第21話 上級生は黙っていない

 駅前のファミレスにて


「ねえ、早乙女君を何とか私達のクラブに入れさせようよ。彼がいれば、部活が盛り上がるわ」

「でも、早乙女君って男でしょ。女子のクラブには入れられないんじゃない?」

「そこはそこ。部活活性化の為とか言ってさ。マネージャだっていいじゃない。先生にお願いするのよ」

「なるほど」


「でも彼は園芸部にいるし、桜庭先生がブロックしているし」

「やっぱり九条さんに言うしかないんじゃないの。兼部か退部で」

「退部したら園芸部は九条さん一人よ」

「じゃあ、誰か入れればいいじゃない。誰かいないの?」


「そうだ、うちのクラスにいつも本しか読んでいない子がいる。あの子誘ってみようか」

「でも園芸部じゃ」

「早乙女君が園芸部にいるうちに入部させて、その後彼を退部させればいいのよ」

「なるほど。それいいかも」

「でも、私達だけでも女子バスケ、女子バレー、女子テニスよ。彼何処に入れるの?」


「兼部して毎日参加クラブ変えて貰ったら」

「それは無理でしょう」

「じゃあ、どうするの?」



「あなた達」

「「「あっ、八頭さん」」」


「その話、私も入れてくれる?」

「いいですけど、矢頭さん、茶道部ですよね」

「いいのよ。早乙女君は運動神経も良いのに園芸部では、彼の良さを発揮できないと思ったからよ。

 部活を毎日変えるのは大変だから一ヶ月、いえ一週間交代位にしたら」


「わっ、流石八頭さん」

「では早速、園芸部にCクラスのその子を入れる事からね。私に会わせて。その後桜庭先生に入部の話してみるわ」

「わーっ、ありがとう。八頭さん」



 本当は、九条静香に早乙女君を部活だけとはいえ、独占させたくなかった。夏休みにも花壇の世話はするはず。

 必ずそこを利用して早乙女君と仲良くなろうとするに決まっている。それを阻止しないと。

 後、この子達の事は別として茶道部に入れたい。彼が茶の嗜む姿は、誰もが目を見張るはず。そして私の傍に居させることが出来る。




 お母さんのお陰で、登下校時に他の生徒が大勢で寄って来る事は無くなった。もう先生達が立っている事もない。下駄箱の中の可愛い封筒も少なくなっている。


 体育祭が終わってから既に三週間が経った。学校内で視線は一杯浴びるがこれだけなら今までと変わらない。



 今日も静かな?一日が過ぎた。放課後になり園芸部の部室兼倉庫に行くと知らない女子がベンチに座って本を読んでいた。


 まだ九条先輩は来ていない様だ。俺を見ると直ぐに立ち上がって。…なんか縮こまって下を向いているけど。


 背は百六十センチ位かな。髪の毛は背中辺りまで有るけど前髪も長くて目が見えない。

 唇がプリンとしたやや丸顔。胸もお尻もそれなりにある。すこしぽっちゃりした女の子だ。

 夜見たら平家の落人。いやそこまでは…。



 少しして先輩がやって来た。

「麗人、紹介するわ。二年C組の佐久間詩織(さくましおり)さん。こんど新しく園芸部に入ってくれた人」

「えっ、でも新しく人は入れないって言ってませんでしたっけ?」

「そうなんだけど、昼休み時間に桜庭先生が私の所にやって来て、佐久間さんを入部させるって言って来たのよ。先生が認めた理由は分からないわ。まあ、いいわ。佐久間さん自己紹介して」


「は、はい。わ、私、さ、佐久間詩織って言います。いつもは本を読むのが好きで、こういうことやった事無いんですけど、宜しくお願いします」

「えっ?やった事無いの?でも桜庭先生が佐久間さんは草花が好きで園芸部で私達と一緒に花を育てて行きたいから入部させて欲しいって言われたって聞いていたけど」

「そ、それは。…八頭さんが桜庭先生に私を紹介する時に言われたんです」

「えっ、八頭音江!」


 あの女、どういうつもりで佐久間さんを。


「でも先生が入部を許可したなら仕方ないわね。色々教えるから一緒にやりましょ。麗人は校門の花壇に水を上げて来て」

「分かりました」


 どういう事?八頭さんが佐久間さんを強引?に園芸部に入部させるなんて。



 私、佐久間詩織。本好きで人と話すのが苦手な陰キャ女子。勉強もそこそこでこの学校に入学したのは、適当に進学校だし、勉強に付いて行けば適当な大学に入れると思ったからだ。


 一年の時からずっと静かにしていたら、先週突然、貴公子がやって来て

『佐久間さん、あなた園芸部に入りなさい』


 私が断るとクラスの子や他のクラスの子が

『入らないというなら、この学校に居辛くするわよ』


 と脅されて桜庭先生の所に連れて行かれ園芸部に強引に入部させられた。でもここって、あの有名な美少女No1の九条静香さんと早乙女様と呼ばれている男子がいる。


 はっきり言ってこんな人達の傍になんかいたくないけど、学校で居辛くなるのは嫌だ。だから仕方なしに入部した。

 私には花に水をやったり草むしりする素養はない。だから直ぐに首になるだろうと思っている。でも学校に居辛くなるのも困る。




「佐久間さん、同じ花に水を一杯かけては駄目。全体に万遍なく水がいきわたる様にするのよ」

「はい」


「あっ!」


 ジョーロが重くて花壇の中に落としてしまった。


「はぁ、花達の間だったから良かったけど、ジョーロ位しっかり持ってよ」

「ご、ごめんなさい」


「ほら、ジョーロに水を一杯入れ過ぎるから落すんでしょう。七分目位入れて水を施すの」

「はい」


 これは覚えて貰うのに時間かかりそう。麗人は何も教えなくても出来たのに。



 俺が、校門の花壇に水をやり終えて戻って来ると、校舎裏の花壇は、水が溜まる程あげている所も有れば、ほとんどかかっていない所もある。これじゃあ。あっ、先輩が怒った顔している。


「麗人、もうちょっと待って。とにかく水のやり方覚えて貰わないと」

「俺がやりますよ」

「麗人がやったら佐久間さんが覚えられないでしょう」

「それはそうですけど」


 なんか九条先輩、佐久間さんに怖いな。この人、こんなに怒ったっけ?



 やっと佐久間さんが水やりをおえると

「佐久間さん、今から園芸部の年間スケジュールを教えるから。麗人も一緒に聞いて」

「えっ、俺は既に…」

「いいでしょ!」



 九条先輩は、四月に俺に教えて年間スケジュールを佐久間さんに教えた。一通り終わると

「じゃあ、これで終わりよ。帰りましょう」

「はい」

 もう佐久間さん、シュンとしちゃっている。



 三人で駅まで行くと九条先輩は逆方向だけど、佐久間さんは俺と同じ方向だ。電車の中で、どこで下車するのか聞いたら何と道場の一つ向こうの駅だそうだ。


 俺が自分の駅で降り際に、佐久間さんに

「佐久間さん、ご苦労様でした」

と言うと顔を真っ赤にして、頭をぺコンと下げてそのまま乗って行った。




 八頭音江はどういうつもりで園芸部に佐久間さんなんか入れて来たんだろう。これからは彼女の動きを注意しないと。


 でも佐久間さん、麗人と同じ方向の電車に乗った。という事は、月水金と毎日一緒に帰って、毎日一緒に同じ方向の電車に乗る訳。私は駅までというのに…。まさかね。


―――――

 

まだ★が少なくて寂しいです。評価してもいいけど★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。

宜しくお願いします。

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