第30話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 木村さんのお母様への

 プレゼントを無事に購入



 サトと YJプロダクションとの契約に

 必要な 後見人──私の署名をするのに

 木村さんと事務所へ向かう




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 街の中心部にある大きなビルの中に

 事務所はあった



 木村さんのあとについて 中に入ると



「おかえりなさい、仁さん!」


「ただいま!」


羽玖井はくいさん!はじめまして!

 事務スタッフの

 その 桃李とうりと言いますm(*_ _)m」


「はじめまして…

 羽玖井はくい アミです!

 弟がお世話になります(*・ω・)*_ _)」



 名刺の交換をした



 *・゚・*:.。.*.。.:



 来客用の部屋に通された


 テーブルにはタブレットが置かれ

 他の書類も広げられていた


 園さんの指示の元

 何ヶ所か 後見人のサインを書き入れる



「タッチペンでサインって

 未だに慣れなくて…

 下手ですみません〜(-ω-;)」


「僕も 未だに慣れないですよ!

 自分の字じゃないみたいですよね(*´꒳`*)

 …記入は以上になります!

 今、控えの書類を印刷してきますね!

 少し お待ちください!失礼します…」



 園さんは 出ていき

 入れ替わりで木村さんが入ってきた




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




「アミさん見て!

 ここからの眺めも結構いいでしょ?」



 椅子から立ち上がって

 木村さんの横に並ぶ



「ホントだ!いいですね(*^^*)」



 大きな窓から見下ろすと

 ちょっとした夜景…


 綺麗だなぁ…

 うちのベランダとは大違い



 優も ここから眺めたことあるのかな?

 無事に…着いたかな…

 ぼんやり考えてたら




「アミさんに

 見せたいものがあるんだけど…」


「おぉ!なんですか?(*´꒳`*)」



 一瞬で笑顔が消えてしまうもの…



「えっ…これ…」





 見せられたもの…それは…




「俺たち、撮られちゃったみたい…」




 数枚の写真…



 そこには

 車に乗って笑顔で話している

 木村さんと私が写っている

 

 

 広告撮影の打ち合わせで

 時間が押して遅くなって

 木村さんの車で送ってもらった日



 助手席に乗っている私が

 木村さんにシートベルトを

 締めてもらっているところ…



 確かにあの時

 シートベルトを締めるのに

 木村さんは私の前に体を移動させて…

 距離も近かった……だけど…



 淡々と木村さんは話す



「すごいよね…撮る角度によって

 まるでキスしてるみたいに見えるって…

 腕が良いというか なんと言うか…」



 他には 車内で向かい合って

 木村さんに頬を触られてるところも



 マンションに向かっていた時…

 前を走ってた車に記者がいて

 これを撮ったってこと?



 ある意味 感心してしまう

 話題の人をネタにするための執念…

 というものなのか



「これっ!

 うちのマンション前ですよね?

 あそこに記者が居たんですかっ?

 いつの間にこんな至近距離で…」



「やられたよね…」

 



 私の腰に手を回して歩く

 笑顔の木村さん




「あの男性が持ち込んだみたいだよ…」



「えっ…!」




 憎たらしいほど 綺麗に撮れていた


 手を繋いでエレベーターを待つ後ろ姿…

 そして、私の部屋に入っていく 2人…




 あの日は…マンション前に

 てつくんが待ち伏せしてた



「……信じられない」



 広場から 8階を見上げて…

 なかなか帰らなかったのは

 これを撮っていたからなんだ…

 ひどいなぁ…


 嫌がらせをするなら

 私だけにしたらいいのに



 木村さんを巻き込んでしまった



「こんなことになるとは

 思ってもみなくて…

 なんてお詫びしたら良いか…

 本当にすみません!!!

 そうだ!彼に連絡…あぁっ〜

 着拒にして削除したんだった…

 あ、だったら!

 出版社に 理由を話して

 記事の取り下げをお願いしに

 行ってきます!!!!!」



「もう、印刷作業に入ってるから

 無理なんだ…」



「じゃあ どうしたらいいですか??!!

 事実無根だって言っても

 ダメなんですかっ??」




 どうしよう……

 


 あちこちで

 見張られてるって言ってたのに

 こんなことになるのなら

 あの日 送ってもらわなければ良かった…



「本当に ごめんなさいっ!!

 木村さんにご迷惑を…っ…」



 私だけ慌てていても

 仕方がないのかもしれないけど

 木村さんは、何だか冷静だった




「迷惑だなんて思ってないよ…」




 そして、こっちに顔を向けて

 少し微笑んで木村さんは言った




「ねぇ アミさん…

 俺たち、ホントに付き合わない?」



「な、何言って…っ…」



「この記事を事実にしたら

 何も問題ないよ?」




 言わなきゃ…



「木村さん!実は、私…っ…」


「優…でしょ?」


「し、知ってたんですか!」


「……本人はアミさんの名前を

 言い渋ってたけど…

 何となく そうなのかなって…」




 窓からの景色を見下ろしながら

 木村さんが話し始めた



「本当はね、今回の海外の仕事も

 かなり前に行く予定だったんだよ…

 なのに アイツ

 行きたくないって言ったんだ」



「えっ…」



「好きな人がいるから

 行きたくないって…

 今は 彼女と離れたくないって…」



 ── "私が 足止め…させてた?"




 木村さんが私に向き合って

 話を続けた



「アメリカの有名なアーティスト

 Ked Sheeran…って知ってる?」



「ケド シーラン…知ってます!」



「彼からの直接オファーで

 優は 全米デビューすることに

 なっているんだ…

 向こうでは 顔出しもする…」



「アメリカ……」



「契約期間は 5年…

 売れたら それ以上かもしれない…」


「………」




 話のスケールが大き過ぎて

 一般人の私の脳内は ショート寸前




「優が 今回のデビューの件は

 無かったことにしたいと

 言ったみたいで

 慌てたアメリカの事務所から 俺の方に

 連絡が入って…」



「無かったことにって…」



「取り急ぎ10日間は

 先に頼まれていた仕事を

 片付けてくるみたいだけど…」




 私の存在が邪魔をしているんだ…




「"いつか世界で活躍したい…"

 長い間 温めてきた優の夢なんだ…

 アメリカに行かせてあげたい!

 そのために 俺もスタッフも

 今まで頑張ってきたんだよ!!!

 事務所総出で

 頭下げて 売り込みに回って…

 やっと ここまで来たのにっ!!!!」



 何も言えなくなってしまった…

 木村さんも、優のために

 たくさんの努力をしてきたことを知って

 心が痛んだ



「アイツは

 この小さな日本で終わるような

 プロデューサーじゃない!!!

 海外でも充分 力を発揮できる

 凄い奴なんだよ…

 だから アミさん……お願い…」





 錯覚してた…

 一緒にいても

 どこにでもいる普通の青年だったから



 そうだった…優は 有名な人…



 そんなことも忘れるくらい 自然だった




 やっぱり…私たちは

 住む世界が違いすぎたんだ…









「アイツと別れて…」





 木村さんの言ってることは わかる

 私も素人ながら

 優に才能があることぐらい わかっている





 だけど やっと…



 私もやっと 本気で人を…




 本気で…優を


 好きになったのに…





「木村さん、少し…時間をください…

 今、ちょっと…混乱していて、

 すみません…っ…」



 ハラハラと涙がこぼれる



 せっかくの夜景も

 涙で歪む



「ごめんね…

 俺は アミさんが好き…

 優に負けないくらい 好きなんだ…」



「私は…っ…」



 どう答えれば正解なのか…


 今、木村さんに

 優の事が好きだと…言っても

 何も変わらないような気がした…




 木村さんが私を抱きしめた



「離して…っ…木村さん…」


「……優と同じ香りがする」


「お願い…離してぇ…っ…」



 腕から逃れたくても

 所詮 男性の力には 勝てなくて



「俺が そばに居るから…

 優のことは もう…わすれて…」



 デートの記念に

 優からもらった香水


 出かける前につけたから



 この香りのおかげで 今日も一日中

 優と一緒に居る感覚だった…


 寂しさを少しでも紛らわすことが

 出来ていたのに…




 締め付けられる胸が苦しい…


 この現実を

 受け入れられない…




 私が優から…離れなければ…

 終わらないってことか…



 5年以上待つのは…私には……





「アミさん…優と 別れてよ…」



 抱きしめながら

 弱々しく言う木村さんも

 少し震えていた



「…っうぅ…っ…」



 何とも言えない心の歪み…

 気持ちを正すことが出来なくて



 苦しくて…悲しくて……

 木村さんの背中に腕を回し

 泣き崩れた




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 〜仁 side〜



 "芸能界屈指の人気俳優に…"

 "世界が羨む音楽プロデューサーに…"



 事務所をち上げる時に

 大きく目標を掲げて

 事務所一丸となって頑張ってきた


 海外にも売り込みに行って

 気に入ってもらえて仮契約


 優と2人、抱き合って喜んで

 事務所のスタッフ全員で

 三日、四日酔いになるくらいの

 祝杯をあげた


 それから 俺たちは

 アメリカデビューを実現させるため

 コツコツと準備をしてきたんだ





 "彼女と離れたくない…"

 そう言った優の目は 力強くて


 よりによって

 俺も好きになったアミさんが…優の…



 複雑だった…



 嘘じゃない…

 騙してる訳でもない…



 これは、2人に対する俺の本心




 ── 優の夢を叶えたい ──


 ── アミさんが好き ──



 どっちも譲れないものだから




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 〜桃李 side〜



 記者が事務所に来た日


 仁さんに協力して欲しいと言われ

 今日の日を設けた



 "契約のサインをもらったら

 彼女に 話すから"





 控えの書類を印刷中に聞こえてきた会話



 仁さんの片想いの相手…羽玖井はくいさんは

 優さんの彼女だった…



 夢を諦めるほど

 人を好きになるって

 どんな感じなんだろう…


 そう考えると胸が痛んだ



 優さんが惚れ込んだ女性に…

 仁さんも惚れる…


 今まで こんなこと無かったのに…



 書類を揃えて封筒に入れ

 応接フロアの前…


【隠し事は団結を壊す】

 なんでもオープンに…


 "応接室"ではなく"応接フロア"

 各部屋の扉を無くした この事務所



 仁さんは、羽玖井はくいさんを

 抱きしめていた



 仁さんと優さんは…

 僕が心から尊敬する人で…


 2人の胸の内を知ると

 いたたまれない気持ちでいっぱいになる



 この状況が良い方向に行くように

 心の中で祈った




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 "1人で帰れます…"


 そういって事務所を後にした


 色んなことが頭の中をグルグル回り

 熱が出そうなほどで



 どうやって帰ったのか覚えていない



 部屋に入ると

 サトがリビングに居た



「おかえり!姉ちゃん!」


「ただいま!帰ってたんだね!」


「泊まらないで帰ってきたよ!

 プレゼント、買えた?」


「うん、買えたよ!

 あ!サトがお世話になる

 木村さんの事務所に行って

 後見人のサインしてきたからね!

 頑張ってね!」


「おぉ〜いよいよ僕も

 YJの一員だァ(≧∇≦)ノ"」


「お風呂は もう入った?」


「うん、姉ちゃん 入っていいよ」


「…行ってくるね」



 リビングを出て自室へ…



「はぁ〜…」


 正直、何をどうしていいのか

 わからず 混乱している


 でも

 優のことを考えれば…



 私が、彼から離れれば…




「何で?…っ…夢なんでしょ…?

 私が…っ…、あぁ…どうして…」



 サトに聞こえないように

 声を殺す…



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