6
「お別れじゃないよ」レオが横からはっきり言った。「ただ……姿が変わるってこと」
姿が変わる? ますますわけがわからない。私が黙っていると、ラルフがためらいがちに口を開いた。
「あのね、メアリ……実は僕らは……人間じゃないんだ」
――――
……人間じゃ、ない? 何を言ってるんだろう、ラルフは……。人間じゃないんだとしたら、一体何者なの、あなたたちは。固い表情のラルフの横で、レオの笑い声が聞こえた。
「俺は黒い子猫で、ラルフははりねずみなんだよ!」
私の疑問に答えるかのようなレオの言葉だった。黒い子猫で……はりねずみ? ああ、人間じゃなくて、動物だったのか……。――ってどういうこと!?
「兄さん」ラルフが笑うレオをとがめるように言った。「それじゃあわけがわからないよ。メアリ、あの、そうじゃなくてね、僕らはぬいぐるみなんだ」
ぬいぐるみ。へえ、それなら納得……とはならないけど。
ラルフは真面目な表情のまま続けた。
「この家に子ども部屋があるよね、僕らはそこのぬいぐるみなんだよ。神さまにお願いして人間の姿にしてもらったんだ」
「黙ってるのずっとしんどかった!」笑いを引っ込め、レオが強い調子で言った。「隠し事は苦手なんだよ、俺。それに――」レオが私を見た。「メアリと仲良くなったから――仲良い人には嘘をつきたくない」
レオが私と仲良くなった、って言ってくれた。嬉しい! いや――でも今はその嬉しさをかみしめている場合じゃない。
わからないことだらけだ。今日は本当に変な一日。私はまだ夢を……見ているのかしら。ううん、違うと思う。頬に当たる冷たい空気が、これは現実なのだと告げている。
「あの……最初から説明してくれる?」
私は二人に言う。二人は顔を見合わせた。
「そうだなあ……」ラルフが今度は私のほうを向きながらつぶやく。「最初から……ええと、このお屋敷に以前住んでいた人のことは知ってるよね?」
「湖の魔物に食べられたという。スミスさんが話してくれた人」
「そう」
「詳しく知ってるわけじゃないけど……」
「その人がシャーロットのお父さんなんだよ。幼くして亡くなった娘さんが、シャーロットなんだ」
私は混乱する。シャーロットって……お嬢さまのこと? いや、違う。お嬢さまは生きてるから。
混乱したまま、私はラルフに尋ねる。
「……その娘さんが、お嬢さまと同じ名前なの?」
「名前が同じじゃないよ。同一人物なんだ」
「違うよ」ラルフの言葉をレオがきっぱり否定した。「同じ人じゃない。シャーロットは死んでしまって、メアリがいうお嬢さまは、シャーロットに似せて作られた作り物なんだよ」
「でも、あれは私の一部でもあるって、シャーロットが」
ラルフがレオの言葉に反論する。シャーロットがいっぱい出てくる! 何が何やらなんだけど!
「このお屋敷にね、昔ある家族が住んでいたんだよ」ラルフが私を見て、ゆっくりと言う。「父親と母親、そして娘のシャーロット。父親は乱暴な人で……やがて母親が出て行ったんだ。残されたシャーロットも身体が弱く、14歳で死んでしまう。死んで幽霊になって、この世に留まったんだ」
幽霊……お嬢さまは幽霊だったの? そういえば、今日の変な夢の中に出てきたお嬢さまも幽霊みたいになってた。お嬢さま……そういえば、お嬢さまは今どこでどうしてるんだろう。
私がぼんやり考えている間も、ラルフの説明は続く。
「僕たちは子ども部屋のぬいぐるみで、その子ども部屋はもちろん、シャーロットのだったんだよ。子ども部屋を卒業する年齢になっても、シャーロットはそこに来ていた。死んでからもまた……。シャーロットは僕らの友だちだったんだ。僕らはみんなシャーロットが好きでね、力になりたかった」
子ども部屋。そうよ、夢の中でもお嬢さまが子ども部屋にいたわ。そしてお屋敷の子ども部屋。あの部屋は閉ざされていた部屋だった。あそこは本当に――幽霊のいる部屋だったの。
ラルフは穏やかに話を続ける。
「シャーロットのお父さんも死んでしまって、この屋敷には住む人がいなくなった。ブライスさんとカーター夫人が管理をしていたけど。そこに一人の男性がやってきたんだ。ウィンストンさまだよ。この人は実は子どもの頃にここに住んでいた。孤児だったんだけど、10歳くらいの時にここに引き取られてね。後継者にするんだってお父さんが言ってると、シャーロットが話してた。シャーロットのお父さんが亡くなったあと、財産も屋敷もウィンストンさまの物になって、でもウィンストンさまはここを離れた。でもまた戻ってきたんだ。10年くらい前のことだけど。
ウィンストンさまが戻ってきてしばらく経った後、シャーロットがやってきたんだ……。といっても死んだシャーロットじゃないよ。死んだシャーロットは幽霊になって、ずっと僕らと一緒にいたもの。そのシャーロットはシャーロットじゃなくて、でもシャーロットで……。それには魔法が関係しているんだ」
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