10.あなたは僕のもの

 ああ、ぼーっとしてきた。やはり飲みすぎたのか。飲み直しの一本をやめておけば良かったのか。それでも気分はふわふわしていて、心地が良い。




「大丈夫ですか」


「大丈夫、大丈夫」


「……大丈夫そうに見えないですよ、ふにゃふにゃじゃないですか」



 ああ、なんだろう、なんだか熱いなあ。



「……わ、ちょっと、ナツさん!」


「んなあに、どうしたの」


「なんで脱ぎ始めてるんですか」


「熱いし、部屋着」


「待って、待って」



 なにを、待つのか。この時のわたしにはもうわからなかった。ただただ邪魔に思えた服を次へ次へと脱ぎ捨てて、解放されたい一心で、少なくとも上半身は下着姿であっただろう。


 ふと、左腕を思い出す。


 ぼんやりとする意識の中、わたしはおもむろに、自らの目を両手で押さえるようにして隠しているハルくんの両腕を掴んで視線を合わせる。しっかりと交じり合った目と目は、なんだろう、懐かしいような。



「ねえ、これって、ハルくんとなにか関係ある?」



 そう言って左腕を上げるようにして彼の前に差し出した。そこには、例の腫れ物。これ以上膨れることもなく、だからと言って引くこともない、それ。


 彼は、なんだか言い淀んでいるようだった。視線を逸らしてさあどう答えたものだろうか、と思考を巡らせているように見て取れた。


 少し考えた後、優しくもどこか、にやにやとした笑みを浮かべたかと思えば、もうすでに酔っていて意識も危ういわたしの耳元へ唇を寄せる。耳にかかる彼の吐息は熱かった。



「これは、ナツさんが僕のものって証だよ」



 低く囁けば脳まで痺れて、同時に彼の指先は、左腕に触れ、なぞるようにしてわたしの肌を滑る。腕から、肩、肩から鎖骨、そして胸元。彼の指が滑るほどに、くらくらと酔いがまわる。



「いつも僕の夢の中で、あなたは最後に、僕に何を伝えたがっているの?」



 たぶん、そう言っていた。


 そうして彼は、出会った時と同じようにわたしの左腕のそこへ、唇を落とす。痺れる体、脳みそ、神経。血管を流れる血がまるで沸き立っているかのように更に熱くなる体。


 わたしは、弱い。


 血管がそのまま切れてしまったかのように、わたしは意識という線をぷつりと絶って、倒れ込んだ。

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