第一章 第2話 運命の出会い【アンジェリカ・オリュンピアス】視点①
◇◇◇【アンジェリカ・オリュンピアス】視点◇◇◇
私は眼の前の状況に絶望していた・・・
崖に開いた洞窟状の横穴から、必死に退避して来た私達に対し、【大型蜥蜴型魔獣】が匂いを嗅ぎつけて突撃して来たのだ―――。
(―――正に踏んだり蹴ったりね―――)
必死になって倒れている妹達を背後に庇いつつ、私は剣と盾を構えて臨戦態勢を取る。
(・・・神様は、【オリュンピアス公国】を見放してしまったの・・・?)
大型蜥蜴型魔獣に対峙しながら、この状況に陥った現状を嘆き、そもそもこんな荒野に避難しなければならなくなった要因である、一週間前の顛末を私は思い起こすのだった・・・
◆◆◆◆◆◆◆◆◆《一週間前》◆◆◆◆◆◆◆◆◆
バサァッ!!
私が一連の戦闘を終えて、休憩している天幕の出入り口を覆っている垂れ幕が、勢い良く翻った!
其の無礼極まりない闖入者は、顔馴染のオリュンピアス公国親衛隊の五人であった。
彼らは五人共、嘔吐く程に呼吸困難になっていて、どうやら息を整えるのに四苦八苦している様だ。
その様子から、恐らく尋常では無いと、天幕に親衛隊が駆け込んで来た段階で私は理解していたが、焦ること無く親衛隊の息が整うのを待ちながら、彼等の報告を待つ・・・。
やがて、未だに完全には息が整っていないが、親衛隊の五人を代表して【フリス】親衛隊副隊長が、私にはとても信じられない現状を報告して来た。
「申し上げます、【アンジェリカ公女】!
去ること凡そ3日前、王国軍がオリュンピアス公国の【公都テルミス】に雪崩込んで来て、急いで抗戦しましたが、半日程でテルミス城と城下町は、王国軍の手により失陥致しました!
公爵御夫妻は王国軍の手に掛かり殺害され、辛うじて助け出した双子姫達を庇いながら、やっとの事で此処までお連れ出来ましたが、王国軍の追手が迫っております!
急ぎご避難下さい!」
「何故だ!
何故、王国軍が味方のオリュンピアス公国に攻め込んで来る?!
王国とは、長い歴史においてオリュンピアス公国は属国として、忠節を尽くして来たではないか!
どの様な理由で、オリュンピアス公国の公都を襲ったのだ?!」
「―――それが、王国軍兵士が叫んでいる内容を聞くに、”オリュンピアス公国が帝国と組んで、王国を裏切り挟撃しようとしている! よってその行動に先んじて攻撃する!”と主張しておりました!」
「馬鹿な!!
仮にその言い分が事実だとしても、使者を公式に派遣してその上で、周囲の属国へ周知する手順を踏まなければ、王国の不実を王国の属国や周辺諸国は納得すまい!」
そんなやり取りをしていると、やがて天幕の外が騒がしくなって来た。
その喧騒は、時間が経つとともに怒号と武器がぶつかり合う、激しい武器の激突音も混じり始めて来る。
「・・・こ、此れは・・・?!」
天幕に居た当直の兵士や親衛隊を引き連れて私は、音が鳴り響く外へ向かい天幕から勢い良く飛び出した。
その間にも周囲の喧騒は増して行き、駐屯地の外縁部に布陣していた公国軍は、既に何者かと戦闘状態に突入している!
やや遠くで公国軍と戦闘している敵軍を遠目に観察すると、先程まで戦っていた敵である帝国軍と装備が明らかに異なり、本来味方の筈の王国軍の装備をしている事が見て取れた。
(・・・先程のフリス親衛隊副隊長の報告通り、王国軍が攻め寄せて来ていて、王国は仲間である筈の、オリュンピアス公国を滅ぼすつもりなのか・・・?!)
数瞬の戸惑いから頭を振って、無理矢理に私は正気を取り戻すと、公国軍の最高指揮官としての立場として私は、周りの兵士に命令を下す!
「皆、駐屯地の各部署に散り、公国軍兵士達に抗戦をなるべく避けて、我の下に参集する様に伝えよ!」
「「「ハッ、了解しました!!」」」
その返事を聞きつつ、私はフリス親衛隊副隊長の案内で、救助して来たと云う妹の双子姫達に会いに向かう。
妹の双子姫達は、連日の強行軍を乗り切る為に、敢えて【スリープ】の魔法を掛けられていて、魔法の効果で相当な事が無い限りは起きない様になっている・・・。
妹達を見ると外傷は無さそうだし、特に今現在は起こす必要も無いので、敢えてこの状態のままにして、公国軍兵士達の集結を待つ・・・。
暫くして王国軍が、一旦戦場となった駐屯地から後退し、戦況をまとめてから再度攻撃するつもりなのか、集結し始めて来た。
その御蔭で、漸く公国軍も状況を整理すべく、私の下に集結する事が出来た。
「アンジェリカ公女! 公国軍兵士集結致しました! どうぞご命令を!」
顔の三分の一が髭に覆われた【デキム】副官が、周りに響き渡る声で私に報告して来る。
周りを見渡せば、500人は居る筈の公国軍兵士が半分に満たない数に減っていた・・・。
デキム副官も敢えて減った数に触れない事から、恐らくは討ち取られるか重傷を負って集結出来ない者達が多いのだろう・・・。
私は此の状況を鑑みて、最適と思われる指示を公国軍兵士に命じた!
「公国軍兵士諸君!
突然の王国軍の奇襲に、驚愕した事だろう。
私もまた同様に驚いているが更に驚くべき事に、私達の故郷オリュンピアス公国の公都テルミスは現在、王国軍の手により失陥したらしい!
この有り得ない無法な行いを正すべく、私達は【オリンピア大公国】に向かう。
皆も存じている様にオリンピア大公国は、私の祖父である【クラウス大公】が統治していて、又、1万もの常備兵が存在する強国であり、決して無法を黙っている国家では無い!
私は祖父に頼み大公国の軍事力を以って、この度の王国の無法なる振る舞いを糾弾し、場合によっては周辺諸国と連合し、王国に対抗する所存だ!
皆、何とか此の死地から逃げ延びて、大公国に辿り着くぞ!!」
「「「オオォーーー!!」」」
その雄叫びを受けながら、私は公国軍兵士達と共に王国軍に対し、撤退戦を開始したのであった・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆《三日前》◆◆◆◆◆◆◆◆◆
黄昏時から始まった撤退戦は、二時間程で暗さのあまりに同士討ちしかねない状態に陥り、遠隔からの魔法戦となってしまい、魔法士の多い敵軍である王国軍が、俄然有利となってしまった・・・。
よって、公国軍は残存する魔法士部隊10名全員に、なけなしの魔力全てを注ぎ込んだ【照明魔法】を唱えさせて、戦場を白く染め上げさせて、残った公国軍全軍を散り散りに脱出させる。
当然、全ての公国軍兵士達が逃れられるとは思えないが、どう見ても10倍以上の兵力を相手に撤退戦など、ジリ貧でしか無い・・・。
謂わば捨て身の作戦だが、誰か一人でもオリンピア大公国に辿り着いて、王国の不実をオリンピア大公国が満天下に表明すれば、無惨に殺されたオリュンピアス公国の無辜の民達も浮かばれるだろう・・・。
そんな事を考えながら、私と妹の双子姫達を守護する為に残ってくれた、フリス親衛隊副隊長と親衛隊9名が、妹の双子姫達を載せている馬車の周りを固めている。
「何とか、追手から逃れる事が出来たかな?」
フリス親衛隊副隊長に向かって私は、問うとも無く呟くと、
「そうですね、街道をかなり逸れる形での道行きなので、相当広範囲に警戒包囲網を王国軍が張っていようとも、中々探知出来るものでは無いですよ。
そうこうしている内に、早馬の脱出組が大公国に着くと思われます・・・。
いま少しの辛抱ですよ」
そんな風に、フリス親衛隊副隊長が私を慰めてくれた。
有り難くて、涙が出そうになったが、妹達の手前泣くわけにはいかない。
(私は、公国の誇る【紅の公女将軍】なのだからな!)
自分を叱咤激励する意味でも、自分自身に活を入れて馬を奔らせて行った。
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