第二幕-2
結局、朝食はテンセブンで食べる事にした。
あまり待たせすぎるのもアレなので、軽くサンドイッチを何個か。
土曜日の朝、手にゴミ拾いの道具を持って入るのは少し恥ずかしく。
サッサと店を出て、約束の山にある公園へと向かう。
待ち合わせ場所は駐車場、すぐに見つけられたけど。
隣に高丸先生がいると分かって、困惑しながら挨拶する。
「本町、おはよう……おはようございます、高丸先生。場所、言ってなかったですよね?」
「どうしても気になってな、本町の親に電話して聞いたのだ。それに、保護者も無しに野外活動は危険だろ?」
「もう高校生ですよ、ほぼ大人です。心配しなくても自分達だけで何とかしますので」
「そう言うなよ。心配なのだぞ、一応はお前らの担任だからな。何かあっても責任が取れる者がいないと」
「はいはい、そうですか」
高丸先生から事情を聞いた後、本町の方へ向き直す。
一応、怒ってる雰囲気じゃないけど……表情、硬いから分かんないな。
「……ごめん。今日は夜、眠れなくって。考え事をしててさ」
「いいの、それだけ本に夢中になってくれたなら。感謝。それで、答えは出た?」
「恐らくだけど、悪役令嬢とか? 最近の流行りだし。貴族令嬢の代わりに王女って感じで」
「ブブー、不正解。残念。ただ、死んで生まれ変わるって意味なら近いかな?」
「なんだ、本の話か? いいものだな、若い者が本を読んでるのは。近頃はスマホばっかりで、どこへ行っても画面ばかりを見とるからな」
「……行きましょ、前永君」
先生のたわ言を無視し、僕達はゴミ拾いをし始めて。
黙々と、本の話をせず只管に辺りを散策し始めた。
本当は公園でゴミ拾いしながら、楽しく本の話をしてくる筈なのに。
予定を狂わされた本町は、いつもより不機嫌そうな表情を見せていた。
「……思ってたのと違うわね」
「本の話をすると、後ろから先生が茶々を入れてくるから? 悪いね、今度から先生には秘密にするから」
「そう言うなよ。先生、悲しいぞ」
そういう所ですよ、高丸先生。
「そうじゃなくて、思ってたより楽しいなって。まぁ、先生が来るのは予想してなかったけど。意外性。まるで物語みたいに、ドラマが生まれるのもアリだし」
「いい事言うねぇ。それに対して前永は、年長者に対する経緯がなさ過ぎるぞ」
「そうですか。……で、結局、答えは何だっけ?」
「秘密。もう少し考えて欲しいな、自分で見つける方が楽しいし」「あのなぁ……」
そうしてゴミ拾いは順調に進み、特に何事もなく袋が膨らんでくる。
とはいっても、満杯になる程集まるって訳でもない様で。
思ったより落ちてないけど、探せば見つかる程度には落ちてるんだなと。
そして、思ったより公園に人はいるんだなと、そんな事を思った。
「意外と来てるんだね、公園。ショッピングモールとか映画館とか、そっちに行ってるかと思ったけど」
「運動したり、賑やかな子供を遊ばせるにはうってつけだからな。子供がいきなり叫んだりしても、周りの注目を集めないし」
「自分みたいに、ゴミ拾いをしに来る人はいませんけどね。第一、ゴミはゴミ箱に捨てればいいじゃないですか」
「ゴミ箱? ないぞ、ここには」「……えっ?」
高丸先生の言葉を呑み込めない自分がいる。
ゴミ箱がない? ……そういえば、この公園では見てなかったな。
確かに街中では自販機の横しか見てなかったけど、公園ならあると思っていた。
でも……どうして?
「というか、ここだけじゃなく全国的にないからな。普通、ゴミは持ち帰る事になっているんだ」
「だからゴミがちらほら落ちてるんですね。……ゴミ箱、設置すればいいのに」
「テロがあったのよ。昔。警察がね、テロの対策にゴミ箱を探さなくていいようにって」
「さっすが、本町は普段から本を読んでるだけはあるな」
「でも、昔の話でしょ? それに、ゴミ箱がないからってテロがなくなる訳じゃないのに」
「そこら辺は、まぁ、あれだ。行政に金がないんだ。ゴミ箱を設置したら、その分を業者が回収する必要があるからな」
「……つまり、面倒って事ですよね?」
返事の代わりに、何とも言えない表情をして高丸先生は誤魔化す。
賛成も反対もしないのは、生徒の自主性を重んじる大井町高校の方針か。
……大の大人なんだから、そこはビシッと言えばいいのに。
「高丸先生はどう思ってるんですか? ゴミ箱、無くしたからってゴミをポイ捨てする人は出てきますよ?」
「何とも言えんな。ゴミ箱がないのは行政の怠慢だと言う者もいるし、ゴミ箱があれば勝手に不法投棄する者がいるって言う者もいる。どちらが正しいとは決めきれん」
「何ですか、それ。学校のテストなら答えは出ますよね?」
「道徳の授業だと思えばいい。しっかり考え、自主的に答えを出せる大人になる事を期待してるぞ」「はぁ……」
呆れ、溜め息を吐く前永を前に、先生はゴミ拾いを続けて。
本町もそれに続いているけど、自分だけはどうしても納得が出来ずにいた。
自分のやってる事が、誰かが怠けるのを手助けしている様で。
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