第22話 期末考査は終わったけど九条先輩と


 佐久間さんが、園芸部に入ってもう一週間になる。学校は期末考査ウィークに入っていて、部活は全学年禁止だ。


 でも、草花は水を…。季節の所為か、最近雨が多い。だからという訳は無いが、園芸部で佐久間さんが水をやれたのは、月曜日だけ。水曜日もやっていない。


 そして金曜日。今日から期末考査開始だ。幸い?雨が降っているので今日も水やりは無しだ。


 今日の朝も傘を差して健吾と雫と一緒に登校しながら


「麗人。勉強出来てたか?」

「ああ、一応先週末から考査範囲は全て見直したからな。何とかなるだろう」

「麗人。今度も一位狙うの?」

「雫。中間はまぐれだ。今回だって一位なんて興味ない。目立たない順位でいいよ」

「そうなの?」


 麗人はああ言っているけど、小学校、中学校からいつも上位キープしている。中間の一位はまぐれではない。

でも目立たない為に手を抜くような子じゃないからどの位置になるか楽しみだわ。



 期末考査は、土日を挟んで翌週水曜日まで行われた。この土日があったのは助かった。月曜からの教科を結構見直せた。


 

 そしてあっという間に期末考査が終わった水曜日、部活が開始され健吾と雫は、直ぐに部活に行った。


 俺は、園芸部の倉庫に向うと佐久間さんしかいなかった。

「佐久間さん、九条先輩は?」

「まだ来ていないです」

「そうか、先に始めようか」

「はい」


 俺達は倉庫からジョーロとリールフォルダを出して水やりを始めようとしていると園芸部のある校舎裏の端の方から女子の声が聞こえた。それも複数人。中に俺の耳に聞き慣れた声を入っている。


「佐久間さん、ちょっと待っていて」

「あっ、はい」



 俺は声の聞こえる方に行くと九条先輩が四人の女子生徒に両腕を掴まれて、何か強い口調で言われている。あっ、先輩のお腹を殴った。


 俺は不味いと思い、急いで近づくと


「おい、何しているんだ」

「あっ」

「ちっ、不味いわね。皆行こう。九条さん、こんなもので済まないと思ってね」

「行くわよ」


 俺が近付く前に四人の女子はあっという間に逃げ去った。


「九条先輩。大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。お腹を二回殴られたけど」

「えっ!誰ですか。あの人達は」

「女バス、女子バレー、女子テニスの人達。自分達の部にあなたを入れようとして、園芸部から辞めさせるように言って来たのよ」

「何ですって?」

「私が、そんな事する訳ないじゃないと言ったら、見ての通りよ」

「…………」

 

「とにかく、早く水をあげましょう。月曜日まで小雨が降っていたけど、今の日差しは強いわ。直ぐに乾いてしまう」

「分かりました」



 その後、九条先輩は佐久間さんと校舎裏の花壇を俺は校門の傍に有る花壇に水をやった。水やりが終わると

「麗人、話があるの」


 多分さっきの事だろう。


「いいですよ」


「あの、私は帰ります」

「佐久間さん、ご苦労様」



 佐久間さんが、校舎裏から姿が見えなくなるのを見計らってから

「麗人」

「何ですか?」

「私を守って」

「えっ?」

 どういう意味で言っているんだ?


「麗人は私が他の女子に傷つけられても良いというの」

「そんな事はないですけど。…でも守ってと言われても」

「そんなの簡単よ。お昼とか、放課後、私と一緒にいて」

「それは出来るはず…」

「出来るって言ったわよね」

「いえ、今のは…」

 何でこの人俺の話中に話すんだ。


「無理です。もし、俺が昼休みや放課後、先輩と一緒に居たら目立ちすぎます。先輩だって一杯告白されているじゃないですか。俺、その人達から恨まれたくありません」

「大丈夫よ。もう告白される都度に私は麗人が好きだって言っているから」

「はぁ?それってもっと最悪じゃないですか」

「もう遅いわよ」


 俺、やっぱりこの人から距離取ろうかな。


「麗人、私と距離を取ろうなんて考えないでね。園芸部も辞めさせない」

「辞めさせないって言われても…。入っているのは俺の自由だし」

「駄目よ。あなたは私と一緒にこの学校の花壇を守るのよ」


「そんな事言われても…。佐久間さんとやればいいじゃないですか」

「あの子は駄目よ。首にはしないけど、素養が無いわ。本能的な事よ」

「…………」

 

 どう答えればいいのか分からなくなって来た。仕方ない。


「先輩、取敢えず帰りましょう。もう午後二時ですよ」

「私は麗人と一緒だったら何時でも良いわ」

 駄目だ。この人の思考について行けない。


「じゃあ、俺帰りますね」

「待って」


 腕を掴まれた。えっ!


「麗人、お願い。私を守って」


 俺に思い切り抱き着いて上目使いに俺を見ている。

「先輩、離れて下さい」

「嫌よ。麗人が私を守るって言うまで」

「駄目です」


 俺は先輩の肩を持って思い切り前に押したが、腰の後ろまで腕を巻かれてがっちりとホールドしている。


「頼みますから、離してください!」

「駄目よ。麗人が私を守るって言わない限り、絶対に離さない」


「…はぁ、分かりました。俺は先輩を守るから手を離してください」

 こんな所他の人に見られたら、余計問題が起きると思い、先輩が俺の体から離れる為に軽口を言うと



 えっ!私は内心驚いた。麗人が言うはずないと思っていた。今だって、さっきの女子の件を理由に抱き着きたかっただけなのに。だから適当にくっ付いた後、離れようと思ったら…。


「そう、麗人は私をずっと一生守ってくれるのね」

「あの…先輩、その勝手な解釈は止めて下さい。花壇に水をやる為にですよ」

「ふふっ、もう駄目よ。言質取ったからね」


 これは不味いぞ。

「先輩、一つ聞きたいんですけど」

「何?」

「何でそこまで俺に構って来るんですか?」

「ふふっ、何言っているの。麗人が好きだからに決まっているじゃない」

 ここでは、まだ私のお母さんと麗人のお母さんが知り合いだったなんて言わない。


「いやだから。なんで好きなんですか?」

「好きだからよ。理屈なんていらないわ」


 先輩は俺のどこがではなくて感情的に好きなだけか。だったらその内、飽きるだろう。


 と俺はこの時思っていた。


―――――

 

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