第一章 第10話 蹂躙①
◇◇◇【アンジェリカ・オリュンピアス】視点◇◇◇
【ヴァン】殿が王国軍追跡部隊の連中の目前で、いきなり消えた!
次の刹那に、騎乗している王国軍人よりも高く跳躍しているヴァン殿の踵が、猛烈な勢いで王国軍人の後頭部を蹴り抜いた!
ガスッ!
もんどり打つ様に、馬上から地面に放り出された王国軍人は、意識を失ったらしくピクリとも動かない・・・。
その間にもヴァン殿は、叩き落した王国軍人が騎乗していた馬の鞍に足を乗せて、一息に跳んで近くに居た別の王国軍人目掛け正面から前蹴りを放った!
ドゴッ!
顔面に諸に食らった王国軍人は、後方に吹き飛ばされて行く・・・。
此の時になって漸く私は思考力を取り戻し、今の異常な状態を把握する事が出来た―――――――。
(・・・何故・・・、ヴァン殿から一切の魔力が感知出来ないのだ・・?
此の世界に於いて、例え攻撃魔法や支援魔法で無かろうが、武術や【武技】を使用する際には、必ず魔力を介在させるのが常識だ!
人が、魔力を一切使用せずに、殆ど助走もなく垂直に5メートル以上に跳躍したり、馬の鞍から7メートルの距離を一息に跳んで蹴りを放つなど、【武技】で無ければ不可能だ!)
そんな異常事態に気付いたのか、引き攣った顔を見せた追跡部隊の部隊長は、
「皆! 陣形を取りながら魔法攻撃と魔力防壁を行えっ!
奴との距離を保ちつつ封じ込めろ!」
此の状況下に於いて、至極当然といえる命令を下した部隊長は、恐らく現場経験豊富な優秀と言える指揮官なのだろう・・・。
その命令に、一瞬の躊躇から立ち直り直ぐに動けた王国軍人も、みごとなものだ!
しかし、其れ等が全てヴァン殿によって、打ち破られる事となってしまうのだった・・・。
先ず、【マジックバリア―】を部隊の前面に構築し、【火撃】【水撃】【氷撃】の攻撃魔法がヴァン殿に襲いかかる。
どう考えても身に寸鉄帯びない人間一人に対して、やり過ぎな攻撃だが、直前に行われたヴァン殿の異常な行動に対しては適切で有ったかも知れない・・・。
だが、それすらも結局は無駄に終わるのだが・・・。
ブーーンッ
突然、私の周囲に透明な膜が降りて来て、私を覆い尽くしてしまった?!
然も、 隠蔽インビジブルシートと説明された、幕で隠されていた妹達の乗る馬車にも、私と同様に透明な膜が降りて来て、覆い尽くしてしまっている。
(・・・此れは・・・、もしかしてヴァン殿が、我々の為にした防御措置なのか・・・?)
そうとしか思えない事態だが、此の膜からは一切の魔力を感じない。
そんな異常事態が私と妹達に起こったのに、王国軍追跡部隊の連中は引き攣った顔をしながら、ヴァン殿に対して過剰なまでの魔法を、繰り出せ続けている。
(・・・何故、其処まで・・・?)
疑問を持ちながら、魔法攻撃によって埃が充満して、視界が遮られた方向を凝視していると、突然何かが飛んできた・・・。
何が飛んできたのか判らず、横に目をやると、私に先程まで縄を打とうと近づいて来た、王国軍人の土手っ腹を太さ5センチ程の樹の枝が、刺し貫いている・・・。
つまり、マジックバリア―で防御されたこの場所に対して、只の樹の枝がいともたやすく貫いたと云う事実?!
その事実に、此の場にいる全員が驚いていると、やがて埃が晴れて来て、視界が通る様になってきたヴァン殿の居た場所には、何故かヴァン殿とは別の人物が佇んで居た・・・
年の頃は17歳くらいだろうか、背の丈は私よりも高い175センチ程で、黒髪で若干の短髪、筋骨隆々の身体で有りながらバランスのとれた体躯。
そんな体付きに似付かわしい精悍な顔付きに、獰猛な笑みを浮かべている・・・
?????
此の場にいる全員の頭の上に、?マークが浮かぶ中に現れた青年は、何事もなかったかのように、無造作な雰囲気で歩んでくる。
(あの魔法の乱舞状態の中、此の青年は傷一つ負わなかったのか?)
そんな信じ難い状況に耐えられなかったのか王国軍は、先程よりも凄まじい魔法攻撃を青年に対して加えていく。
だが、そんな中でも青年は魔法攻撃の間隙を縫うように動き、一人の王国軍人の懐に滑り込んで、掌を王国軍人の鎧前面に押し当てた。
「吩ふん!」
その短い呼気と共に押し込まれた掌は、王国軍人の着込む金属製の鎧に、掌の痕をくっきりと残して王国軍人を後方5メートルに吹き飛ばす!
当然他の王国軍人を巻き込んで行くが、次の瞬間には青年の肘が別の王国軍人の鎧に叩き込まれた!
ダンッ!
何故か、青年の肘を受けた王国軍人の鎧ではなく、青年の足が踏んだ地面からの振動を伴う地響きが辺りに広がり、近くに居た王国軍人達は姿勢が揺らいで蹈鞴を踏む。
続けて青年は、ゆっくりと他の王国軍人に近寄って行ったが、流石に此の距離では魔法は間に合わないと判断した王国軍人は、腰に吊るしている剣を抜き放ち、青年に斬りかかる。
青年はその己に迫る剣筋に対して、手を添える様に逸らせると、そのまま後押しする様に剣の勢いを増させて回転させ、剣を王国軍人の手から放り出させる。
手からまるで手品の様に剣が離れてしまった王国軍人は、茫然自失となってしまい、次の瞬間には顎を青年の掌底でかち上げられてしまった。
此の様に、次々と王国軍追跡部隊の連中が無力化して行くのを、只々眺めながら私は、もしかすると青年はヴァン殿の真の姿かも知れないと、傍観者の立場で見守って居た。
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