第31話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 周りの人に悟られないように

 過ごす数日間…

 息が詰まりそうだった



 太陽が傾きかけた夕方…



 Goff化粧品を卸しているお店へ

 新商品のサンプルを届けるのに

 街へ出て目的地へ向かう



 書店の前には たくさんの週刊誌が並ぶ



『…もう、発売されてたんだ』



 中吊り広告が目に飛び込んでくる



【人気俳優のハートを射止めたのは 一般女性!!

 〜 〚僕を笑顔にしてくれる大切な人です〛〜

 木村 仁、本気の恋か?!】



 週刊誌って

 あることないことを

 大袈裟に書くイメージだったけど

 売るためには 手段を選ばないのね…




「・・・・・・」



 


 日にちが経って冷静になると

 優のために どうすることが的確なのか

 検討はついた


 帰ってくるまでに

 少しずつ答えを固めていく



 あとは どうやって 優に話をするか…




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 〜 ゆう side 〜



 朝起きてスマホを覗く…



 着歴なし…



 ここに来て気づく



 声を聞きたくなったら

 ベランダに出て

 会いたくなったら隣の部屋に行く…



 そんな生活してたから



 アミの連絡先…

 聞きそびれたままだった…(¯∇¯;)



 今、何してる…?誰と居るのかな…?

 早く会いたい…



 今更 智くんに

 アミの連絡先を聞くのもなぁ…



 帰ってからでもいいか…



 もう少し待ってて…

 もうすぐ会えるから…



 泊まっているホテルの部屋から

 雲ひとつ無い空を眺める



 繋がってるんだよなぁ…この空も




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 サンプルを置いて会社に戻ると

 さきっちょから呼び出された



「アミっぺ!ちょっとぉ!!!

 木村さんの熱愛報道だって言うから

 思わず週刊誌 買っちゃったけど

 アンタ すごい人と付き合ってたのね!

 撮影の時から仲良さそうで

 怪しいな〜って思ってたのよ!」



 週刊誌が発売されるまで

 記事のことは口外しないようにと

 木村さんに言われていたから

 さきっちょにも、サトやジジイにも

 話していない



 まずは味方から…あざむ



「さきっちょ、さすが!鋭いなぁ~(*´▽`*)」


「上手く顔は隠れてたけど

 私には すぐわかったわよ!

 マンションも写ってたし!

 うちの会社の人たちは

 相手がアミっぺだって気づいてないわ…

 騒動が落ち着くまで

 俊にも言わないでおくから安心して!」


「うん、助かる!」


「良かったね、アミっぺ…(・_・、)」



 うるうると目を潤ませて

 さきっちょは 抱きしめてくれた…



『ごめん、さきっちょ…

 言える時が来たら ちゃんと言うから…』




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 悶々と1日1日を過ごすうちに

 帰国予定日が あと2日と迫っていた


 10日間なんてあっという間よ!って

 余裕ぶっこいてたのに

 ここまで とても長く感じた





 管理人室では

 退院して間もないジジイが

 体調をみながら 少しずつ業務に復帰


 まだ1人で全部は無理なので

 私も手伝っている



「アミ…須賀つぁんは

 そろそろ帰ってくるのけ?」


「予定では 2日後に帰ってくるよ」


「早く会いたいべ…うぇぁ?」


「ふふふ、そうだね(^ ^)」


「帰ってきたら教えてケロ…

 入院中、何度も見舞ってくれたから

 挨拶したいからよ…」


「わかった(´∀`)」



 私は今、上手く笑えていたかな…

 週刊誌のことは 言わない



 ごめんね、ジジイ…

 せっかく喜んでくれたのに…





 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




 眠りについたジジイを見届けて

 管理人室から出て鍵を掛けていると




「アミさん…」


「あ、木村さん…」



 YJの事務所で胸を借り

 泣き崩れてから

 木村さんとは連絡を取らずにいた


 何度か電話もくれてたけど

 話せる状況ではなくて




「あれからどうしてるか…気になって…」


「ごめんなさい…電話にも出れなくて」


「いや……」




 "優と別れてよ…"

 木村さんの悲愴な声が

 耳から離れなかった……




 記事に載る写真を

 見せてもらった あの日以来

 

 必要以上に 木村さんと会ったり

 連絡を取り合うのは

 違うと思っていたから


 優の帰国も間近に迫った今

 木村さんがここに来たということは

 私の出した"答え"を聞くためかな



 また、どこで

 見られているかわからない…



 エントランスで立ち話も まずいよね…


 そう思っていたら



「場所を変えて…少し、話出来ないかな?」



 サトは、友達のところに

 泊まりに行っているけど

 家に あげるわけには いかない


 まして、木村さんが

 出入り出来るからと言って

 ゆうの部屋で話すのも 違う



 早いうちに木村さんには伝えないと



「そうですね…」



 自動ドアから2人並んで

 外に出ると



「……どうして 2人が 一緒にいるの?」



 アメリカにいるはずの優が

 立っていた





 久しぶりに聞く 愛しい声は

 いつもより低くて

 怒りを含んでいるように感じた




「ゆ、優!…今日帰ってきたのかっ!」



 帰国することを知らなかったのか…

 木村さんは びっくりしている様子だった


 何かを続けて話をしてしまう前に




 ……私は意を決して




「あ〜 帰ってきちゃったの?…(´▽`*)アハハ」



 そう言って

 隣にいる木村さんの手を握ると

 木村さんは 私の雰囲気を

 察してくれたようで握り返してくれた




「は?…」


 優は 眉間に皺を寄せ

 私を睨んだ




 このまま……優と

 出会う前の私に戻るだけ…




「見てない?週刊誌…

 須賀すがさんと遊べないから

 私から 仁くんを誘って

 会うようになったの」



「須賀…さんって……

 出発前に 仁が

 また撮られたって言ってたから…

 週刊誌は見たよ!

 空港のモニターでもニュースで流れてた!

 あの写真は前に

 仁が車でアミを送った時のだろ?」


「な〜んだ…仁くん!

 詳しく話さなかったんだ…」


「冗談だろ…?

 2人で 俺の事…裏切ってたってこと?」


「裏切る?…

 なんか勘違いしてるみたい…

 前に話したよね?

 オトコとの距離は

 セフレがちょうどいいって…」



 隣にいる木村さんは

 私に合わせてくれた



「アミ、早く俺の部屋に行こう…」


「うん…」


「部屋に…行くって?…」



 優は みるみる怒りの形相に…

 凄い剣幕で怒鳴った



「ちゃんと説明しろよ!!!…アミっ!!!」



「説明も何も、見ての通り…

 今まで仁くんと一緒にいて

 これから彼の部屋に行くの…」



「…ふざけんなよっ!!

 仕事、早めに切り上げて

 帰ってきたのに!何の仕打ちだよ!!!」



「早く帰ってきてなんて 頼んでない…」



「…っ…今、なんて言っ…」



「ひどいよね…

 ずっと そばにいるとか言っておいて

 アラサーの私に

 5年以上も待たせるつもりだった?

 そういうの無理なんだけど…」



「………」



「長年の夢が叶うのに

 私のせいにして

 なかったことにするとか

 重すぎ!ふふふ(*´艸`)」



 どんどん酷い言葉が出てくる

 今までのオトコは

 こうやって切ってきたから

 容易たやすいもんよ…



 前の私なら…全然平気だった




 なのに


 すごく痛い…

 本当は苦しくてたまらない…



 こうでもしないと優は…

 夢を諦めてしまう…



 優を本気で

 好きにならなきゃ良かったよ…

 こんな形で別れるなんて

 本当は ツラいよ…




 低い声で…心が見えないように

 離れていくように仕向ける



「1週間くらい離れただけで このザマ…

 私も 母親あの人と一緒…

 オトコが そばにいないと生きていけない」


「だから!これからは俺がっ!!」


「簡単に夢を捨てる人と なんか

 一緒に居たくない…」


「…え?」


「私と優は…住む世界が違うの!

 これで わかったでしょ?

 運命なんて簡単に

 書き換えられないのよ!!」



「アミ…話、聞いてよ…」



 優は、寂しそうに言ったけど



 ここで 終わらすの…



 握っていた木村さんの手を離すと


「ねぇ、仁くん…」


「・・・ん?」


「もう待てない…いつものキスして…」



 木村さんの腰に腕を回して

 顔を見上げた



「…いつもの?…おい、離れろアミっ!!!」



 木村さんは真剣な顔で答えてくれた


「いいよ…」



 優の目の前で

 唇を激しく重ねる



「やめろ…っ…アミ、やめてよ…」


 弱々しく聞こえる優の声



 わざと音を立てて…

 木村さんの唇に噛み付いて…

 淫らな声を漏らす…


 心は虚しくて 張り裂けそうだった




 優、早く行って…


 夢の邪魔は したくない…


 最初から釣り合わなかったんだよ…


 描く未来が 違いすぎた…


 早く行ってよ…

 私を見ないで…


 どうやって 優から離れたら良かったの?



 私には こんなやり方しか

 思いつかなくて




 許して……優…っ…



 ひどいのは、私の方だよ…




 ── 優のことを心から愛してる ──




 私の中で 優の存在は

 ものすごく大きくなって

 私の全部を満たしていたんだよ…



 他の人とキスをしながら

 優を想う…私は最低なオンナだ…



 思いっきり嫌いになって良いよ…




 ボロボロと涙が出てくる




 木村さんは

 私の涙が優に見えないように

 頬を両手で挟んで角度を変え

 激しく 舌を絡めてきた




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




 走り去る音が聞こえて



「っはぁ、んッ…」


 木村さんが唇を離すと

 ギュッと抱きしめてくれた



「アミさん…っ…ごめんっ……」


「また 巻き込んじゃって ごめんなさい…

 本当は ちゃんと

 別れ話しないと いけなかった…

 …卑怯なやり方でした」


「演技、上手だったよ…」


「優は…納得、してないでしょうね…」



 包まれた腕にチカラが入ると…

 一度止まったはずの涙が

 また押し出されるように流れてくる



「ごめんね…アミさん、ありがとう…」



「…木村さん…っ…

 これで良かったんですよね?

 優はアメリカに、行きますよね?…」



「うん、…うん…っ…」


 木村さんの声が震えていた




 …私が納得しなきゃ



 これで…良かったんだと…




 タイミングよく

 ゴロゴロと雷が鳴り

 雨が降ってきた



「…また連絡してもいいかな?」



 ゆっくりと体を離した木村さんは

 心配そうに私を見つめた



「はい…」



 少し微笑んだ木村さんは

 帰って行った




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 〜優 side〜



 …この怒り、どこにぶつけたらいい?


 苛立ちながら歩いてると

 雷が鳴る



 ふざけてる…

 馬鹿げてる…



 スマホを取り出し

 電話をした



「もしもし、桃李とうり?」


 ──「優さん?」


「悪い…明日、また向こうに戻る…

 何時の便でもいいから

 飛行機の手配 頼む」


 ──「え、わ…わかりました!

 あ、用事はもう…」


「今、事務所に戻る…」





 せっかく…

 アミに会いたくて……会いたくて…

 帰ってきたのに…




「何あれ…ひっでぇな…っ…」



 最悪だ…

 雨も降ってくるし



「……チッ…っ……」



 バシャバシャと

 水しぶきを立てながら歩いて

 怒りで熱くなった体を

 雨で冷やしていく…

 



 アミと過ごした時間…


 何もかもが新しく見えて

 すごく楽しくて、あったかくて

 俺1人で 勘違いして

 はしゃいでたってことか…



 バカかよ…




「……っ…勝手にしろ…

 アミなんか 嫌いになってやるっ…

 オレと別れたことを

 絶対…っ、後悔させてやる…

 ひどい女…っ、ぅっ…」



 タクシーをつかまえて乗り込んだ



 まともに座ってられないほど

 落ち込むって……笑えるんだけど




 事務所に着いた俺は

 桃李に抱きついて 声をあげて泣いた…



 恥ずかしいとか、男だからとか…

 もう、そんなのどうでも良くて



 ただただ 別れることが

 悲しくて…悔しくて…

 涙を止めることが出来なかった




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