第二幕-3

「どうしたの? 手が止まってるけど」

「いや、ちょっと……そのさ、物語では王女がゴミ拾いをして、何かいい事があったのかもしれないけどさ。実際、楽しくないだろ」

「あぁ、ゴミ拾いはやってなかったよ」「なかったの!?」

「正確に言えば似たような事はしてたけど、流石に無理だったから。残念。でも、物語でも良い事はなかったかな?」

「なら、何で俺達はゴミ拾いをしてるんだよ」

「正確に言えば、本人は良い事に気付いてないって感じ。周りの人が見て、評価を改めるとか……そんな感じ」

「そんな感じ……ねぇ。俺としては直接的な物が欲しいけどな」

「なら、帰りに何か奢ってあげよっか?」「そういう同情じゃなくて……」


流石に今から、全て放り出して帰る気にはなれなかったけど。

出発した時の元気はなく、やる気が段々と減っていくのを感じる。

それを見かねた高丸先生が、真剣な表情でこちらを向いた。


「前永、想像力だ。想像力を鍛えろ。クイズだと思えばいい。本町が出したクイズと同じで、自分がゴミ拾いをする理由を考えるのだ」

「考えるって……彼女に誘われただけですよ、俺は」

「だったら、ゴミ拾いをして感謝される理由を探してみろ。それで答えが見つかるかもしれんぞ」

「さっきは理由なんてないと言ってたじゃないですか」「それはそれだ」


曖昧にはぐらかされた気がして、少し気が重くなる。

ゴミ拾いで何かが変わるなんて思えず、疑いの気持ちで頭が一杯になり。

……まぁ、やるだけやってみるか。

取り敢えず、目の前にあるゴミを拾う事にした。

まるでやる気はないけれど、今から帰るのもアレだし。

そうして再び、ゴミを拾い始めて数時間が経った。


「ある程度溜まって来たし、そろそろ解散にするか。二人共、今日はよく頑張ったな」

「……先生は勝手に来ただけですよね」

「そう言うな、これはこれで楽しかっただろう? ゴミは先生が車で持ち帰っておくから、安心して帰っていいぞ」

「はぁい」「分かりました、先生」


何の連絡も無しに参加した先生は、勝手に解散を宣言する。

今日は二人でのゴミ拾いだったのに……

集めたゴミを持ち帰ってくれたのは有難かったが、それはそれ。

というか、そもそも俺はどうしてゴミ拾いなんてしてるんだろうな。

本町の誘いだからといって、参加する義務はないってのに。


「……なんかごめんね。今日は二人の予定だったけど、先生が親に電話してきて」

「いいよ、もう。……なんか疲れたな」

「それじゃ、帰る前にファミレスでも行く?」

「気分じゃない。というか帰りたい」「そう……」


折角の土曜日をゴミ拾いに費やして、他の同級生なら遊んでただろうに。

きっと、向こうで公園の遊具を使って遊んでる子供の様に。

第一、あの子供だって公園のゴミが少なくなったとしても、喜ぶだろうか?

遊んでいる時にゴミに突っかかり、コケて怪我でもしない限り。

もしくは、ゴミがあるから怪我するって経験でもしない限り。

有り得ない、そう心で思った瞬間、何か引っかかる感覚がした。


「ゴミに引っ掛かる……そんな経験を味わって……もしかして」


昨日の夜、悪役令嬢というテンプレで調べてる時の事。

確か、他にもいくつかテンプレの種類を見ていて……

逆行転生、それが今の状況にピッタリと合う。

自分が悪い事をして処刑された瞬間、遥か昔に戻って。

将来、自分がしてきた悪事で処刑されるのを防ぐ為に、善行を積んでいくという。

そうして心変わりした自分のお陰で、周りからの評価が上がっていき……


「逆行転生か? ゴミ拾いをする話になった本は」

「正解! よく気が付いたね」

「何となくだよ。偶々、ゴミ拾いをしなかった将来を想像して。そんな感じで」

「そっか。で……どう思う? 話してた王女みたいに、前永君も良い事をする気になった?」

「全然。ていうか、そのテンプレは周りが評価を改めるって感じだろ? 今日の公園、人がいないじゃん」

「あっ……確かに」「なんだよ……」


本で興味のある事は、取り敢えず突撃するのが本町だ。

それを悪いとは思わないけど、少しは考えて行動して欲しい。

たかがゴミ拾いをしただけで、周りからの評価を得られるとは限らないし。

……そういう現実に飽き飽きしてるからこそ、物語を楽しむのかな。


「まぁ、私は楽しかったよ。前永君。ちゃんと本の通りに理解してくれる人……じゃないかもしれないけど、嬉しかったし」

「高丸先生がか? やめとけ、怒ると怖いんだぞ」

「違うよ? 残念。前永君には分からないか」「……?」


相変わらず、分かる様な分からない様な事を言ってくる。

まぁ、それで楽しめてるならいいと思ってはいるけど。

せめて、本の内容は素直に伝えてもいいんじゃないかな。

じゃないと、また眠れなくなる日が来るかもしれないし……


「でも、それだけじゃないから。王女様が改心して人の為に行動する様になったら、それを他の人が手助けするの。助けてくれたお礼に感謝してね」

「他の人が手助けねぇ……あくまで物語の話だろ? 現実は違うから」

「だったらファミレスに行く? 私が奢るから。タダ飯」

「……そこまで言うならな。いっぱい食べてやるから、後悔するなよ」

「了解。……ほら、良い事あるじゃない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る