第35話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 ~ 優 side ~




 アメリカに来てから 作業に没頭…

 なんだかんだ時間が経つのは早くて

 なりふり構わず 音楽と向き合ってた



 アミの事は…すっかり忘れて…




















 ・・・・・・・・











 嘘です…





 忘れてないんだよ、それがっ!!



 嫌いになってやる!

 って ヤケになってたくせに…




 後悔させてやる!

 なんて ほざいてたのに…




 後悔してるのは、この俺…

 一時的な感情で 熱くなって ののしって…



 眠れない夜も

 数え切れないほどあった…



 今 幸せなら それでいい…って

 何度もギュッと目を瞑り

 アミの記憶を消そうとしたけど

 全然忘れられなかった




 俺を受け入れてくれた時

 彼女を"運命の人"だと決めた


 だからどんな形でも

 そばに居るって




 あの ひねくれた頑固者を

 俺が堕としたっていう自負が

 今まで支えになってたというか…




 離れていた期間

 冷静に俺たち2人のことを考えて



 自分にとって

 5年は 長かったけど

 結局、たどり着いた答えは

 

 

 もっと アミのことを知りたい…

 今より好きになりたい…

 ずっと好きでいたい…



 ただ それだけだった…




 だけど もう


 別の男に取られてるかもしれない…




 …………




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




「I really enjoyed working with "U".

 Why don't you make a song with us a little more?

("優"と一緒に仕事が出来て

 本当に楽しかったよ。

 もう少し僕達と一緒に曲を作らないか?)」



「I want to go back and do my best in Japan by making use of the experience I have gained over the past five years here!

(一度帰って、ここでの5年間で培った経験を

 活かして日本で頑張りたいんです!)」



「The next time we meet,

 let's see each other as we grow up!

(今度会う時は

 お互いに成長した姿で会いましょう!)」



「Thank you for your help!

(お世話になりました!)」




 アメリカでは

 顔出ししちゃってるから

 日本でも きっと知られてるよなぁ…



 やっぱり "カマキリ"で帰るしかない…




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 アメリカにいる間は 一切

 智くんと 連絡を取らなかった

 別れたことも きっと知ってるだろう



 日本での出来事も

 見ないようにしていた




 でも、唯一 …

 定期的に連絡を取りあっていた人物がいる

 



 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆



「もしもし 桃李とうり

 今日 こっちを発つよ」



 ──「長かったですぅ…」



「お待たせしました!アハハハ!」

 


 ──「僕、優さんの車…

  やっぱり乗れなかったです…

  ガレージに置いてありますから!

  メンテナンスも

  しっかりしてるので安心してください」



「…せっかく譲ってやったのに」



 ──「羽玖井はくいさんとの思い出が

  詰まってる車…僕には 貰えません」



「……何 言ってんの」




 5年前に日本から発つ日

 俺の車にアミを乗せて空港に来ていた事

 ストーカー女優を

 取り押さえたことも話してくれた



 あの時 聞こえた名前は

 空耳じゃなかったんだ…



 ──「羽玖井さんは優さんの車を見て

  目を潤ませてました…

  乗ってからもずっと涙を堪えてました」



「なんで 今言うんだよ…」



 ──「今 だから言ったんです」




 じゃあ、アレは何だったんだ?

 仁と…あんなキスしておいて

 そういう仲だったんじゃないの?



「嘘だろ?…どうせ 仁と今頃…」



 ──「僕には わかりましたよ!

  羽玖井さんは

  優さんのことを好きでした…」



「だから…なんで今なんだよ…っ…」




 週刊誌に撮られた頃の

 事務所での出来事…


 全部ではないんだろうけど

 桃李が感じ取った雰囲気を話してくれた




 アミは 俺の事 どう思ってたの?


 全然…



「……わかんねぇよ…」


 ──「…あ、仁さんに帰国のことは」


「いや、言わなくていい」


 ──「僕たちが連絡取り合ってたことも

  内緒にしてましたからね…フフフ…」


「腹立つから ずっと黙っとけ!アハハハ!」





 桃李に聞けなかったことを…

 5年越しに聞く



「桃李…アミは今 どうしてる?」



 ──「えっ?あ…

  えっとですね…う~んと…」



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 桃李が言葉を濁したことが気になって

 機内では一睡も出来なかった



 空港に到着

 極秘帰国…報道陣は居ない



 まずは宿泊先のホテルに荷物を置いて

【STRING CHIMNEY】へ向かった



 "アミがまだ…

 俺の事を想っていてくれたら…"



 微かな望みを胸に…




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 変装は きっちりしている


 こんな昼間にカマキリじゃ不審者…




 黒いキャップ、グラサン

 黒いマスク…

 黒いパーカー、黒いチノパン…


 …全身 黒づくめ



「充分怪しい…( ̄▽ ̄;)」



 カマキリ改め カラス…ってところか




 …まぁいいや




 マンションから

 少し離れたところで立ち止まり

 様子を伺う



 広場では 数人の子どもたちが

 楽しそうに遊んでいた




 "懐かしいな、この光景…"



 5年前も、マンション住人以外の

 子どもたちもやってきて

 賑わってた…


 当時 ここで遊んでいた子達も…

 大きくなっただろうなぁ…


 今 遊んでいる子は…

 幼稚園に通ってるくらいかな?



 ほのぼのとした気持ちで

 遊んでいる子どもたちを眺めていると




「サトにい、つぎオニだよ!」



「え?僕やるの?

 今 仕事中なんだけど!」



「サトシにいちゃんは

 "もでる"やってるんでしょ?

 うちのママが いってた~」



「ボクのママも いってた!

 かわいい~って!」



「そろそろ可愛いじゃなくて

 かっこいいって

 言われたいんだけどぉ!( ´△`)」



「ねえ サトシにいちゃん

 おそうじは

 かくれんぼ おわったあとね!」



 智くんの周りに

 子どもたちが集まってきた



「え~!怒られちゃうよぉ(๑¯ㅁ¯๑)」




 …智くん 22,3歳くらいか?

 幼さが 少し抜けて

 かっこよくなってるぞ!(*´艸`)フフフ…




「あ…」



 駐車場から 仁が広場の方に歩いてきた…



「あ!かえってきた~!」


「おっ!ただいまぁ!」



 仁は 自分に目掛けて走って来た男の子を

 軽々と抱き上げた


「ダダ、おかえり~!」


「いい子にしてたか?(*´꒳`*)」


「してた~!!」





 

 ・・・・・・・・・





 今、"ダダ"って呼んでた…?



 海外では父親のことをダダって…




「………」





 やっぱり 結婚したのか…アミと…



 知らなかった…



 日本のニュースは

 一切見てなかったから…



 何も知らない俺だけ また はしゃいで…

 こんなところまで来て…

 ホント…全然成長してねぇ…





 これが現実…




 だから桃李は、言葉を濁したんだ…




 来なきゃ良かった…




 踵を返しホテルに戻ろうと

 歩き出した




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 途中の公園…


 "ここもよく…ゲンさんが

 散歩してたっけ…懐かしいなぁ…"


 フラフラと歩いて

 公園のベンチに腰掛けた



「はぁ…」

 大きなため息が出る…




「やっと帰ってて、ため息か…おぇ…」


「おぁっ…弦さん!( ゚∀ ゚)ハッ!」


「10日で帰ってくるっつって

 待ってたのに おめぇ

 5年も帰ってこねぇってか!うぇぁ?!」


「すみません…(;´∀`)…ァハハハ…ハハ…ハ…」



 懐かしい弦さんの笑顔と

 少し訛った話し方…



「入院中、何度も見舞ってくれて

 ありがとさんね…

 退院してお礼言いたかったのに

 須賀つぁん、居ねぇんだもんよぉ〜」


「海外の仕事が長引いてしまって…」



 弦さんに聞こうかな…アミのこと…

 仁と 結婚したのかどうか…



「…アミもさとすもよぉ…

 ワシに な〜にも言わねぇのよ」


「・・・・・・」


「だから ワシも聞かねぇことにしたんだ」


「…そうでしたか」


「心配かけると思ったのかねぇ〜

 孫の心配するのが

 ジジイの役目なのによぉ」


「・・・・・・」


「…んで?おめぇたつ 何があったんだ?」


「弦さん、今 聞いてるけど(ノ∀≦。)ノアハハハ」


「あれま…いてもうたわ!ボハハハ!」


「弦さん、お元気そうで良かったです…」


「おぉよ!あんでもねぇよ!」





 少しを置くと




「…あの ひねくれてたアミが

 ひたすら おめぇさんを待ってたんだで…

 須賀つぁん、何とかしてくれるんだろ?」


「……もう 俺は用無しですよ!

 アミは 今…幸せだと思うから

 邪魔は しません」


「アミに会ったのけ?」


「いえ……」


「もうそろそろ 帰ってくるはずだど?

 アミが幸せなのかどうかを

 自分の目でアレしてみぃ…

 それから身を引くなり、アレするなり…」



「・・・・・・」



 確かにそうだな…




「さてと!んだば…ワシは

 散歩の続きしてくっから…

 どっこらせ…と!」


 隣に座っていた弦さんは

 ベンチから ゆっくりと腰をあげた



 テクテク歩いていく後ろ姿を眺めて



「もう わかってる…

 あの男の子は 仁とアミの子…

 きっと幸せだと思うよ」




 寂しい独り言を漏らす



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 もう一度…マンションへ行ってみる


 遠くからでいい…

 最後に アミを眺めたい

 会って確かめることは出来ないけど…



 広場へ 一歩足を踏み入れようとしたけど

 何故か それ以上進むことが出来なくて



 "現実を受け入れるのが怖い…"



「やっぱ…ホテルに戻ろう」



 振り返ると

 そこには さっき仁に抱えられてた

 男の子が立っていた

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