雪女ちゃんは初めてがいっぱい! 中編
先輩に出会った瞬間に、わたしは恋に堕ちました。
このわたしがまさかの一目惚れです!
……嬉しすぎます。
だけど先輩のそばは緊張いたしますね。
心臓がどきどきっ。
ずっとどきどきです。
観光バスの中は冬やスキー場をテーマにした音楽が流れていてロマンチック。さらにどきどきが加速してしまいます。
だってラブソングの素敵なメロディに乗った歌詞が聴こえてきて。「雪が降ってきてるね、ねえキスしない?」「ロマンチックな夜、彼といたいな」とか「大好き」とか「愛してる」とか……きゃっ!
わたしは先輩の方がまともに見られません。
「俺、二年の
「わっ、わたしですかっ!?」
「うん。せっかく今日隣の席同士だし。名前も知らないのはね、味気なくね?」
「そ、そそそうですね。帰りも同じ席なんですよね。あの!」
「うん?」
「わたし。わたしの名前は花宮真雪です。二日だけのお隣ですが! よろしくお願いいたしますっ!」
「ふふっ、よろしくね。俺、やるのはスノボーの方だけど。真雪ちゃんは?」
「真雪ちゃんって名前で呼んでくださってる……」
「ごめん。いきなり名前呼びじゃ馴れ馴れしかった?」
「いっ、いえっ! いえいえ良いんです。大丈夫です。嬉しいですっ」
「ふははっ。真雪ちゃんって明るくって楽しい子だね。俺のことも夏希って呼んでくれて構わないよ?」
きゃーっ、弾けるように笑った先輩の顔が素敵すぎです〜っ。
「畏れ多くて『夏希』だなんて呼べません」
「じゃ、夏希先輩でいいや」
夏希先輩はすっと細長いチョコがけのお菓子をわたしに差し出します。
お箸みたいな長さのクッキーにチョコをまとわせたお菓子です。
「あげる。あーんってして」
「えっ?」
「真雪ちゃん、あーん」
「あっ、あーん」
わたしの口にサッとチョコのお菓子が……。
夏希先輩がくれたお菓子、とっても甘くって美味しい。
あーんって食べさせていただいて、あのっ、わたし、どきどきが止まりません。
「ありがとうございます。とても美味しいです」
「うん。良かった。美味いよね、これ。俺の弟と妹がこの菓子好きでさあ」
それから先輩の兄妹のお話とかわたしのお姉ちゃんたちの話をして。今日初めて会ったって思えないぐらい話が盛り上がりました。
いつの間にかわたしの緊張は解けて、夏希先輩とのお喋りがすっごく楽しいです。
「真雪ちゃん、スキーすんの初めて?」
「はい。……実はわたし絶望的なぐらい運動音痴かと思われます。だからスキーも滑れるかどうか」
「そっか。じゃあ無理せず楽しもう? 俺は今日はボードだけどスキーも一応やったことあるし。一緒にゲレンデで滑ろうか?」
「ええっ!? 良いんですか? わたしのことばかりになってしまいませんか? 夏希先輩が滑れないかも、楽しくないかもです」
「大丈夫だよ。真雪ちゃん、可愛いし。なんか妹みたいで放っておけない感じ」
がーん。
そうですよね。
妹みたいって……。
それは年相応じゃなくって幼いってこと。
夏希先輩にはわたし恋愛対象に見られてないんですね。
「スキーの道具はレンタル?」
「はい」
「着いたらレンタルショップに一緒に行こうか」
「そんなにしていただかなくてもあの初対面ですし、わたし面倒ですよね」
不意に先輩に頭をぽんぽんってされ、なでられてしまいました。
ひっ、ひぃやあああああ――っ!
体が思わず溶けて蕩けてしまいそう!
「面倒ってことないよ。俺、ちょっとお節介すぎた? なんかごめん。弟と妹がいるからかつい助けたくなっちゃうっていうか。困ってそうな雰囲気感じると口出したくなるんだよね。友達にはさ、溺愛すぎはよくないとか。妹たちの自立心を刈り取るダメダメな甘々兄貴だってからかわれるんだよ」
「お兄ちゃんとかって難しいんですね。わたし妹なのであんまり考えたことありませんでしたが、そういえばお姉ちゃん達って過剰に心配症かもしれません」
「あーっ、やっぱり? どこもそんなもんなんだな。ちょっと安心した。真雪ちゃんは遠慮せずに俺に甘えて? ふはは。自覚しちった。真雪ちゃん、俺ね」
「はい?」
夏希先輩がにっこりと笑いました。
わたしの胸がきゅうぅんと高鳴ります。
「俺、頼られるの好きみたい」
はわわわっ。
心臓が撃ち抜かれてしまいました。
こんな素敵な笑顔、私だけに向けられているかと思うと……。
あっ、まずいです。
ちょこっと指先が溶けてる。
慌ててわたしは雪女の妖力を指先に集中して!
戻れ、戻れ、早く、早くです〜っ。
夏希先輩に感づかれてしまう前に溶けたとこを元に戻しました。
どうしましょう!
これから先胸がきゅう〜んて甘い気分になる度にわたしのどこかが溶けてしまうかもです。
これは素早く治せるよう雪女の妖力の鍛錬をもっともっとするのと、夏希先輩の笑顔や甘い雰囲気に慣れなくってはなりませんよねっ!
わたしに、で、出来るかしら?
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