第3話 オリエンテーション


 ここ都立星城高校の制服は指定服と呼ばれ、学校のイベントや行事の時以外、着る必要がない。もちろん着てもいいけど。

 

 入学式の翌週の月曜日。俺は私服で高校の最寄り駅で健吾と雫を待っていると


「ねえ、あなた。なんて名前なの?」

「……………」

 誰、この人?


「黙っていないで、お姉さんとお話しない」


 その時だった。

「「麗人。おはよ」」

「健吾、雫。おはよ」

「麗人、誰その人?」

「知らない」


「あら、二人はこの子の友達?うちの高校の子なの?」

「うちの高校って?」

「この駅に降りるんなら星城高校よ。そっかぁ、今年の新入生ね。じゃあ、また後で会えるわね。じゃあねえ」


 良く分からないが、どうも上級生らしい。手をひらひらさせながら学校の方へ歩いて行った。



「麗人、どっちに誤解されたんだ?」

「さぁ?」

「麗人は私服だと見分け付かないものね」

「仕方ないだろう。父さんと母さんがああなんだから」

「まあ、理由は分かるけど。肌も綺麗だし、喉仏も出ていないし、切れ長で綺麗な目、素敵な顔立ち。鼻も唇も女性っぽいし、髪型も女性男性どっちとも受け取れるし。それに何と言ってもそれですっぴんだものね。女性から見たら羨まし限りだけど」

「雫だって可愛いじゃないか」

「麗人にいわれてもねぇ」

「おい、早く行こうぜ」



 学校まで歩いていても健吾と背の高い女の子二人にしか見えて無い様だ。それが証拠に


―なあ、あいつ朝から両手に花だぜ。

―新入生だろ。ふざけているよな。


 健吾はふざけて無い。



 昇降口で上履きに履き替えて教室に行く途中でも男子から熱い視線が送られてくる。勘弁してくれ。


 三人で教室に入って自分達の席に着くと、俺の前の席になった上条さんが、

「早乙女さん、おはよう。私服だと区別付かないわね。羨ましいわ」

 何が羨ましいんだ。俺は男だぞ。


「おはよう上条さん」


 後は前を向いてしまった。本当は彼女の位置に座っていれば雫や健吾と話を出来たのに。でも彼女の、前が見えないっていう理由も分かるからな。



 私、上条里奈(かみじょうりな)。本当は前が見えない訳じゃない。こんなに可愛いくて綺麗な男の子が目の前に居たら勉強なんか手に付かない。だから代わって貰った。おかげで勉強に集中出来る。

 でも彼、とても魅力的。どこかで普通に話せる様になると良いんだけど。



 予鈴が鳴って担任の桜庭先生が入って来た。今日はパンツスタイルだ。上はシャツでカーデガンを羽織っているけど、胸がパンパンでシャツがはち切れそうだ。


 出席を取り終わった後、


「皆さん、今日は校舎内を案内します。他のクラスも場所と時間差で見学しますので廊下のすれ違いの時、ぶつからない様にして下さい。では早速行きましょう」


 俺達は、一応ノートと筆記用具を持って出かけた。音楽室、理科室実験室を見て説明を受けた。 

校舎全体の説明を兼ねて各校舎の非常階段がどこにあるかも説明を受けた。



 学食では、管理者らしき人がチケットの買い方や、学食内での食事の受け取り方、ウォーターサーバーの位置や布巾の使い方を教えてくれた。


 それに基本メニューも教えてくれた。A定食がボリュームあり、B定食がヘルシー、更に蕎麦、うどん、カレー、かつ丼、唐揚げ丼等があるらしい。結構美味しそうだ。


 他のクラスの生徒と廊下で会った時は、二手に別れて歩いたけど、背が高いのとやはり顔が目立つのか、男子だけでなく女子からもジロジロと見られた。


 一度教室に戻って十五分程休むと


 体育館に行って二階を見たり、各部の用具室を見たりした。庶務室や校長先生の部屋、生徒会室や職員室も説明を受けながら見て回った。



 ここまでで、午前中が終わってしまった。午後からは各部活の発表が体育館で有るらしい。

 そう言えば図書室の案内が無いなと思っていると朝渡されたシオリに図書室のオリエンテーションは、明日の午前中と書いてあった。


「麗人、雫。早速学食に行こうぜ」

「うん」

「ああ」


 学食に行くと結構生徒が自販機の前で並んでいた。

「麗人、何する?」

「まずはA定食からかな」

「私はB定食」

「決まりだ」


 並んでチケットを買ってカウンタに並んだ。なぜか周りからチラチラ見られている。


 三人共カウンタで定食を受け取ると空いている隅っこの四人席へ座った。結構混んでいる。


「思ったより混んでいるな」

「ああ、急いでいる時は購買に行くしかないな」

「でもそれも競争激しそうだし」


 俺達が話しながら食べていると何故か、空いていた俺達の周りの席が一杯になった。男子も女子もいる。俺達をチラチラ見ながら



―あれ、今年の新入生だろ。

―凄い美人が入って来たな。

―でも隣の可愛い女の子と比べると空母の甲板だぞ。

―いや、晒しを巻いているのかも知れない。

―しかし背も高いし、モデルだな。


―隣にいる子って、どこかで見た事ない?

―私もどこかで見た事有る様な気がするんだけど。

―もしかして読モとかしているのかな?

―後で聞いてみようか。

―うんうん。



「雫、健吾。俺明日から購買のパンにするよ」

「それしかないな。俺もそうするよ」

「じゃあ、私はお弁当持って来る。二人の分は作れないけど、おかずの提供は出来るわ」

「悪いな」

「いつもの事でしょ」



 俺達は、食べ終わると早々に学食を退散した。学食を終えて教室に戻って来ると何やら女子達が集まって何か話している。俺達が教室に入ると

「あっ、じゃあ。ここまでね。約束は皆で守ろう」

「「「「分かった」」」」


 十数人いた女子があっという間に自席に戻ったり廊下に出ていたりした。なんだ?



 午後からは体育館で各部の説明会というか発表会が有った。過去の実績や如何に楽しいか等を一生懸命上級生が説明していた。


 運動部と文化部合わせると二十以上ある。一クラブ五分しか割り当てられていない。交代を考えると実際には四分にも満たない。それでも休憩を入れると二時間近くになってしまった。


 そしてなんと、帰りは昇降口から校門まで各部活の出し物(勧誘)のオンパレードだ。両脇に分かれている。


 三人でその中を歩いて行くと野球部、サッカー部、男子バスケ部、男子バレー部や剣道部、空手部、柔道部、弓道部、中国武術部などの運動部から異口同音に

「うちのマネージャしない?」

 とか言って来ると


「男子達何言っているの、彼女は我が女子テニスよ」

「何言ってんの。彼女は女子バスケよ」

「いえいえ、女子ソフトボールよ」

「女子バレーに決まっているでしょう」


 運動部の通りを早足で抜けると

「君、演劇に向いているわよ、直ぐにヒロイン出来るわ」

「君がダンス部に入ってくれると嬉しいんだけど」

「何言っているの。彼女はバレエ部よ。その長い手足で白鳥の様に踊れるわ」


 健吾が腹を抱えて笑い出した。雫が目に涙を溜めている。

「健吾、雫、早く行こう」


 通り過ごそうと思ったら、校門の出口の方で一人の女子が花壇に水やりをしている。

「ねえ、あなた。園芸部どうかな。あなたの様に美しい…。あっ、あなたは朝の」

「あっ!」

「これは奇遇だね。ぜひ園芸部に入らないか。花達も貴方の様な綺麗な子に水を貰うと幸せなんだけど」

「あの、俺」

「えっ?!もしかして!」

「そう、そのもしかしてです。すみません」


 そう言って、もう校門を出ようとするとがっちりと腕を掴まれた。簡単に振り切る事は出来るけど相手は女性だ。


「離してください。二人と帰るんです」

「ねえ、君、名前は?名前だけでも教えて」

「早乙女麗人です」

「私は九条静香(くじょうしずか)。二Aよ。宜しくね。麗人」


 そう言うと手を離してくれた。


 駅まで三人で帰りながら

「麗人、高校入学の洗礼だな」

「勘弁してくれよ」

「まあ、私達が同じクラスだったのが良かったわね。麗人一人だったらどうなっていたか」

「ああ、頼りにするよ」


 明日、学校早く終わったら、道場に行きたないな。しかし、何が俺の胸は空母の甲板だ。胸囲は百五センチあるんだぞ。


―――――


 書き始めは読者様の応援が一番のエネルギーです。

 まだ★が少なくて寂しいです。投稿開始段階で少ないと心が折れます。評価してもいいけど★★★は上げないという読者様、★★でも★でも良いです。頂ければ幸いです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると次話書こうかなって思っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る