第11話

 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 ジジイがマンションの外で倒れていた



 パニック寸前の私を見つけて

 駆けつけてくれた須賀さんは

 救急車を呼んでくれて

 搬送先にも付き添ってくれた




 病院に着くと

 ジジイを乗せたストレッチャーは

 慌ただしく処置室へ運ばれる


 体の震えが止まらない…



 *・゚・*:.。.*.。.:



 処置室前のベンチに座って

 しばらくすると


「姉ちゃん!!!」


「えっ…サトっ!!!!」


 ベンチの横で立っていた

 須賀さんが


「ごめん、アミさん…

 俺がさとしくんに連絡したんだ」



「何から何まですみません!

 助かりました!

 ありがとうございます!」


「いや…」

 須賀さんは首を横に振った


「姉ちゃん、大丈夫?」

 しゃがんで私の顔を覗き込むサト…


「うん、須賀さんが居てくれたから…」


「優さん、ありがとうございます!

 えっ(;゚Д゚)!…マスクとグラサンは?…(ボソッ)」


「智くんも来てくれたから

 俺…帰るよ…」


「……っ…」

 

 なぜか…帰るという言葉を聞いて

 すごく寂しくなった…


「…姉ちゃん、何か持ってくるものある?」


「カバンとか全部 部屋にあって

 さきっちょにも連絡したいし…

 ジジイの保険証とかも…」


「そうだよね!

 ジジイも きっとすぐには

 帰れないだろうし

 入院に必要なものとか 持ってくるよ!」



 情けない…私が一番

 しっかりしないと いけないのに



「優さん、すみません!

 もう少し 姉ちゃんに

 付いていてもらってもいいですか?」


「…うん、いいよ」


「姉ちゃん、優さんが居るから

 大丈夫だからね!(*´꒳`*)」


「(。'-')(。,_,)ウンウン」


 うなずいた私を

 安心させるような笑顔を見せて

 サトは、立ち上がると

 急いで外に出ていった



 。゜⋆。゜⋆



「須賀さんも

 お忙しいのにすみません…

 私、もう1人で大丈夫ですから…」


「こういう時くらい

 強がらなくていいのに〜」


「( ゚∀ ゚)エッ!そういえば

 マスクとグラサンは?

 変装してないけど大丈夫ですか?」


「病院で変装は怪しいでしょ(´▽`*)アハハ

 …そんな心配、しなくていいよ」


「……っ…」


「大丈夫…俺の顔を

 知らない人が ほとんどだから…

 ほら、甘えて(*´꒳`*)」


「甘えてって言われても(*´艸`)フフッ

 どうしていいか わからないです…」


「アミさんは今…俺に何して欲しい?」



 何をしてもらいたいか…わからない

 …とにかく怖い


「不安で…震えが止まらないんです」


「…俺が不安で仕方ない時に

 そばにいる人にしてもらいたいこと…

 今、アミさんにしてもいいかな?」


「…はい」



 立っていた須賀さんは

 私の横に座ると

 優しく抱きしめてくれた



「………」


「……嫌じゃない?」


「( '-')( ,_,)ウンウン」

 頷くのが精一杯…


「…それなら良かった」



 時間外ということもあって

 人気ひとけの無い病院…



 彼の肩に頭を預けて

 腕にくるまったまま目を閉じてみる

 あんなに頭の中が混乱してたのに…


 不思議と気持ちが落ち着いた



『あぁ…この香り…

 やっぱり好きだなぁ』


 少しずつ、震えも無くなっていった




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 〜ゆう side〜


 会社で曲を依頼された芸能事務所と

 リモートでの打ち合わせが終わって

 マンションに帰ると

 いつもなら"おちかれさ〜ん"と

 声をかけてくれる管理人さんが

 居なかった


『あれ?この時間 居ないのか?』


 鉢合わせしたアミさんも

 同じことを思っていたのがわかって

 部屋に戻っても 何となく心配で

 様子を見に行った


 マンション内には居なかったから

 外に出てみると

 地面に座り込んで

 管理人さんを抱えて

 今にも泣き出しそうなアミさんが

 視野に入った


 気がついたら駆け寄って

 自分でも不思議なほど

 冷静に対処出来た


 俺の前だから

 アミさんは必死に

 感情を押し殺していたんだろう…



 アミさんの潤んだ目から

 一筋の涙が伝う


 …綺麗だと思ってしまった



 救急車を呼んで到着を待つ間


『智くんにも知らせた方が良いよな…』


 すぐに電話したけど

 智くんの反応がちょっと…•́ω•̀)?アレ!?



 彼女の不安を取り除く方法を

 色々模索しながら

 救急車に乗り込む前に

 変装を解除…

 搬送先の病院名を智くんに

 メッセージで送った




 病院に着いて ストレッチャーで

 処置室へ入っていく管理人さんを

 心配そうに見つめている彼女の後ろ姿…


 "俺に何が出来る?"


 それなのに アミさんは

 変装してなくても大丈夫なのかって

 目を丸くして…

 救急車の中では もう

 変装はしてなかったのに…


 こんな時にも、俺の心配なんて…



 『可愛い人だなぁ…』



 心乱れそうなのに

 笑って律儀に敬語で話すアナタを

 


 不謹慎だけど 俺は…



 ……抱きしめたいって思ったんだ



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 どれくらいの時間が経ったんだろう…

 ようやく処置室のドアが開いた


「アミさん…先生が出てきたよ」


 須賀さんに預けていた体を起こし

 立ち上がった


「あの、祖父は…」


「大丈夫ですよ!

 今は薬で眠っています…

 地村さん、狭心症もしくは

 心筋梗塞の疑いがあります…」


「そうですか…」

 胸の辺りを押さえて苦しそうだった…



「少しの間、入院して詳しく検査して

 治療法を考えましょう」


 看護師さんがやってきて

 入院手続きの説明をしてくれた



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 手続きが終わり待合室で待っていると

 サトが荷物を持って戻ってきた


「姉ちゃん!ジジイは?」


「詳しく検査するのに

 入院することになったよ……」


「そっか…ジジイに会えるのか

 受付に聞いてくるね」


 持ってきてくれたカバンから

 スマホを取り出し

 さきっちょと俊マネに連絡をして

 2,3日 休みを取ることにした



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



「須賀さん、色々と

 ありがとうございました!」


 ずっとそばに居てくれた須賀さんに

 お礼を言うと


「とりあえず、良かったよ…(。´-д-)ハァ-」

 安堵のため息をついて


「手伝えることがあったら

 遠慮なく言ってよ!

 俺もアミさんには

 何度も助けてもらってるからさ…(*´꒳`*)」


 その言葉をかけてくれただけで

 嬉しかった


 ヒラヒラと手を振って

 須賀さんは病院を出ていった



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 〜ゆう side〜



 アミさんとさとしくんに

 背を向けながら手を振って

 歩きながらマスクとグラサン装着…


『心筋梗塞、狭心症か…

 後でググッてみよ…』


 そんなことを考えながら

 病院から出ると


「大丈夫だった?」

 そこには じんがいた


「ごめん!連絡出来なかった…」


「優が なかなか戻ってこないから

 俺も心配になっちゃって

 部屋から出たら

 智くんと ばったり会って…

 俺の顔みて、びっくりしてたよ!」


「会ったの、初めてだったか!」


「急いでたみたいだったから

 話を聞いたら、管理人さんが

 ここに搬送されたって…

 だから車で送ってあげたんだ…」


「ありがとう…助かったよ…」


「智くんと番号交換していて良かったな」


「ホント、それ!…」


羽玖井はくいさんは?…大丈夫か?」


「……震えてたよ…可哀想に」


「……そっかぁ」


「・・・・・・」


 本当はもう少し…

 アミさんについていてあげたかった


 仁が俺の肩をポンポンと

 叩きながら言った



「帰り、飯でも食ってくか」


「そうだな…」



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 薬で眠っているジジイの病室…


「サト、ごめんね!びっくりしたよね…」


「ジジイ…

 いつも元気だったからなぁ…」


「…あの人には?」


「一応伝えたけど

 仕事に行ったんじゃない?」


「ジジイが倒れた時くらい

 こっちに顔出せばいいのにね…」


「そういう人だよ、あの人は…」


「サト… そろそろウチにおいで…」


「…うん…僕も限界だよ」


「合鍵も渡すから

 少しずつ、荷物持って来て…」


「…そうするよ」


「今まで我慢させてごめんね…」



 *・゚・*:.。.*.。.:



 オトコに狂ったオンナの顛末てんまつ

 子どもにも愛想尽かされるのよ…


 同じ血が流れている私もきっと…

 あの人みたいになる…

 絶対…狂うもんか…



「そうそう、さっきね!

 木村さんに車で

 送ってもらったんだよ!」


「え!そうなの?!

 今度会ったらお礼言わなきゃ…」


ナマの木村さん

 めっちゃカッコ良かった(∩∀<`。)!」


「生って…(ノ∀`笑)

 さてと、私たちも帰ろうか…

 明日から何日か休みとったから

 私、ここに来るから」


「うん、ジジイの様子、教えてね!」



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 病院を出るとすっかり日は落ちていた

 途中で サトと別れ マンションに戻った


 管理人室の窓口には

 カーテンが閉められ

 施錠もされていた


『サト、あの短時間で

 ここまでやってくれたんだ…』


 私より しっかりしてる…(*´艸`)フフッ



 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆



 自室の玄関ドアが

 いつもより重たく感じる…

 中へ入ると

 鈍い音を立てて閉まった



 真っ暗なリビング

 ポケットに一度戻した鍵を

 ダイニングテーブルに置いた


 ん?…ポケットに異物感


「あ…ここに入ってたのか…」


 リップのサンプル…

 気分転換に少し 唇にのせてみる


「あ、いい香り…」


 だけど 気持ちは重たいまま



「はぁ〜…」


 居て 当たり前だったジジイが

 外で倒れてたのを目の当たりにして

 恐怖だった



 ── このまま 死んでしまったら… ──



 最悪のことを考えながら

 涙を堪えて

 必死にジジイを呼び続けていた…


「…助かって、良かった」


 少しだけ涙で視界がゆがむ…




 ピンポーン.•♬


 インターホンが鳴る


 ディスプレイには…



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