第20話 お母さんのお願いは強力
俺は、昨日お母さんが言った事には、全く期待せず学校の最寄り駅で健吾と雫をまっていると、やっぱり俺の周りには女子生徒が一杯集まっている。
大人の人は俺をチラチラ見ながら歩いて行く。
その人達を無視して改札を見ていると二人が出て来た。
「「おはよ、麗人」」
「おはよ、健吾、雫」
「麗人、今日も頑張っていくか」
「ああ。休む訳にはいかないしな」
俺達が動き出すと周りの女子生徒も歩き出した。少し早足で学校に向うと
あれっ、誰もいない。というか先生が校門の傍で立っている。立ち止まろうとする生徒を校舎に行くように注意しているようだ。
俺達が校門まで行くと
「やっと来たか。他の生徒は溜まっていないからそのまま校舎に行きなさい」
「はい」
そのまま歩くと少ししてまた、先生が立っていた。さらに昇降口まで行くとやはり先生が立っていて、なにも言わずに俺達を見ていた。
なるほど、これが昨日、お母さんが校長に頼んだ事か。これなら助かる。でも、下駄箱の中は昨日と同じだった。
下駄箱の戸口を開けると
ドサ、ドサ、ドサ
またか。
「麗人、はい。今日もこれあげる」
「ごめん雫」
当面、俺がビニール袋を持って来た方が良さそうだ。
なんと教室の出入り口にも先生が立っている。凄い。
俺が席に着くと
「おはよう早乙女君」
「おはよう、上条さん」
今日もこちらを向いたままだ。仕方なしに健吾と話をしていると予鈴が鳴って桜庭先生が入って来た。
桜庭先生が俺の顔をジッと見て何か言いたそうな顔をしていたけど何も言われなかった。
中休みも教室の出入り口の傍に先生が一人立っている。健吾が
「なあ麗人。お前学校になんか言ったのか?」
「いや俺は何も言っていない」
「じゃあ、何でこんな事になっているんだ?」
「さあ?」
まさか昨日お母さんが校長に言った事でこんなすごい事になっているとは思わなかった。
昼休みになっても同じだ。ただ健吾が俺の菓子パンとジュールを買いに行って貰った時、
「麗人。これだけ貰ったぞ」
健吾の手には俺の菓子パンと可愛い包みに入ったお弁当らしき物が十個近く有った。
「悪いな」
「俺は構わないけどな」
「麗人。当分仕方ないんじゃない。明日からそれ入れて持って帰る袋持ってこないとね」
「ああ」
放課後になり水やりに行くと倉庫に桜庭先生が立っていて、来る子にここに溜まらない様に注意をしていた。
俺が姿を現すと
「早乙女君、九条さん一緒に早く水やりして。私、仕事溜まっているのよ」
九条さんと一緒に花壇に水をやりながら
「麗人、いったいどういう事。私のクラスでも君に会えないと言って不満を言っている女子ばかりよ」
「俺も分からないです」
お母さんの事はこの人にも言えない。
先生方には悪いが、お陰で静かに登下校をする事が出来た。
そして土曜日になった。
授業風景を見たい父兄は、今日の最後の授業を見る事が出来る。来ている保護者は生徒数の半分位だ。その中になんと、俺のお父さんがいた。真後ろに立っている。
親が後ろに立っているとこんなに授業受けにくいものなのか。やがて授業が終わり、教科書をスクールバックに入れてから
「お父さんが来たんだ」
「ああ、お母さんは流石にな」
「あっ、雫のお母さんと健吾のお母さん、お久し振りです」
「まあ、麗人君益々可愛くなったわね。雫が羨ましと言っていたわよ」
「ええ、うちの健吾も麗人君が益々磨きが掛かって来たと言っていたけどほんとねえ」
「あははっ、じゃあ、お父さん俺帰るから」
「ああ、気を付けてな」
俺は、健吾と雫のお母さんにも挨拶してから保護者の前を通って教室を出て昇降口に行く途中、
―まあ、可愛いお嬢さん。
―うちの愚息にあんな可愛いが子が友達で居てくれたら
―なんて可愛いんでしょう。
耳を馬にして早足で昇降口に向った。健吾と、雫は部活があるらしく授業が終わると直ぐに教室を出て行った。
今日は、少し遅くなったが、午後から道場に行って一時間半、稽古してくるつもりだ。やはり週一、二回は行かないと体が鈍る感じがする。
下校時も要所要所に先生が立っていてくれる。申し訳ないので、立っている先生に少し微笑みながらお辞儀をすると、なぜか思い切り体育会系の先生が恥ずかしそうにしている。先生どうしたんだろう?
校門を出て駅に向おうとすると…。どこかで見た事のある女性が車の中から降りて来た。
「麗人」
「お母さん!」
「ねえ、麗人。少しだけでいいからお母さんに学校を案内して。麗人が通っている学校を見たいのよ」
「でも…」
「お願い、ねっ。麗人の通っている学校を全然知らないなんてお母さん寂しいわ」
お母さんが、寂しそうな顔をしている。
「分かったよ。でも少しの時間だけだよ」
「分かってる」
顔がパッと明るくなって、いきなり俺の腕にしがみついて来た。
「ふふっ、こうするの久しぶりね」
「お母さん!」
「いいじゃない」
仕方なしにそのままもう一度校門から入って行くと、もう先生方はいなくなっていたが、学校から出てくる生徒が目を丸くしている。
―早乙女様が、知らない女性と腕を組んで歩いている。
―そ、そんな。もう早乙女様の横の席は埋まったの?
―でも、あの人生徒じゃないわよね。
―ねえ、あの人、どこかで見た事ない?
―私もそう思っていた。
「お母さん、早く行こう」
「え、ええ。麗人」
―ねえ、早乙女様を名前で呼んだわよね。
―それに早乙女様によく似ている。それにお母さんって?
―うん、うん。
ーまさか!
これは不味いぞ。
「お母さん、今日の学校見学は中止しよう。今度ゆっくりと案内してあげる」
「えっ、でも…」
「いいから」
俺は、お母さんの腕を掴んで、校門の傍に止めてあった、車にお母さんと一緒に乗り込んだ。
「薄井さん、すみません。直ぐに出して下さい」
「え、ええ。でも良いの?」
「直ぐに出して下さい!」
「はい」
何となく、車の周りに生徒が溜まっている。これは不味い。
校門から大分離れた所で、俺だけ降ろして貰った。
「お母さん。今度ゆっくりと案内するから」
「分かったわ。残念だけど仕方ないわね」
「薄井さん、済みませんでした」
「いえ、麗人君気を付けてね」
「はい」
俺は、車が走り出したのを確認してから、元の道を歩いて家に戻った。しかし、危なかった。もし俺が霧島花蓮の息子だなんて知れたら、もっと凄い事になってしまう。
結局、その日は、道場に行けなくて、翌日曜日、いつもより長い時間稽古させてもらった。
―――――
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面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると嬉しいです。ご感想もお待ちしております。
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