第10話 GW明けは騒がしい
俺は九条先輩と花壇の草むしりと水やりをして、駅前のファミレスで一緒に食事をした後、別れた。
別れ際に、明日会わないと言われたけど、忙しい(鍛錬)事を理由に断った。本当は健吾や雫と会いたかったのが本音。
でもクラス委員の田畑さんがGWに入る前、そう遠足のバスが学校について解散になった時、俺の所に寄って来て
「早乙女君、GWは他の人と会っては駄目よ。これはクラスの女の子全員の総意なんだから守ってね」
脅しとも言える言葉を掛けられ、入ってまだ一ヶ月も経たない内にクラスの女子から無視されるのは嫌な俺は、仕方なく従っている。
でもあれはあくまで女子に関してだよな。だから健吾はいいと思って、スマホで連絡を入れると
「麗人、悪い。GW後半は結構予定入れてあるんだ」
簡単に断られた。
妹の美麗は、毎日友達と仲良く外で遊んでいる。流石に残り四日間、毎日道場に行く気にもなれず、仕方なく一人で街の映画館へ。
分かってはいたけど
「きみ、綺麗だね。お兄さん達と遊ばない?」
「俺、男です」
「何言っている。どう見ても女子高生だろ。いいじゃないか」
と言って、俺の腕を触りそうになったので、そのまま後ろに捻り上げて
「男と言っただろう!」
そのまま、前に押し出してお尻に蹴りを入れてやると
「ほ、ほんとかよ」
連れの男達もすごすごと去って行った。
そうかと思えば、例によって
「私、こういうものなんだけど」
と言って名刺を差し出してくる。
「結構です。興味無いですか」
そう言って逃げ出した。
この二つのパターンの繰り返しだ。映画館に入っても同じ。仕方なく、見終えると速攻で、俺に声を掛けてくる虫達(?)を振り切り家に帰って来た。
自室に入ってから
「はぁ、参ったなぁ。こんな容姿に生まれて来なければ…」
そのままベッドに倒れて天井を見ていると、遊びから帰って来たのか、美麗が俺の部屋に入って来た。
「お兄ちゃん、その顔だと一人で外に行って、いつもと同じ目に遭ったんでしょ」
「分かるか」
「お兄ちゃんの妹ですもの」
「美麗は大丈夫なのか?」
「私も同じだけど、友達がいるから無視できる。毎日十人位から声が掛かるけど慣れた」
「美麗は強いな」
どうしたものかと思っていると
「お兄ちゃん、偽彼氏作ったら。そうすれば、声掛けられるの半分位になるんじゃない」
「に、偽彼氏?」
「例えばー。健吾さんとか?」
「健吾は駄目だよ。小学校からの親友だし、そんな失礼な事出来ない」
「じゃあ、他に心当たり無いの。お兄ちゃんの場合、出かける時、健吾さんと一緒なら、大丈夫だと思うんだけど」
「健吾は忙しいと言って断られた」
「そっかぁ。私だと逆効果だしなぁ」
「なあ、美麗の友達に適任者いないか?」
「お兄ちゃんの横を並んで歩けるほど勇気のある男の子はいないよ」
はぁ、どうしよう。
結局、最後の日曜日、道場から帰って来ると健吾からメールが入っていた。一時間前だ。すぐに折り返しメールを入れると電話が掛かって来た。
「麗人、今いいか?」
「いいけど」
「なあ、クラスチャットがお前の事で賑わっている。これどういう事?」
「クラスチャット?」
「麗人は入っていないのか?」
「だって、俺のスマホ、家族以外は健吾と雫だけだから」
「そういう事か。実は、お前が九条先輩と付き合い始めたんだじゃないかとか、先輩の胸を触ったんじゃないかとか。
麗人がそんな事する訳ないのは分かっているけど、何処でこんな噂の元が出来たのか分からなくてさ」
俺は水やりの後の九条先輩と入ったファミレスで、先輩が大きな声で話していた事を思い出した。そしてその時、クラスの女子達が居た事も。あれか。
「健吾、実は…」
「はあ、そういう訳か。九条先輩どう見ても意図的だな。部活終わったら、お昼兼ねてあのファミレスに寄るのは、部活の連中は当たり前になっているからな」
そういう事か、だからあの時先輩は俺にわざと口に食べ物を運ぶ事を要求したんだ。
「いずれにしろ、月曜日は、ちょっと我慢かも知れないな」
「ああ、仕方ない」
九条先輩が、どういうつもりであんな事したかは知らないが、これ以上酷くなるなら園芸部が辞めるしかない。
GW明けの月曜日、俺は学校の最寄り駅で健吾と雫を待った。家からここまで来る間の視線は中学の時と変わらない。
もう慣れている。今も改札から出て来た男女が俺の事をチラチラ見ながら学校へ向かっている。
五分程して
「「麗人、おはよ」」
「おはよ、健吾、雫」
「麗人、クラスチャットで賑わったね。理由は健吾から聞いたけど、九条先輩ちょっと要注意だね」
「ああ、はっきりってあういう事する人は好きになれない。これ以上酷い事にするなら、園芸部辞めるつもりでいる」
「まあ、そうなるわな」
俺達が教室に入って行くといきなり田畑さんが俺の所にやって来た。
「早乙女君、約束破ったのね」
「えっ?」
「GW前に他の人とは会わないでってお願いしたじゃない」
「あれは、園芸部の水やりを水曜日にやる予定になっていたから」
「水やりは良いのよ。なんで九条先輩とファミレスに入ったの。それにフォークで先輩の口に食べ物をいれたそうじゃない」
「いや、あれは…」
「まあ、待て田畑。あれは九条先輩の作戦だ。部活帰りの連中があそこに寄るのが分かっていてわざと麗人を誘って、お前らがいる事が分かっていて先輩がわざとやった事だ。
「えっ、本当なの?早乙女君」
「健吾の言った通りだ」
「じゃあ、胸を見たというのは?」
もしかするとあれも意図的だったのか?
「実は…」
仕方なしに正直に話した。
「何ですって。九条先輩のブラを見た。ほんと?!」
田畑さんが俺に食いつく様に言って来た。
「わかったわ。じゃあ私のブラも見て!」
いきなりブラウスの前ボタンを外し始めた。
「ちょ、ちょっと田畑さん。それは無いよ」
雫が田畑さんの手を止めたけど、ふと周りを見ると他の女子生徒もブラウスの前ボタンに手が掛かっている。
男子は期待満々だ。
「み、みんな。ちょっと待ってくれ。あれは事故だったんだから」
「「「事故なら良いの?」」」
「みんな、落着いて。もうすぐ先生も来るから。とにかく今回の事は、九条先輩の麗人強奪作戦だったという事で、未遂で終わったし、もう終わりにしよう」
雫、ありがとう。
やっと、田畑さんや他の女子達が落着くと男子ががっかりした顔している。
「みんな、こうなったらプランA実行よ」
「「「うん」」」
なんだプランAって?
放課後になり、俺が水やりに校舎裏に行こうとすると
「待って、早乙女君、話があるの」
「えっ、でも、俺水やりが」
「大丈夫。みんな実行して」
「「「うん」」」
六人位の女子が教室を出て行った。
麗人が女子達に摑まってしまった。このまま帰る訳に行かないし、ちょっと様子を見るか。
その頃、園芸部の部室?倉庫では、
「なに、あなた達?」
「九条先輩、早乙女君は今日来れないので、私達が彼の代りに水やりします」
「えっ?!」
私、九条静香。麗人が来るのを待ってから水やりをしようと思ったら麗人のクラスの女子らしい子達が入って来て、勝手にジョーロやリールを持ち出した。
「だめよ、何勝手に…」
「九条先輩はここで座っていて下さい」
椅子から立ち上がろうとして後ろと前から両肩を押さえられた。校舎裏と校門をそれぞれ二人ずつでやるようだ。
「あんた達なんでこんな事を?」
「先輩。胸に手を当ててよく考えて下さい。自分が早乙女君に何をしたか」
「えっ、私は麗人になにも…」
「ほら、早乙女君を名前で呼んでいること自体、もう可笑しいじゃないですか。彼が園芸部に入って、まだ日が浅いのに」
「で、でもそれは…」
「理由は聞きません」
話をしている内に他の四人の女子が帰って来た。
「終わったわよ」
「そう、じゃあ九条先輩これで終わりです。今度の木曜も来ますから」
「えっ?!」
嵐の様に来て、あっという間に去って行ってしまった。なんなの、あの子達。でもあの子達がこんな事をする理由は一つ。
先週のファミレスが原因。麗人の防御壁は思ったより硬いわね。作戦変更だわ。あっ、彼のスマホの番号知らない。明日にでも手に入れないと。
「田畑さん、終わったわよ」
「ありがとう皆。じゃあ、早乙女君、今日の園芸部の作業は終わったわ。木曜日も私達がするから、もう九条先輩には近づかないで」
十人近くいた女子達が波を引く様に帰って行った。残ったのは健吾と雫と俺。
「なあ、あれはどういう事だ?」
「見た通りよ。九条先輩が麗人を彼にしようという作戦をクラスの女子、全員が阻止する作成。その一つが今日のプランAよ」
「知っていたのか雫は?」
「知っていたけど、私が麗人に言う訳にはいかないわ」
「それは分かるけど。あっ、朝は健吾も雫もありがとうな」
「まあ、それはいいけど。今後が面倒だな。このまま九条先輩が何もしないとは思えないし」
「…………」
その後、三人で駅まで一緒に行って別れた。クラスの女子が俺をどう見ていたかも何となく分かったけど、これからどうすればいいんだ?
―――――
書き始めは読者様の応援が一番のエネルギーです。
まだ★が少なくて寂しいです。投稿開始段階で少ないと心が折れます。評価してもいいけど★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると次話書こうかなって思っています。
宜しくお願いします。
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