第一章 第3話 運命の出会い【アンジェリカ・オリュンピアス】視点②

 ◇◇◇【アンジェリカ・オリュンピアス】視点◇◇◇






 ◆◆◆《一日前》◆◆◆




 


 私達は、街道をかなり迂回するルートで親衛隊達と、祖父が統治する【オリンピア大公国】を目指していた・・・。


 当然の様に王国軍は、かなりの規模の包囲網をオリンピア大公国とのルートに敷いている様だ。


 かなりの数の公国軍兵士が王国軍に捕らえられている様だが、やはり第一目標の私と妹達が捕らえられないので、警戒網は一段と厳しいらしい・・・。


 案の定、王国軍は警戒網を更に拡げて包囲網を厚くしている。


 そうこうしている内に、食料の補給をする為に農民に偽装した親衛隊員が交易都市に向かうと、街道への結節点で警戒していた王国軍の追手部隊に見つけられてしまい追撃される。




 「王国軍の追手を振り切る!


 妹達を載せている馬車を先行させ、一旦、追手部隊に突撃(チャージ)を掛けるぞ!」




 「「了解!」」




 その親衛隊10名を両脇に配置し、《鋒矢の陣》を集団としては規模が小さい形で敷いて、王国軍の追手部隊が態勢を整えて、包囲陣を完成させる前に貫く事にした。




 「突撃(チャージ)!」




 その号令の元、我等は一気に速度を上げて、包囲陣の薄い箇所を抉る様に貫く・・・


 そのまま包囲の外に我等は飛び出すと、勢いを殺す事無く馬車を中心に街道ルートから完全に逸れて、荒野に向けてひた走って行く。


 街道を完全に逸れて荒野を移動するなど、常識では自爆行為としか思えないが、こうまで厳重な警戒網を王国軍に敷かれると、他の選択肢は無くなってしまう・・・。




 (―――正直、この荒野ルートだけは選択したくなかったんだけど、背に腹は代えられないわね―――)




 この、他に方法の無い行動は、やはり無理が有りすぎて半分の親衛隊が脱落してしまい、その後も一人また一人と殿しんがりを引き受けた親衛隊は、脱落して行く・・・。




 (・・・このままでは、私達のために忠義を尽くしてくれた親衛隊の皆が、すり潰されてしまう・・・


 だが、今迄の犠牲を思うと私達がオリンピア大公国に辿り着き、祖父様に直接願い出て王国の不実を満天下に知らしめると云う目論見を、果たせない事の方が皆に対して面目が立たない・・・!)




 心を鬼にしてでも、親衛隊を犠牲にしてでも、オリンピア大公国に辿り着かなければならないのだ・・・


 その事実が、容赦無く自分の精神を引き裂いて行く・・・・・・


 あまりの過酷さに、目から止め処無い涙が溢れ出て、拭う事さえ出来ない。




 漸く王国軍の追手部隊から逃げ切り、荒野に縦横無尽に刻まれたクレバスの中に有る横穴に身を潜ませる事に成功したが、倦怠感によって目眩めまいと共に私の意識は遠のいて行った―――。




 どれ程の間、意識を失っていたのだろうか?!


 うつらうつらしながら目を覚ますと、馬車を引いていた2頭の馬と私の愛馬【テルー】も、疲れの為か身を横たえて眠ったままだ。


 それを見ながら、無理もないと思いつつ馬車の中に残っている飼い葉と、【魔石】を使用して水を生み出し、馬用の桶に注いで馬達の前に置いておいた。


 未だに魔法で眠らせている妹達、【リンナ】と【リンネ】の妹達の寝顔を覗き込んで、状態を確認する。


 あれだけの戦闘行動の喧騒にも関わらず、二人は安らかに眠り続けている。




 (・・・あと3日は眠らせて置くべきだな・・・)




 妹達には、10日間は眠り続ける魔法を重ね掛けしているので、妹達の新陳代謝は限りなく抑えられ、二人は飲食する事無く済んでいる。


 実際のところ、もし現在の状態で普通に意識があったら、日頃から公都から殆ど出たことの無い二人にとっては辛すぎるだろう―――。




 (・・・さて、これからどうするか・・・)




 此処まで守護してくれた親衛隊の面々、王国と帝国の戦争に従軍してくれた民兵の素朴な笑み、懐かしい故郷での両親である公爵夫妻との穏やかな暮らし、其れ等が走馬灯の様に思い出されながら、いつの間にか馬車の中で妹達の寝顔を見ながら、度重なる逃避行の疲れでいつしか眠り込んでしまっていた―――。






◆◆◆《当日》◆◆◆






 陽の昇る前に起き出す事が、馬の嘶きで出来たのだが、それは馬が私達に注意を促している事でもある。


 


 (何だろう?!)




 昨日、この横穴に入った段階で隠蔽魔法を掛けて置き、滅多な事では敵に見つからない筈だが、もしも王国軍の追手部隊が自分も知らない、【アーティファクト】を使用した探知魔法を行使していれば、見つかる可能性は0では無い。




 私は馬達を落ち着かせようと、馬銜はみを噛ませてやって出立の準備をしながら、愛馬【テルー】の首を撫でてやる。


 しかし、中々テルーは落ち着かず、横穴の奥に向かって警戒を解こうとしない。


 私も横穴の奥を警戒しながら、横穴から馬車を脱出させて、テルーと共に殿戦をし続ける。




 ガサガサガサガサッーーー!




 相当にキツい生臭い空気が漂って来たかと思う暇も無く、ガサゴソと横穴の奥から物音がして来る!


 どうやら、何らかの生物が横穴の奥から向かって来る様だ。


 避難する際に、50メートル程横穴の奥に向かい安全を確認したのだが、もしかすると此の横穴は他の穴などに繋がっていて、隠蔽魔法でも消せない私達の匂いを嗅ぎつけて、やって来ているのかも知れない。




 物音がして暫くしてから、暗がりの中から現れるモノが見えて来た!




 「魔獣!」




 見えて来たのは、危険な【蜥蜴型魔獣】の群れである。


 サイズは2メートル程で、数は10体といったところか・・・




 「・・・来い!」




 気合いを入れて、愛剣に支援魔法を込めて鋭さを増させると、テルーを横穴から逃げさせて殿戦を始める。


 かなりの硬度を持つ皮膚を誇る蜥蜴型魔獣だが、支援魔法を込めた愛剣は容赦無く蜥蜴型魔獣を斬り裂く。


 しかし、10頭の数は一人で相手するのは辛い。




 ダッ!




 と後方に飛び、そのまま一気に横穴を飛び出て、横穴上部に向けて得意では無い火魔法を放つ!




 「【ファイヤーボール】!」




 放たれた魔法は爆発を起こし、横穴の上部を崩して横穴そのものを塞ぐ事に成功した。


 


 (良し、これで魔獣共は追って来れまい! 急いで馬車と合流しよう)




 いち早く逃した馬車を見つけようと、周囲を見渡して馬車を見つけると、私はそのまま硬直してしまった・・・。




 何と、何時の間に現れたのか、先程の蜥蜴型魔獣の倍はある大きさの【大型蜥蜴型魔獣】が、馬車に襲い掛かり馬車の車軸に噛み付いている。




 迷っている暇はないので、馬車に一気に走り寄ったが、車軸が壊れた馬車は積んでいた荷物を零しながら逃げてしまい、何よりも大事な妹達まで地面に放り出してしまった。




 「させるか!」




 言葉に出しながら、大型蜥蜴型魔獣と妹達の間に入り、必死になって妹達を背後に庇いつつ、私は剣と盾を構えて臨戦態勢を取る。




 (・・・神様は、何故【オリュンピアス公国】を見放してしまったの・・・?)




 ピンチに次ぐピンチに、天に慨嘆がいたんしながら、私は大型蜥蜴型魔獣に立ち向かう。




 だが、愛剣に掛けていた支援魔法も、大型蜥蜴型魔獣の硬い鱗の前に防がれてしまい、意外なほどの速度で繰り出された強靭な尻尾により、私は盾ごと叩き伏せられてしまった!


 次の瞬間、大型蜥蜴型魔獣の鋭い牙と爪は、私の鎧を傷つけて鋭く食い込んで来る!


 そのまま組み伏せられた私は、必死に抵抗を試みるが、大型蜥蜴型魔獣の力からは逃れられない。




 (こんな! こんな所で、私達は終わってしまうの?!


 王国の不実と公国の正しさを、証明する事も出来ずに・・・!)




 みるみる溢れてくる涙の為に、滲んで来る光景を仰向けのまま見ながら、心は絶望に染められるて行く・・・。


 天を見ながら、神に向けて何か文句でも言ってやろうかと思っていると、目の端に何かが空から高速で向かって来るのが見えて来た。




 (何?!)




 次の瞬間、私と妹達は何だか判らない、何か透明な泡の様な物に包まれて空中に浮かんでいた。


 数瞬後、空の彼方から凄まじい速度で落ちて来る物体が、大型蜥蜴型魔獣に突撃した!




 その瞬間、私は意識を失ったらしく、意識を取り戻し目を開けた時には景色が変わっていて、更には眼の前に銀色の人形をしたモノが、どうやら私を見つめている・・・。




 「――――――・・・神・・・様・・・?――――――」




 そう呟くと、そのまま私の意識は遠のいてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る