第33話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 私は優と 別れることを選んだ



 長年の夢を…

 私がいることで

 諦めさせる様な邪魔はしたくない…




 知り合ってそんなに経ってないのに

 優と過ごした日々は とても濃厚だった



 きっと これからも一緒にいたら

 毎日が楽しかっただろう



 これからも そばにいたら

 愛しい気持ちも大きくなって

 素直に"好き"や"愛してる"を

 抵抗なく 言えたんだろう



 傷つけたことは すごく後悔している

 だけど送り出すために別れたことを

 後悔しないように


 例え 忘れられなくても

 せめて 思い出になるように

 過ごしていこう




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




「姉ちゃん、おにぎり食べられそう?」


「サトの握ったおにぎり、大好き!」


「(*´▽`*)えへっ」




 何もかもどうでも良くなって

 半狂乱になってた私を

 正気に戻してくれたサト…



「食べたらメイクしてよ?

 土偶顔じゃ、びっくりされるからね!

 桃李とうりさん、13時に来てくれるから」



 YJの事務スタッフ

 そのさんからの電話が来て


 話が出来る状態じゃなかった

 私の代わりにサトが話を聞いてくれた


 私に用事があるそうで…

 マンションに来るという


 サトとの契約に 不備でもあったのかな…




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 サトの手で

 優しく握られたおにぎりを食べて

 メイクも服も整えた


 園さんが到着予定の時間まで

 管理人室にて

 サトと私、ジジイのサポートをする




「いつもすまねぇなぁ…」


「ジジイ!絶対無理しちゃダメだよ!

 私もサトも居るんだから

 遠慮なく言って!

 ゆっくりで良いんだからね!」


 と、私が言うと



「あまりゆっくり過ぎるのも

 笑っちゃうんだけど…

 さっきのジジイ

 こんな感じで動いてたよ〜」


 サトが先程見たという

 ジジイの様子を真似する



「それ、何のかた??

 めっちゃスローだね((´∀`*))アハハ」


「大袈裟だでよ…ボハハハ…!」


「太極拳なの?…こ~やって こんな感じ…」



 3人で笑う…


 笑うと少し気持ちが浮上…



 そういえば…ここで一緒に

 ご飯食べたこと あったなぁ…

 あの時はまだ

 カマキリ扱いだったっけ…



 また優のことを思い出す…



「……っ…」


「姉ちゃん?」


「あ!ごめん…

 そろそろ来るかな?園さん…」


 バレないように目を擦る



 ブーッ、ブーッ…

 スマホが震えて取り出すと

 園さんの名前が…




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




羽玖井はくいさん!急にすみません」


 外に出ると

 園さんが立っていた



「一緒に行ってもらいたいところが

 あるんです!

 来ていただけますか?」



 …やっぱり書類の不備かな?



「わかりました!」



「姉ちゃん!

 ジジイのことは心配しないで!」


「何かあったら連絡ちょうだいね」


「わかったよ!

 園さん、姉のこと…お願いします!」


「うん!

 …じゃあ 羽玖井さん 行きましょうか」




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




 駐車場へ向かうと

 足が止まった



「すみません…

 優さんが この車、僕に譲ってくれて…」


「そうでしたか…」



 黒くて大きな 優の車…

 一度しか乗ってないのに

 思い出が鮮明に残っていて

 乗り込むまで 少し時間が掛かった



「すみません…時間取らせてしまって」


「いえ、こちらこそすみません…

 時間にまだ余裕があるので大丈夫です」



 深呼吸して落ち着こう




 園さんが エンジンを掛ける…



「・・・・・・」



 ダメだ…

 エンジン音にも

 敏感に涙腺が反応する…



 我慢しないと…



 *・゚・*:.。.*.。.:




 車内のテレビには

 優の海外進出のニュースで

 持ち切りだった


 今まで覆面アーティストだった人が

 海外では顔出しをする


 世間は 興味津々…




「ごめんなさい、羽玖井さん…

 色々と辛い思いを

 させてしまいましたね…」




 園さんが口を開いた



 事務所での

 木村さんとの会話で

 私が優と付き合っていたことも

 わかっているはず


 隠す必要も無い

 もう、終わらせたんだから




「いえ…」




「優さんは 本当に すごい人なんです!

 海外でも 必ず成功する人です!」



 わかってる…彼はすごい人だって

 だから…



「そうですね…(*´꒳`*)

 凄い人なのに

 一緒にいると 芸能人だってことも

 忘れてしまうんです…

 声を聴くだけで癒されて

 会えば いつも温かくて

 優しくて 愛情深くて…」



 優の好きなところをあげれば

 キリがないほど

 私が選んで 恋して…本気になって…



「私には もったいない人でした…

 気持ちは伝えられなかったけど

 彼に出逢えて

 本当に良かったと思ってます…」



 精一杯、今の気持ちを

 園さんに話した



 涙はやっぱり…我慢できなかった…




「…羽玖井さんは優さんのこと

 わかってらっしゃいますね((´∀`*))」



 全然 わかってない


 デビューを断ってまで

 私のそばに

 居ようとしてくれた優のこと


 夢を犠牲にしてまで

 一緒に居る価値は 私には無いのに…



 *・゚・*:.。.*.。.:



 車は軽快に高速道路を走る

 事務所に向かってないのも

 途中で何となくわかった



「あの…園さん?どちらへ……」



「アハハ…!実は空港に向かってます」



「何のために?

 私は もう別れたから

 関係ないんですけど…」



「優さんの背中を

 一緒に見送って欲しかったんです…

 異国の地で勝負に挑む勇姿を

 羽玖井さんに見届けて欲しかったんです」



「どうして 私なんですか?」



「仁さんから

 羽玖井さんと一緒に行くように

 言われて…」


「木村さんも

 余計なことをするんですね…」



「アハハ…すみません!

 多分、報道陣も

 ごった返してると思うので

 優さんに

 バレることはないので大丈夫です」



 車内のテレビでも

 変装している優の姿が映ってた

 

 素顔を撮りたいマスコミも

 興奮しているんだろう




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜





 一般利用者の入口から空港へ入ると


 案の定 報道関係らしき人が

 うじゃうじゃと…騒いでいた




「こっちです、羽玖井さん…」


 人でごった返してる

 隙間を縫って

 優が向かうであろう

 保安検査場の手前まで来た



「少しここで待っていてください」



 園さんが どこかに行ってしまった



 昨日、あんな形で別れたばかりなのに

 どうして空港なんかに来ちゃったんだ?


 もしかして、サトは 知ってたの?



 *・゚・*:.。.*.。.:



 悲鳴のような歓声…

 人集ひとだかりが出発ロビーに向けて

 ゆっくりと移動する


 きっと この中心に

 優がいるんだ…



 横顔も背中も 見えないじゃない…



 目で追って


 "いってらっしゃい…

 身体に気をつけて

 アメリカで暴れてきてね…"


 思いをせることしか

 できなかった



 人集りの中心部に

 カメラのシャッター音が鳴り

 フラッシュの光が集中している



 改めて、優は凄い人なんだと思った




 その集団の後方

 何の気なしに視線を送った…



「あ…」



 声が漏れたと同時に

 園さんが戻ってきた



「すみません、お待たせして…

 あの人集りの中に優さんがいますよ!」


 その声を聞きつつ

 視線の先の人物に釘付けになっていた



「…っ!!」



 優が居るであろう場所に向かって

 走っていく人




 考える前に 体は動いた


 私もそこに向かって走る



「えっ、は…羽玖井さんっ!!!!!」




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 ~ ゆう side ~



 歩きにくい…

 どこから聞きつけたんだ、コイツら…


 警備員みたいな人が

 纏わりついて

 グイグイ押されて 前に進めない



 "顔、見せて〜!!!"

 "U~!!!!!きゃ〜!かっこいいっ〜!!!!"



 グラサンにマスク…

 どこが かっこいいんだ?

 適当なこと言ってるなぁ…



 まぁ…ヘッドホンはしてないけど…





 カマキリ…かぁ…


 初対面のアミに言われたっけ…



「(*°∀°)・∴ブハッ!!」




「・・・・・・」



 傷ついていても 思い出してしまう…

 笑顔も匂いも…声も肌の感触も…




 いつか貴女を


 嫌いになれるのだろうか…






「…ハクイサンッ!!!!」



 ビクッ…

『えっ……』



 喧騒けんそうの中

 遠くから聞こえて

 立ち止まって振り返る…



 珍しい苗字だから

 なかなか同名の人も居ないだろうけど



 空耳?


 重症だな…耳まで 壊れたか…





 "もう…振り返るな…"


 自分に言い聞かせ 前へ進んだ






 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 〜 アミ side 〜




『あの人、何しに来たの?!』



 しばらく見かけてなかったのに

 嫌な予感がする…



 間に合え!



「すみません、通してくださいっ!」



 人と人との間を縫って

 その人物の元へ急ぐ



 マンション前でうろついてたから

 顔を覚えていた


 優に付き纏っていた女優



 。゜⋆。゜⋆



 やっとの思いで

 その人物の前に行くと

 伊達メガネの奥…鋭く私を睨む目



「何、アンタ…」


「これ以上 優に

 近づかないでください…」


「は?」


「それで、何しようとしてたんですか?」



 自分でも驚くほど 早く

 相手の何かを持ってた手首を掴んでいた



「早く その物騒なモノを仕舞って!」


「あの人を私のモノにするのよッ!!!!」



 掴んでた手首は

 一瞬で振りほどかれて

 相手は こっちに向けて

 その手を振りかざしたところで

 すかさず体当たり…

 ふっ飛んだ女優を園さんが捕まえた




「いい加減にしてくださいっ!!!」


「離してよっ!触らないでっ!!!!」



 園さんは、その女優に一喝入れると

 警備員が来て その女優を連れて行った



「羽玖井さん!!大丈夫ですか?」


「は、はい…びっくりしましたね

 …(;´∀`)…ァハハハ…」


「笑うところじゃないですよ!

 まったく、もう…(。´-д-)ハァ-」


「…すみません(*´꒳`*)」


「最後の最後まで

 優さんのために…

 ありがとうございました…m(*_ _)m

 って…血が出てますよ(||゚Д゚)ヒィィィ!」



「あ、ホントだ…」



 痛さも何も感じなかった

 掴んだ手を振りほどかれた際

 少しかすったみたいで

 手の甲に切り傷が出来ていた



「名誉の負傷…ですかね…」



 出発ロビーにはもう

 人集りはなく

 優は無事に 搭乗口へ行ったみたいだ



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