第三幕-3

そうして本を読んでいる途中で、本町が買い終わって来て。

スーパーで買って来ただろう袋には、レトルト食品や缶詰が詰まっていた。

……そういえば、地下に閉じ込められるって本だったな。

非常食を食べて、雰囲気だけでも味わおうって考えの様で。


「お邪魔します。お待たせ、用意して来たよ。前永君が読書に没頭出来たらなって感じで」

「……思うんだけど、本町って本当に料理が出来るのか?」

「あっ……もしかして、普通に晩御飯の方が良かった? 残念。今から買ってくるから」

「いや、いい。……まぁ、アレだ、今度からは俺も一緒に買い物するよ」


重い荷物を運んで来て貰ったという罪悪感と、彼女の感性への困惑で。

一応、こういうのも好きなのは事実だから、仕方ないかと諦めた。

……今度は、一緒に美味しいレストランの本でも読んだ方がいいかもな。

なんて考えながらも、買って来た物を期待してる自分がいた。


「じゃあ、何から食べる? レトルトのカレーとか、鯖の缶詰とか。インスタントラーメンもあるよ?」

「どれでもいいけど、どれも普段食べた事があるからな。どれも変わらないというか」

「へぇ……だったら普段から食べてるのを、美味しく出来たなら? 例えば、インスタントラーメンを」

「お湯を注ぐだけだろ? 別に変わりないと思うけど……」

「色々、手を加えるだけで変わるから。味。取り敢えず台所を貸して?」

「いいけど……別に加える物なんかないぞ? うちの冷蔵庫には」「あっ……」


残念な者を見る目付きは、同情なのか呆れなのか。

……料理はしようと思ってるがな、どうにも面倒で。

仕方ない、今日は普通にインスタントな夜食にするかと考えて。

ふと、本町の方を見ると……何か閃いた様な顔をしていた。


「……良い事考えたけど、どう? 今から家に食材を取りに行ってくるけど」

「……内容による」

「やっぱりね、ミステリーの面白さは謎解きにあると思うの。疑問。問題を解決した時の楽しさが大事だからね?」

「……それと食材を取りに行ってくる事に、何の関係が?」

「今から食材を取りに行って、インスタントラーメンに加えるの。それで、何の食材を加えたかってミステリー。どう?」

「あぁ……別に構わないけど、それだと張り合いがないな。あの物語も、時間制限という危機感があってこそだろ」

「そう! だからね、何を持って来たかを事前に考えて。作る前に当てられたら、食費は私が出す!」「成る程なぁ……」


正直、謎解きよりも早く晩飯を食べたいって気持ちが先にあるけれど。

ここで止めても、言う事を聞く彼女ではないし。

それに食費を向こうが出すのは魅力的な条件で、賛成してもいいかなって気になった。


「賛成だな。今日、本町が買って来た食費は払わせるからな」

「こっちの台詞だから! 覚悟! あっ、それと正解したら明日からの弁当も作るから! それじゃ!」


勢いのままに、彼女は家を出て。

取り残された前永は、唐突に言ってきた弁当の話を聞き返せず。

気付けば、玄関の近くでぼうっと立ち尽くしていた。

……弁当を、作る?

それってつまり、学校の昼飯の話だよな?

今日の食費は嬉しいけど、明日からは教室で本町が手渡ししてくるって考えると。

恥ずかしいし、付き合っても無いのに弁当を貰うのは気が引けるし……うん、失敗しよう。

そう考えて、ふと、疑問が思い浮かぶ。

失敗と言っても……どうクイズを間違える?

ただ失敗しても、ふざけてると思われるだけだし。

インスタントラーメンをアレンジする食材で、予想は出来るけど絶対に外れて。

……無いよなぁ、そんな食材。


その時、ふと思い付く事があった。

彼女が持って来る食材で、絶対に持って来れない食材。

有り得そうだけど、絶対に有り得ない食材。

どう考えても、これを持って来るのだけは有り得ないと確信して。

今日、彼女が買って来た食材を支払うのはキツいが、恥ずかしさには代えられない。

残念だけど、このクイズ……外させて貰うからな。


「お待たせ! って、随分と自信満々だね。余裕? 確実に当てれるって雰囲気」

「まぁ、そんな所かな」

「だったらとびきり難しい食材だけ……おまけに、チャンスは一回! どう? 当てれそう?」

「そうだな……インスタントラーメンに加える材料だろ? その中の一つを当てるんだよな」

「そう。で、答えは」「……日本酒!」


「正解! よく分かったね。天才。私、クイズだから絶対に当てられない材料にしようと思って」

「……待て待て、マジで? 日本酒? あの、母に怒られたりしない?」

「料理に使うと言ったから。大丈夫、怒られたりしないよ」

「そうだけどさ……」

「割と悩んで、絶対に当てられない物を持って来ようと考えたの。年齢。高校生なら買えないお酒なら、絶対に無理だと考えたのに……」


年齢の制限があって、親が持ち出そうなら怒るに違いない食材。

お酒でかつ、日本酒なら有り得ないし当てられないと思っていたけど。

本町の方も同じ事を考えていた様で、逆に当たってしまう。

これで食費は向こうが払うけど、ついでに弁当も一緒となると……

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