第二幕-4

そうして近くのファミレスに向かい、手を洗ってから席に着く。

どれだけ食べてやろうかとメニューを手に取り、吟味していると。


「……本町、メニューならもう一つあるぞ」

「私はいいの。満腹。今日は朝、しっかり食べる時間があったから」

「あっ……すまん」

「いいの、お陰で今日は楽しかったし」


あれで楽しめてる理由は分からないが、まぁ、良しとしよう。

こうしてタダ飯が食べれるなら、感謝するに越した事はないし。

にしても……俺が食べてる間、ガッツリ本の解説をするつもりだな。

別に構わないけどさ、そこまで読書にハマるものなのかな?


「……以上で。本町、本当にいいのか?」

「大丈夫、お腹いっぱいだし。それに本の話もしたいな」

「じゃなくて、財布だよ。三千円は超えるぜ」

「二、三万までならあるから。……もしかして、前永君の家って貧乏?」

「……煩い」


彼女が学校に持って来てる本、毎日、別の本だよな。

それだけ買う金があるって事か……

色々と負けた気になるけど、それでも食欲には代えられない。

折角だからと、もう何個か注文をする事にした。


「さて、これでゆっくり本の話が出来るね。本当はゴミ拾いしながらの予定だったけど」

「食事しながらだから、聞くだけしか出来ないぜ」

「いいの、前川君なら話すのも食事を見るのも楽しいし」「分からんな……」


何が楽しくて、人の食事を眺めるのだろうか。

世の中、人に奢らせて楽しむ人がいるのは知ってるけど。

まさか本町がそんな人だとは思わず、少し意外だと思った。

……いや、割と予想通りか。


「それでね、さっき当ててくれた内容の話になるけど……逆行転生は大体、分かるわよね」

「何となくな。要は、その王女が悪い事をして処刑され、昔に転生してやり直すんだろ?」

「んー……惜しい。残念。大体は合ってるけど、割と違うかな」

「どこかだよ。昔じゃなくて、割と最近とか?」

「そうじゃなくて、王女が悪い事をしていたって部分」「……はっ?」


料理はまだ来ていないのに、食事をする気分じゃなくなり。

どうしても本町の話が気になって、真剣に聞いてしまう。

……というか、そこが一番、大事な部分だろ。

主人公が悪い事をしていないなら、何の為に善行を積んでるんだよ。


「正確に言えば、悪い事はしていたかな? 我が儘。人使いも金遣いも荒くて、自分の行いを反省しなくて。悪い事は悪いけど、でも、それで処罰する?」

「あー……確かに。でも、それならどうして処刑されたんだ?」

「そこが肝心な部分になる訳。本人は悪くないけど、処刑される様な悪人と勘違いされる原因があるの。善行を積んでる内に、段々とその原因に近付いて行って……」

「近づいて? どうなるんだ?」

「まだ一巻しか読んでないから。残念。もっと読み進めたいけど、他にも読みたい本があるし……」「あのなぁ……」


相変わらずと言えばそうだけど、彼女との会話はよくこうなる。

肝心の結論には至らず、中途半端で気になったまま終わり。

崖に突き落とされて助けられるか、それとも落ちるか。

そんなクリフハンガーの最中にいる気分になってしまう。


「という訳で、前永君に読んで貰う事にしたの。はい、これ」

「これって……三冊もあるじゃないか」

「まずは三冊、明日にでも読んで貰おうかなって。月曜日。続きが読みたくなったら、また買ってあげるから」

「ちょっと待て。本町、合計で何冊あるんだよ」

「詳しくは知らないけど……確か、八か九はあったかな? 楽しみだね、読むの」

「……俺はそこまで、読むの速くないぞ」


普段から読書に慣れてる彼女なら、三冊どころか全冊を読みこなせるけど。

今の俺なら、一冊を読むのが限界だろう。

もしかしたら、頑張って三冊とも読み切れるかもしれないけど。

月曜日に感想を言うって事を考えると、一冊をジックリ読み込んだ方がいい気がする。

……まぁ、感想を言うだけだし、そう気難しく考えなくていいか。


そうして結局、ファミレスで食事を奢られながら本の話を聞かされ。

ゴミ拾いをする原因となった物以外にも、あれやこれやを話されて。

よくもまぁ、そこまで読み込んでるのかと感心する。

やっぱり、そういう本を読むコツでもあるのか?


「それでね、次は……」

「ちょっと待て。一つ聞きたいんだが、本ってどうやったら読めるんだ? そんな大量に」

「……んー、難しい質問だね。これといった答えはないけど、一つだけ言えるのは……本は読めないかな?」

「……オモシロイジョウダンデスネ」

「本気だよ、本気。真面目。実を言うと、私もそう思う事があるんだ」

「学校で一番、本を読んでそうなお前が?」

「世の中は広いからね。家のパソコンで本を探したり、感想を見たりするけど……いつも、羨ましいと思ってる。嫉妬」

「本で嫉妬ねぇ……」

「自分より上手く言語化が出来て、自分よりもっと本を読み込んでいて……自分よりもっと、本が好きで。そんな人達ばかり」

「……世界は広いからな、そういう時もあるよ」

「ありがと、前永君。……たまに、君の事が羨ましくなるよ。本を読まない人の事を」

「そうか? 本は読めた方がいいだろ?」

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