第15話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 当社 メンズコスメのアンバサダーが

 木村さんに決まった


 マネージャーに扮した須賀さんも

 ハリポタメガネのみの変装で

 初めての打ち合わせに参加した



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 〜その日の夜、ベランダにて〜



 …カラカラカラ



「お、来た来た!お疲れ様!」


「お疲れ様です」


「ねぇ…タメ語で話してよ」


「須賀さんが変態になるから嫌です!」


「アハハハ!

 だってアミさん…

 タメ語だと色気出るんだもん」


「あ〜やっぱり変態だ〜!」


「うおぉ〜出たァ〜!ヘヘッ♡」


「キモっ!」



 あのビンタの一件から

 気重な数日を送っていて


 最後にてつくんと会ってから

 何度かメッセージは来るものの

 "仕事が忙しい"とだけ返信していた



 この時間が唯一

 気を許す時間となっていて

 お互い 事故扱いの"あの出来事"には

 一切触れず 弾む会話を楽しむ



じんのマネージャー…

 びっくりしたでしょ?アハハ…

 アンバサダーの依頼が来て

 会社名を聞いた時

 もしかして アミさんも

 いるんじゃないかって思ったから…」


「え〜わざわざ見に来たんですかww」


「まぁ 俺たち普段から

 自分のスケジュールは自分で管理して

 お互いの予定も共有してるから

 マネージャーと言えば

 マネージャーっぽいんだよね〜」


「びっくりしましたよ!

 あんな簡単な変装で

 ホントに大丈夫なんですか?」


「バレたらバレたで…‪‪‪w‪w‪w」


「いや、絶対 ダメですよっ!!!!」


「……俺の事…心配してくれるの?」


「そ、そりゃ〜

 覆面アーティスト…ですから…」



 密かに…

 "私は彼の素顔を知ってる…"という

 特別な優越感に

 浸っていたのかもしれない


 他の人には知られたくないという

 独占欲にも似た…



「・・・・・・」


「あ、ネクタイ姿も なかなかでしたよ!」


「……かっこよかった?」


「えっと、…そ、そうですねぇ…」



 ・・・いや・・・ダメだ、雰囲気おかしい!

 話、変えよう!




「そういえば 渡したい物があるって…」


「あ、会話が楽しすぎて 忘れてた!」



 急に黙る須賀さん…


 少し沈黙の時間が続いた



「あれ?おーい!須賀さん居ませんか?」



 すると…



「……今…俺の部屋に来れる?」


「え?ベランダで 渡せないんですか?」


「うん、そうだね…」


「……物は何でしょうか?」


「いやいや、そんな警戒しないで

 軽い気持ちで…ね?」



 ん〜どうしよう…

 まぁ…玄関先で受け取るだけだし…



「…わかりました、今 行きます」



 *・゚・*:.。.*.。.:



「何を くれるんだろう…」



 *・゚・*:.。.*.。.:



「喜んで もらえるかな…」



 *・゚・*:.。.*.。.:



『インターホンは

 鳴らした方がいいよね…』


 玄関ドアの前で

 ウロウロしながら悩んでいたら


「どうぞ(*´꒳`*)」

 須賀さんがドアを開けてくれた


「失礼します…」

 玄関に 一歩足を踏み入れる


 そこからチラッと覗いてみる

 須賀さんちのリビング…


 ノリの良い曲が流れていて

 ベランダの窓から風が入って

 中途半端に閉められた

 レースのカーテンが

 そよそよと なびいている

 月の光を取り込みつつ

 間接照明も ぼんやりともっていた



 "ほほぉ…こういう雰囲気で

 曲作りしてるのか…"



「…入らないの?」


「え!入らなきゃダメですか?」


「せっかくだから 入ってよ…」


「怪しいですねぇ…(;¬_¬)」


「あれ?何か期待してんの?

 この前のは 事故…

 なんでしょ?( -∀-)ニヤリ」


「その言い方っ!…期待?

 …するわけないじゃん そんなの!」


「わ!タメ語だぁぁ♡(*´罒`*)イヒヒッ」


「だから!いちいち

 そういう反応しないでっ!(´^`*)」


「もう面倒だから

 敬語は いいじゃん(´▽`*)アハハ

 ほら、入って!」


 そう言って手招きをした


「…じゃあ、お邪魔します」




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 部屋に入ると


「うわぁ!スゴーイ.。゚+.(・∀・)゚+.゚」


 見たことのない機材ばかり並んでいて

 気持ちが高ぶる



 これらを駆使して

 1曲1曲 制作していくのかと思ったら

 なんだか感動でいっぱいになった



 キッチンから声がした

「…お茶で良い?」


「はい、ありがとうございます!(´▽`)」


「…俺って凄い?」


「うん!凄いっ!(*´꒳`*)」


「褒められた!めっちゃ嬉しい(*´艸`*)」


 須賀さんが

 子どもみたいに笑った



「アミさん、これ…」


 テーブルに飲み物を置いて

 渡されたCD…



「これって…あのアイドルグループの?」


「そう、アミさんの"ため息"入り」


「いやいや、私じゃないでしょ(ノ∀`笑)」


「ここ、見て…」


 そこには曲にたずさわった人たちの

 名前がズラリと並んでいる


 須賀さんが指さした箇所

 ──" special thanks ☆ I am "──



「アイアム…」


「I(アイ)を小文字にして

 mの後ろに持っていくと?」


「うわぁ…!…アミ…だΣ(゚艸゚〃)」


「そのまま名前入れたら

 迷惑かけちゃうかもしれないし

 "I am"なら誰の事か

 わからないかなって…

 これ…仁にも言ってないんだよねぇ〜

 ふふふっ( *¯ ꒳¯*)」



 ちょっとしたドヤ顔にもドキドキする


「最初から入れなくていいのに

 私 何もしてないよ?」


 須賀さんは首を横に振った


「あの時はホントに困ってたんだ!

 アミさんのため息で

 ヒラメキが降りてきて

 助かったんだよ!

 …どうしても

 アミさんの名前も入れたくて

 勝手に芸名作っちゃったけど(´▽`*)アハハ!!!!

 CDは 出来上がったら

 直接…渡したいって思ってたんだ…」


「すごく 嬉しいよ…!」

 CDに視線を落として

 何とも表現出来ない喜びを噛み締めた



「・・・ここ、押してみて?」


 須賀さんが ある機材を指さした


「ここ?」


 キーボードを触ると

 ドラムの音が…


「わぁ!.。゚+.(・∀・)゚+.゚

 これでリズム取れちゃうの?」


「生バンドで音を撮ることもあるけど

 デモみたいに ざっくり仕上げる時は

 これでやっちゃったりするんだよ」



 機材の説明や、曲作りに対する想いを

 目をキラキラさせながら

 語ってくれる須賀さんに

 どんどん惹き込まれていく

 いや…多分、もう既に…



 "音が繋げてくれた縁"と言ったら

 おこがましいだろうか…



 でも これ以上は…


 相手は 有名で凄い人


 踏み留まらないと!



 宙に浮いてる この気持ちを

 …認めてはいけない



「この前 聴いてくれた曲にも

 アミさんの独り言を

 反映させて頂きました!

 なので また

 special thanks ☆ I am って載せました!

 …っていう事後報告(ノ∀`)タハー」


「(´▽`*)アハハ!事後報告って!

 素人の言うことなんだから

 スルーしてくれていいのに…」


「素人じゃないよね?」


「吹部で打楽器担当だったぐらいで…」


「おおぉ!充分プロだよ!」


「口が上手いねぇ〜!」


「次のCDも出来上がったら…

 聴いてくれる?」


「もちろん!」


「…じゃあ また俺の部屋で 聴いてよ」



 そういうと須賀さんは

 ふわっと優しく私を抱きしめた



「・・・やっぱり!怪しいと思った!」


「ふふ…期待してた?」


「…これも芸能人あるある?

 部屋に誘って

 誰にでも こういうことするんでしょ?」


「誰でもいいってわけじゃないよ…」


「また、上手いこと言って…

 一番信用できないよ!

 芸能人はみんな、そうなんだって( ´‎ࠔ`* )」



 抱きしめられたまま

 少しの沈黙…



 そして



「俺ね…

 アミさんのことが好き…

 … 一緒にいたいんだ」




 …あぁ その ワード



「はいはい!信じません…

 ほら、早く解放して…っ」


 そう言ったら

 さっきより強く抱きしめられ


ゲンさんから聞いた…

 アミさんとさとしくんの

 お母さんのこと…」


「…弦さんって、いつの間に!

 ジジイと どこまで仲良くなってるの?

 フフッ( ´‎ࠔ`* )

 どこまで話を聞いたか知らないけど

 ドン引きしたでしょ?

 あの人は、"母"よりも"女"なの…

 何度も捨てられてボロボロになっても

 まだ男を追いかけてる…学習しないの」



 これ以上は 知られたくなかったけど

 オンナをあざむくものだと 信じてきた

 オトコから発せられる

 "好き"や"愛してる"の言葉たち


 その言葉を素直に受け入れることを

 ずっと拒み続けてきた私には

 障害が有りすぎるから



 距離をとるなら、今のうち…

 突き放すなら、今



 ── これ以上 入ってこないで… ──



「可哀想だなって同情した?

 せっかくだけど

 私は、好きとか 愛してるとか

 めんどくさくて…

 そういう言葉を信じて

 騙されるのも、御免だし…」



 さきっちょにしか

 話してなかったこと

 雪崩のように 吐き出した



「私は、あの人の娘だから…

 きっと同じを辿る…

 それだけは 絶対にイヤ!

 だから この前の修羅場だって 全然平気!!!

 オトコとの距離はね

 セフレがちょうど良いの…

 "愛"とか"恋"とか…

 私には 何の意味もない!

 ホント…虫唾が走る…

 "惚れた腫れた"も どうでもいい!」


「強がるなよっ!!!!」


「強がってないっ!!!無理なのっ!!!!」



「だったら俺と、

 そのを書き換えない?」


「え?」


「"芸能人あるある"とか言いながら

 本当は俺がアミさんを求めていることは

 わかってるんでしょ?」



 苦しいくらい抱きしめながら

 そういうことを言う?

 "事故"だと言った あのキスも

 …本当は



 ・・・・・・ 拒絶しなきゃ


 少しずつ 須賀さんの腕に温められると

 違う自分が現れてきそうで 怖い…

 苦しい…ツラくなる……



「どう考えても ありえないよっ!!!

 こんなどこにでもいる一般人よ!?

 須賀さんのような すごい人なら

 他に たくさんいるじゃないっ!!!!…

 女優さんとか、アイドルの子とか…!!!!」



「俺は…アミさんがいい……」


「無理だって言ってるでしょ!!!!

 もう 離してっ!!!!」


「無理かどうかは、俺が決める…」


 そういうと

 抱きしめていた腕を緩めて

 私を見た


「俺たちがどうなるかなんて

 誰も口出しできないよ…」



 流されそうになる…

 須賀さんに惹かれてるって

 自覚させられる…



「簡単に言わないでよっ!!!!!…やめてっ!!!」



 にっこり笑いながら

 さらに 須賀さんの顔が近づく



「俺がアミさんを

 運命の人だと決めたら

 誰が止められると思う?」



 どうして踏み込んでくるの?



 お願いだから……



 もう…止まってよ……

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