第6話 遠足は楽しいのでは


 今日は、月曜日。しかし憂鬱な事が週末に有る。何と今週金曜日に遠足というものがある。普通なら楽しい筈のイベントなのだが。


 午後のLHRで担任の桜庭先生が、

「皆さん、前にもお知らせしましたが、今週金曜日、遠足に行きます。班決めをしておいて下さいね。一班四人から五人です。リーダも決めて下さい」


 ざわざわ。

 

 クラスの中が騒がしい。木曜までに決めればいいのに。


「麗人、一緒だな」

「私もね」


 健吾と雫が声を掛けて来た。ここまではいい。いつものパターンだ。だがしかし、一班四人から五人と先生は言っている。でも俺達の班に声を掛けてくる女子はいな…。


「ねえ、小早川君、私入れてくれない」

「ねえ、東雲さん、私入れてくれない」

「何言ってんの。私」

「駄目よ。私」

「四人共、私が先よ」


 声が止まらない。おかしい、おかしい。でも声を掛けられているのは健吾か雫。俺ではない。


「みんな、カモフラージュで早乙女君の班に入ろうとしても駄目だからね」

「「「「えーっ!」」」」


 女子の声を止めたのは、田畑さんだ。このクラスのクラス委員。


「でも田畑さんが入るなんて言わないよね」

「えっ、それは…」


「じゃあ、駄目じゃない。やっぱり私が…」



 私、このクラスの担任、桜庭京子。このクラスには一人の問題児がいる。もっとも暴力を振るうとか素行が悪いとかではない。全く逆だ。


 綺麗で可愛くて、背が高くて、受験結果も学年で五番。その上、強い自己主張もない。全く、女の私でももう少し若かったらと迷ってしまう。


 あの子の担任になった時、内心喜んだけど、いまでは頭が痛い。来年三月まで何も無いとは思えない。今回もいい例だ。



「おーい、女子達。早乙女が困っているじゃないか」

「「「早乙女君には声を掛けていない!」」」

「ひっ!」


 田所君でも駄目か。もう少し様子見てみるか。


「「ねえ、私でいいでしょう。小早川くーん」」

「「私よね。東雲さーん」」


 健吾と雫の周りに女子の人だかりが出来ている。俺はそっと、籍を立とうと…。


「待て、早乙女」

「な、なんだ。田所?」

「お前が選べ。一人で良いだろう」

「えっ?!なんで、俺が」

「そんな事言わないと分からないのか」


 その声に健吾と雫の周りに居た女子が一斉にこっちを見た。ここで女子を選ぶ訳にはいかないし、誰を選んでいいかも分からない。そうなると…。


「…田所」

「えっ、俺?」


―きゃーっ、早乙女君もしかして。

―でも、分からないわよ。


「いや、俺は、他の奴らと」

「頼む、田所、男と見込んで」


―やっぱりそうかしら。

―そうかも。


 なんか、勝手に誤解されている。


「ちょっと待ってろ」


 田所は自分の席の周りに居た、男子と女子に何やら話をしている。あっ、戻って来た。


「分かった。俺が早乙女の班に入ろう」


「で、でも、もう一人入れるよね。私入りたい。ねえ田所君」


 今度は田所に白羽の矢が立った。田所が大勢の女子に責め立てられている。



「はーい、そこまでよ。早乙女君の班は四人で一班とします」

 桜庭先生。今だけ女神に見えます。


「「「「ええーっ!!」」」」


 皆ブツブツ言いながら席に戻って行った。


 後は十分もしない内に班が決まった様だ。目の前の上条さんも無事に余所の班に入っている。良かった。


「皆さん、班決めが出来た様ね。リーダだけ決めておいて。今日はこれで終わりよ」


 先生への皆の挨拶が終わって帰宅と行きたい所だが、俺は何を間違ったか園芸部に入部したお陰で今日はお花に水やりと立派なお役目が残っている。


「健吾、雫。今日は水やりだから」

「おお、頑張れよ」

「麗人、じゃあ明日ね」


 俺も帰りたい。



 スクールバッグを持って校舎裏の園芸部の部室?行くと、案の定九条先輩は来ていなかった。


 待っていても時間の無駄と思い、まず裏の花壇から水撒きを始めた。一通り終わると校門の所へジョーロとリールファルダを持って、移動しようとすると部室の反対側から声が聞こえる。


 抱えた物を置いて、そっと部室の傍から覗くと少し向こうで九条先輩が男子に話しかけられている。何だあれ。告白って奴か。


 そのまま見ていると男子が、頭をガクッと下げて反対方向に走って行った。


 九条先輩モテるんだ。まああの容姿だからな。俺が見ている事をばれない様にしながらジョーロとホースフォルダを持ち直した所に九条先輩がやって来た。


「遅れてごめんね。ちょっと途中用事が出来ちゃって」

「構わないですよ。後校門の所だけです」

「ありがとう」


 今日も校門の所で水やりをしていると他の生徒からジロジロ見られたが、それも終わり、ジョーロとかを部室に片付けると

「じゃあ、帰ろうか」

「はい」


 俺はそのまま帰ろうとしたのだが、

「ねえ、麗人。今週末からのGWの件なんだけど、今週の土曜日から来週の日曜まで連続して休みが有るでしょう。

 私達は休みだけど、お花は水やらないといけない。一応用務のおじさんが、やってくれる事になっているんだけど、心配だから来週の水曜日来れないかな?私も勿論くるから。それにその頃になると草むしりも必要なんだ」


 確かに言っている通りだな。

「分かりました。何時に来ます?」

「じゃあ、午前十時でいいかな」

「はい」




 そして、金曜日、遠足の日になった。この日は一年から三年まで全員で行く。学年ごとに行先は違うが、グラウンドには、生徒と先生が一杯いる。総勢で九百人を超えているからだ。

 バスも五十人乗り大型バスが二十台近く学校の周りに停まっている。


 校長の短いお話の後、学年単位で説明が有って、俺達は無事にバスに乗り込む事が…。

「私が田所君の横よ」

「私よ」


 後ろで揉めている。流石、イケメン田所だ。

「凄いな田所は」

「早乙女、お前分かっていないな。お前の傍に座りたいんだよ」

「俺の近く?」


 そうか、俺と田所、健吾と雫と横座りだが、健吾と田所の間の席に一人座るんだ。そこを争っているのか。


「あなた達、早く乗りなさい」


 桜庭先生にたしなめられた。先生はジャージ姿だ。胸の強調が凄い。


 結局、田所と健吾の間には、誰も座らなかった。


 全員が乗ると桜庭先生が

「全員乗ったわね。途中一回だけ休憩に入ります」


 バスが動き出した。



 俺窓の外を見ていると田所が話しかけて来た。

「早乙女さぁ」

「なに?」

「こんな事聞いて悪いんだけど、小さい頃からそんなに綺麗というか可愛かったの?」

 何と答えていいか。すると健吾が、


「田所、麗人は生まれた時からだ。俺とは小学校五年からだけど、その時は男女の見分けつかなかったな」

「ふーん。そうか。悪い事聞いたな」

「いいよ。俺は田所のイケメンが羨ましいよ」

「そうでもないさ。これはこれで、大変なんだ」

「そうか」


 どうも、俺は健吾と雫しか話してこなかった時間が長いのか、他の人とのコミュニケーション能力が少ないようだ。



 途中、一回の休憩を取って、着いたのは有名な遊園のあるアスレチックコース。


 一年生全員がバスから降りると学年担任が、

「ここには遊園地があるが、お前達はアスレチックコースだ。リーダは担任よりマップを貰う事。そこにマークされているチェックポイントに先生方がいるのでマップにチェックを入れて貰う様に。

 普通に歩いても一時間半でここにっ戻って来れる。急がなくてもいいぞ。ここに戻ったら、向こうにあるレストランで決められた席に座って休んでいるように。

先頭と最後では時間差があるが、それは我慢しろ。各クラスの一斑から五分おきにスタートだ。 

チェックポイントと次のチェックポイントの間にも先生方が立っているから、気分が悪くなったりした者は、無理しないで直ぐに申し出る様に。ではスタートだ」


 各班のリーダが桜庭先生からマップを貰う。俺達はスタート三組目だ。


 十分後、俺達三班もスタートした。最初はなだらかな上り坂だ。他のAからFクラスの三班も同時だ。

「田所、急ぐ事も無いらしいからゆっくり行こうぜ」

「ああ」


 歩いて十分程すると違和感に気付いた。何故か俺達の班の周りには他のクラスの班がいる。それも何故か周りを取り囲む様にいる。どうしたんだ?


「田所、健吾、雫。少し早く歩かないか」

「ああ、俺も考えていた」


 俺達が少し早足で坂を登り始めると、周りの班も早くなった。やっぱり。仕方ないか。

二十分程歩くと最初のチェックポイント見えて来た。先生がマジックを持って待っている。

「来たな。次はアトラクション付きだ。楽しめよ」

「「「はい」」」


 五分もしない内に二人ずつ二列になってロープで下がり降りる定番のアトラクションだ。結構長い。

「俺と早乙女が左。小早川と東雲さんが右で同時スタートな」

「「おう」」


 ジャーッ、ジャーッ、ジャーッ。


 顔に当たる爽やかな風が気持ちいい。五十メートルくらいだったけど、中々良かった。これで後ろと差をつけられる。


 俺、田所誠也。今、横をロープで一緒に降りている早乙女麗人を見た。風で髪の毛が後ろに流されて綺麗に顔が現れている。


 はっきり言って、男の俺でもぞくっとするぐらい綺麗で可愛い。イケメンという表現じゃない。どう見ても女性にしか見えない顔立ちだ。


 どうやってこんな奴が生まれて来たんだ。難しい事は分からないが、一緒にいるのは嬉しい。俺あっちの気ないんだけど。

 見惚れている内に着いてしまった。


「さっ、行くぞ」



 三人で少しアップダウンのある道を歩いて行くと第二チェックポイントが現れた。田所がマップにチェックして貰うと先生が

「少し下りが続くから急いで歩かない様に」

「はい」

 後ろとは大分離れた。


 確かに、ずっと登りだったから、今度は下りか。下りの道を歩き終えると小さな沢が有った。何組かが休憩している。


「どうする。休むか」

「いや、歩こう。雫大丈夫か?」

「麗人の方こそ」

「じゃあ、行くか」


 沢で休んでいた生徒達が一斉に立ち上がった。

「えっ?!」


「早乙女早く行くぞ」

「ああ」


 後は平坦な道だが、道が細いので細長い列になっている。何だこれ?


「何か、長い列だな。十班以上いるぞ。早乙女の凄さが分かったよ」

「俺の凄さ?」

「ああ、全校生徒美少女No1だ」

「俺は男だって言うの」

「あはは、周りはそう思っていない」


―――――

 長くなってしまったのでその二に続きます。


 書き始めは読者様の応援が一番のエネルギーです。

 まだ★が少なくて寂しいです。投稿開始段階で少ないと心が折れます。評価してもいいけど★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると次話書こうかなって思っています。

宜しくお願いします。


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