第一章 第9話 荒野からの脱出④

 (・・・どうやら、殺されそうになっているのは、アンジー殿の関係者か・・・)




 それに、馬に乗った一団の長と思われる人物が自ら明かした様に、彼らは王国軍であるらしい。


 とすると、【紅の公女将軍】と呼ばれたアンジー殿は、王国軍と敵対する人物なのだろうか?




 (・・・その可能性は大きいと思っていた―――、やはりアンジー殿達は身分を隠して逃亡していた様だな・・・、でなければ荒野のクレバスの中になど、女性3人だけで隠れている理由が無いからな―――)




 さて、そうなると俺はどう動くべきだろうか?


 そもそも俺が、現在においてアンジー殿に対して全て偽っているのは、色々な可能性を残しながら諸々の国家や団体との諍いを避ける為だ。


 なので、明確に状況も判らずにアンジー殿に肩入れする訳には行かない。


 だが、アンジー殿に敵対しているらしい王国軍とやらは、何とも気に食わない形での、人質を取って脅すと云う手段をアンジー殿に対して取った。


 このやり方は、過去の【アース】でも取られた手段では有るが、何れも殆どは賊や悪辣な組織が行っているパターンが多い。


 それに、俺の気質にとっても著しくそぐわない!




 そんな風に俺が苛立たしさを感じて、王国軍とやらに敵対心を募らせている間にも、アンジー殿と王国軍は舌戦を繰り広げていた。




 「そもそも何故王国は、我等公国に対して非道な振る舞いをしているのか?


 つい10日前まで、対帝国の同じ陣営として轡を並べていたではないか!


 こんな事を同じ陣営に居る属国や周辺国家に知られたら、王国の信用度は失墜してしまい、二度と従軍してくれない国家が続出するぞ!」




 「その様な国家レベルの話は、上の者とやってくれ、


 私共の様な部隊長に言われても困る!」




 その様なやり取りを繰り返し、結局埒が明かないと思ったのか、アンジー殿は武装解除に応じて剣を王国軍に手渡した・・・。




 そして、アンジー殿は捕まっていたアンジー殿の関係者の様子を窺いに向かった。


 暫くの間、動きのない捕まっていたアンジー殿の関係者に近づくと、確認作業をしていたアンジー殿が、突然動きを止めて部隊長に詰め寄った。




 「あ、貴方は、私を欺いていたのね! 既に私の部下はとっくの昔に死んでいたんじゃない!!


 それを、あたかもまだ生きていて、私が投降すれば生きたまま捕虜とするなどと言って、私を騙して武装解除させるなんてっ!!!」




 「おんやーーっ、死んでいたのかい? 大方馬に揺られ過ぎて死んでしまったんじゃないか?


 まあ、何れにせよ、【紅の公女将軍】以外は殺せと命じられていたのでな、遅かれ早かれ公国軍兵士達は死ぬ運命なので、それがひと足早くなっただけだぜ」




 柄が悪くなった受け答えをした王国軍の部隊長に合わせ、周囲で様子を見ていた王国軍兵士達も、ゲラゲラとアンジー殿を嘲笑し始める・・・。




 その嘲笑を受けながら、アンジー殿は歯を食いしばり辱めに耐えようとしていたが、目から止め処無い涙が溢れ出して行く・・・。




 此の瞬間、俺の中に有った幾つものデメリットが頭から追い出され、全面的にアンジー殿へ肩入れする事が決まった!




 バサァーッ




 隠蔽インビジブルシートを、跳ね上げて俺は奴らの前に姿を現してやった。


 突然の俺の出現に、王国軍の連中は一瞬呆けた状態になって、何故か一人の王国軍人に視線が集まっている。




 「・・・おい、魔力観測員! 【魔力レーダー】には反応が無いと言っていたな?


 何故、人間の男が此の場に現れるのだ?!


 人間ならば、たとえ魔法が使えない者でも、魔力レーダーに反応が無いと言うことは有り得ないと」




 「・・・その通りです・・・、王国の誇る【魔導具開発室】の報告では、例え生まれたばかりの赤ん坊でも魔力の反応が観測出来て、男女の区別や状態も把握出来ます。


 もしかすると、此奴は人間に見えますが【ゴーレム】のような、無生物の存在の可能性が疑われます。


 こんなに精巧なゴーレムですと、帝国の新兵器の可能性すら有りえる。


 警戒して下さい!」




 そんな反応を受けて、俺は推測する。




 (・・・成る程・・・、どうやら見えて来たな・・・、例の【石】を体内に持たない俺は、魔力を一切体内に存在しない。


 ある意味、此れは俺だけに許された強みだな・・・)




 そう考えながら俺は王国軍に歩み寄り、その間に呼吸を整えて戦闘態勢に身体のコンディションに持って行く。




 そんな俺を不気味に思ったのか、声も上げずに王国軍は俺を取り囲む様に包囲する。


 そして、




 「・・・き、貴様は何者だ? 今の今迄貴様は存在しなかった筈だ!


 こちらは、王国軍の追跡部隊であり、王国に叛く罪人の追跡を行っている最中である。


 当方に敵対の意志が無いのであれば、貴様と敵対しようとは考えていない。


 しかし、邪魔をしようとするのであれば、容赦はしない!」




 と王国軍の追跡部隊の部隊長は宣言したが、俺にとっては既に敵認定どころか、殲滅対象となっている。




 なので俺は、獰猛な笑みを浮かべて、馬上から見下ろす王国軍追跡部隊の連中目掛けて跳躍してやった。

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