「ああ、生徒会の仕事を説明されたけど、興味ないと言って断って来た」


 何故かクラスの女子がホッとした顔をしている。


「麗人。今日の夜グループチャット出来るか。雫と一緒に」

「ああ、問題ない」


多分、夏休みの件だろう。いつも三人で遊びに行っているからな。俺も楽しみだ。


 ふと、周りを見ると、何故かクラスの男子女子が興味深々で聞いている。

―ねえ、早乙女君とグループチャットだって。

―羨ましい。私もしたい。

―でも無理よねえ。

―そうねぇー。



 俺は放課後になり、園芸部の部室兼倉庫に行くと九条先輩と佐久間さんは、もう来ていた。


「麗人も来たわ。佐久間さん。水やり始めましょうか」

「はい」


 佐久間さんも慣れて来たのか、水やりが上手くなった。校門の傍の花壇と校舎裏の花壇に一通り水やりが終わると


「麗人、佐久間さん。夏休みの水やり日程を説明するわ。原則、用務の人がやってくれるけど、GWでも見たように十分じゃないわ。それに草むしりもしないといけない。でも三人全員で出る事は無いから二人ずつの交代でしましょうか」


 まあ、確かにそうだよな。今年は夏休みに水やりも計画に入れないと。


「私と麗人。私と佐久間さんで行いましょう」

「ちょっと待って下さい。俺と佐久間さんは無いんですか?」

「だって、私は二年生だから仕方ないけど一年生を何回も水やりに来させる程、私は酷い人間じゃないわ」


 何となく上手く丸め込まれた気がする。


―――――

 

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