第11話 中間考査が近付いた


 来週の火曜日から金曜日まで中間考査がある。俺達はまだ一年生だし、一学期の中間考査だから範囲も広くない。


今日から考査ウィークに入る。全学年、部活禁止だ。教科書はいつも予習、復習は欠かしてないが、俺もその恩恵に与ってやることにしている。


 健吾も雫も勉強は出来るので皆で集まってお勉強会なんてことはしない。もっとも中学までは遊び感覚でしていたけど。



 今日も学校の最寄り駅で待っていると九条先輩が改札を出て俺の所にやって来た。

「麗人」

「おはようございます。九条先輩。昨日は…」

「昨日の事はどうでもいわ。ねえ、それよりスマホの連絡先交換しよう」

「えっ、なんで?」

「部活の先輩、後輩でしょ。連絡先知らないと、これから先色々困るでしょう」

「まあ、それはそうですけど」

「じゃあ、早くスマホ出して。五月蠅い連中に見つかる前に終わらせたいから」


 確かに、園芸部にいる限り、今後の事を考えれば連絡先交換は必要か。

「分かりました」


 九条先輩は手慣れた手付きで、連絡先を交換すると

「じゃあ、いくね。麗人」


 俺が彼女の後姿を見ていると

「「麗人、おはよ」」

「おはよ、健吾、雫」


「今、九条先輩と連絡先交換してなかった?」

「ああ、園芸部に入っている限り、必要だろうし」

「それ、クラスの女子には絶対にバレない様にしてね。理由は言わなくても分かるよね」

 雫が少し強い口調で言って来た。


「分かったから、そんなに怖い顔するなよ」

「あなたの為よ」

「俺もそう思うぞ、麗人」

「…………」

 分かってはいるけど。



 

 いつもの様にチラチラ見られながら教室まで行き、自分の席に着くと

「早乙女君、おはよ」

「おはよ、上条さん」


 それだけ言うとさっと前を向いてしまった。別に普通に話しても良いだろうに。ところでなんで男子って俺と話をしないんだろう。こっちから話しかけるにも話題無いしなぁ。



 昼休みになり、健吾と一緒に購買に行って菓子パンとジュースを買って教室へ戻ると雫と一緒に食べ始めた。

 お昼の時だけは上条さんの席に座る。彼女は他の子達と一緒に食べているので問題ない。



 俺は菓子パンを食べながら

「なあ、健吾、部活はどうだ?」

「ああ、楽しいぞ。今は、体幹を鍛えている感じだけどな。勿論基本的なパスやフットワークはやっているけど。なんだ麗人もやる気になったのか?」

「いや、健吾は他の男子とも良く話すし。そうか、部活でもそんな感じか」

「どうしたんだ?」


「ここの学校に入ってもう一ヶ月半だというのに、男子は田所以外、女子とは誰とも友達として話した事無いし、なんかなあと思ってさ」


―えっ!

―ねえ、今の聞いた。

―うんうん。

―これはチャンスかも。


 またなんか変な事言っている女子達がいる。


「そうだな。確かに。でも、うちの男子って、麗人と接点無いしな。あっ、来月初旬に体育祭があるだろう。あれチャンスかも知れないぞ」

「体育祭?」

「ああ、そこで男子達と絡む競技に出ればいいじゃないか」

「そうか、その手が有ったか」

「中間考査終わった辺りからその話になるんじゃないか」

「それいいかもな」


―聞いた。

―うん、聞いた聞いた。

―これは、アレを装えるかも

―そうだよね。アレだよね。

―うんうん。


 意味分からない事言っている。



 この日は平穏に午前中が終わり、午後の一限のみで、三人共家に帰って勉強となった。そして翌水曜日も平穏に終わり、家に帰って勉強しているとスマホが震えた。


 誰だ?画面を見ると九条静香と出ている。画面をタップして

「早乙女です」

「麗人。明日の水やりだけど、午前中で授業終わるでしょ。部室で一緒にお昼食べない?」

「それは止めておきます。昼は食べないで水やりをしたら帰宅して家で食べます」

「えーっ、いいじゃない」


「駄目です。ファミレスの一件もありますから」

「そ、そんな事有ったっけ?」

「しらばくれないで下さい。お陰で大変な目に遭ったんですから。もう九条先輩とは食事もファミレスも行きません」

「…………」


 事を急ぎ過ぎたか。


「麗人…、園芸部は辞めないよね?」

「九条先輩次第です。草花は好きですが、それ以外の事はしないで下さい」

「…分かった。明日は水やりをしてくれる?月曜日そっちのクラスの女子に責められたから」

「自業自得です。でも明日は行きます」

「良かった。じゃあ、また明日」


 良かった。連絡先を交換してなかったら、麗人との接点が消える所だった。少し大人しくしてあの時を待つか。



 翌日、午前中の授業が終わると俺は、田畑さんの所に行って

「田畑さん、今日は俺が水やりをする。気持ちはありがたいけど、俺はまだ園芸部の部員だ。水やりは俺の仕事だ」

「えっ、でも」

「俺が水やりします!」

「わ、分かったわ」


―ねえ、見た。美しいわぁ。

―うん、早乙女君のあの凛々しいもの言い、どうしましょう。

―そうねぇ。立っていられない。

―うん。


 なんか女子から♡マークの視線が飛んできている。男子どうにかしてくれ。


 早く、水やりに行くか。


「健吾、雫。じゃあ、俺行くから」

「ああ、頑張ってな」

「麗人。じゃあね」



 校舎裏の園芸部兼倉庫に行くとドアが開けられて九条先輩が一人で昼食を摂っていた。ちょっと寂しそうな姿に、同情したが仕方ない。でもどうしてこの人はいつも一人なんだ?



 俺は自分の考えを取敢えず棚上げして

「先輩、俺先に校門の所の水やりしてきます。昼食はゆっくり取って下さい」

「ごめん、麗人。お願い」


 彼がリールフォルダを持って校門に行った。心優しくてあの容姿。だから惹かれたのだけど、少し急ぎ過ぎた。今度はゆっくりと彼の内側に入らないと。



 俺は校門の花壇の水やりを終えて校舎裏に戻って来ると先輩は食事を終えてジョーロで花壇に水をやっていた。

 俺も直ぐに水やりを手伝うと簡単に終わった。



 駅までの帰り道、

「先輩、こういう事聞くの失礼と思うのですけど、…先輩いつも一人ですよね」

「そんな事ないわ。クラスに戻れは話す友達もいるし、麗人とは園芸部でしか会っていないからそう見えるのよ。水やり以外でも会えば分かるわ」

「そういう事言うと園芸部辞めますよ」

「何で部活以外で話しては駄目なの?」

「それは…」


 まだ、麗人の存在は上級生には広まっていない。もし二年生や三年生が彼の事を知ったら一年生の一クラスの女の子の抵抗なんて意味がなくなる。

 だから、麗人と会う時は一人にしている。彼の事を気付かれてはいけない。



「ふふふっ、クラスの女の子達よね。あの子達の気持ちは分かるけど、いずれ彼女作るなら今だっていいじゃない」

「先輩、俺、まだそういうの興味無いんです。友達は欲しいけど」

「じゃあ、友達になろう。そしたらいつでも話せるじゃない」

「それはそうですけど、とにかく今は駄目です」

「じゃあ、後からなら良いの」

「先輩!」

「分かったわ。もう少し待ちましょう。クラスの中の立場もあるしね」


 話している内に駅に着いた。

「じゃあ、麗人。またね」

「はい」



 仕方ないか。少しスローで行こう。いずれ私が射止めるんだから。


―――――


 まだ★が少なくて寂しいです。評価してもいいけど★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると嬉しいです。

ご感想もお待ちしています。

宜しくお願いします。

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