第10話


 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 仕事帰り

 てつくんと待ち合わせ…


 いつもは

 誰が見てるか分からないから と言って

 並んで歩くことはしなかった


 なのに今日は

 改札出て、目が合った瞬間に

 駆け寄って来て 私を抱きしめた



「ちょっとっ!…見られちゃうよ!?」


「見られてもいい…」




 何だかいつもと違うなぁ…



 ギュッと

 キツく抱きしめられる…



「哲くん…

 寂しかったの?ふふっ…」


「会いたくて 仕方なかったよ…

 行こう…」



 身体を離したかと思ったら

 私の手を引いて歩き出した



「ねぇ…手を繋ぐのも

 まずいんじゃない?」


「・・・・・・繋ぎたいんだ」



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 何を焦ってるのか…

 食事もままならない


 店を出たら まっすぐホテルへ…

 シャワーを浴びる時間も惜しいと

 言わんばかりに 押し倒される



「哲くん…?…っん!!…」


「アミ…っ…」



 いつも以上に甘えてくる…

 しばらく会ってなかったし

 恋しく思ってくれたのかな?

 …そんな軽い気持ちだった


 明らかに違ったのは

 事の最中、何度も私の名前を呼んで

 少し乱暴で激しくて…

 泣きそうな顔で何度も求めてきた


 達したあとも

 なかなか離してくれなくて…



「…なにかあった?」


「……バレたんだ」


「え?」


「アミとのことが…バレた…」



 私を抱きしめる腕に

 チカラを入れ



「今朝…

 俺のスマホを見てるのを注意したら

 前から勘づいてたみたいで

 アミのこと 色々言われて腹が立って

 喧嘩になった…

 多分、今日会ってることも

 知ってると思う…」


「そっか…じゃあ、この関係は…っ…」


「・・・嫌だ」


「……バレたら終わりって」


「嫌だ…」


「哲くんっ!」


「…彼女とは、別れる」


「ちょっと、落ち着いて!

 彼女と話し合ったの?」


「…話してないよ

 俺は もう決めてるから

 これからは アミと一緒にいる…」


「哲くん…」


「困らせてるのは わかってる…

 でも、もう…どうしようもないんだ!

 俺の気持ちは、だいぶ前から

 アミの方にかたむいてる…」



 …今まで見たことの無い 切ない顔



「…私は、言ったよ?

 この関係を始める時に

 哲くんとは 付き合わないよって…

 バレたら終わりだよって…」



「・・・・・・」



 沈黙が続く…



「アミの気持ちは…変わってないの?

 やっぱり、付き合えない?

 …俺のこと…好きじゃないの?」


「私ね、普通じゃないの…

 付き合わないって言ったのは

 彼氏とか めんどくさいし

 わずらわしいから…

 この先、結婚だって

 するつもりもない…」


「俺は……アミを愛してる…」


「・・・・・・」



 あぁ… 言っちゃった…



 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆



 ごめんね、哲くん…



 ひねくれた私を形成したのは全部…

 育った環境のせい…

 男に執着した母親あの人のせい…



 "…っ…どうしてっ!!!

 あの人は…私のことを…好きだって…!

 愛してるって言ってくれたのよぉ…っ…"


 号泣する母親の口から出た言葉…


 "好き"って何?

 "愛してる"って どういう意味?


 素敵な言葉だと思っていた…



 ━━━ オンナ をあざむく言葉 ━━━


【絶対に信じてはいけない言葉】として

 まだ幼かった私に 植え付けられた



 。゜⋆。゜⋆



「彼女と、話すよ…

 また、連絡するから…」


「…うん」


 哲くんは 私の話に

 納得できない顔をしていたけど

 この先のことを話し合うと言って

 先にホテルから出て行った



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 【STRING CHIMNEY】に着く


「はぁ…ε-(´-`*)…」


 エントランスに入ると

 ジジイと会った


「今帰りか…疲れた顔してからに!」


「おっ!ジジイ…まだ起きてたの?

 早く寝ないと…」


「寝る前のごみ拾いだ…ボハハハ(´▽`*)

 ちと熱めの風呂さ、うわぁって入って

 ぐっすり寝ろ…」


「…うん、そうする(*´꒳`*)」



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 〜802~



 じんが お茶を飲み干したあと


「今日、コスメの会社から

 アンバサダーの依頼が来たんだよ…」


「ん?どこの会社…?」


「Goff化粧品」



 …そこって……



「あ、その会社 知ってる知ってる!

 俺も使ってるよ!」


「マジか?」


「アンバサダーか…良いんじゃない?」


「じゃあ、受けようかな!」



 …なんだろう、このワクワク感

 また、一歩 近づけたみたいで



「……フフッ…」


ゆう?どうした?」


「えっ…?いや、別に…」


「じゃ、俺帰るわ」


「おう!気をつけて帰れよ…」



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 〜803~



「…終わらせなきゃ」



 あの言葉を聞くと

 どんどん気持ちが冷めていく

 …こんなもんよ



 ジジイの言った通り

 いつもより熱めのお風呂に入った後

 ベランダへ…



「はぁ〜ε-(´-`*)」

 また ひとつため息をつくと


「どうしたの?疲れてる?」

 隣から聞こえた



「はい…疲れてます…」


 隔ての横から

 ヘッドフォンが、ぬ〜んと出てきた


「おっ!」


「聴いてみて…」



 •*¨*•.¸¸♪.•*¨*•.¸¸♬♬*.*・゚ .゚・*.



 自然と体が

 動いてしまいそうな軽快なメロディが

 全身を駆け抜けていく



 部活で ドラムを叩いたこともあった


 クラッシュとライドシンバル…

「この辺りに入れたらかっこいい…」


「ん?」


 スネアドラム…

「この辺りで連打して…」



「…え?何、何?」


「…独り言です」


「いや、その独り言!もう1回言って!」


「…え〜っと、あれ?

 何言ったか覚えてないです(*´艸`)」


「連打ってドラムのことか?!

 どこだ?教えてよ!」



 何となくモヤモヤしてた気持ちが

 音楽で少し 晴れていった



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 次の日の夕方…


 早めに仕事を

 終わせることが出来たので

 食材を買って久々に

 ジジイのところに寄った


 管理人室の窓口

 いつもの定位置にジジイの姿はなく…


「トイレでも行ったのかな?」


 エントランスに入ると

 ちょうど カマキリも居て


「よぉ!おかえり!」


「おつかれさまです!今帰りですか?」


「そう!

 打ち合わせから戻ってきたところ」



「今日は、メスカマキリ…

 大丈夫でしたか?」


「雌って(||゚Д゚)ヒィィィ!

 なんだよそれ!怖いな。゚(゚ノ∀`゚)゚。アハハ」



 そんな雑談をしながら

 管理人室を覗く


「あれ?やっぱり居ない…

 掃除でもしてるのかな」


 共有部の掃除に行く時は

 窓口に"ただいま清掃中"という

 札を掛けているはず…


「管理人さん、いないよね?」


「…どこかに行ったのかな〜」


 8階に上がり

 部屋に荷物を下ろすと

 階段を下りて管理人室へ戻った



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 〜802~



「お!帰ってきた!」


「木村社長、一応言っておく!

 ここで寝泊まりしてるのは俺だから

 勝手に入ってくるなよっ!」


「会社で借りてる部屋だから

 俺も出入りできるんだぞ!」


「どうするんだよ!

 俺がオンナと寝てたら…。゚(゚ノ∀`゚)゚。ワハハ」


「え?そりゃ〜こっそり覗くか…

 いや、乱入しようかな…(*´艸`)ヌハハ」


「アホか!(ノ∀`笑)」


「その時はドアチェーンでも しとけ!」



 なんてバカ笑いしながら…

 洗面所で手を洗っていたが



「……」


ゆう、どうした?」


「あ、いや…さっき

 アミさんと下で会って

 管理人さんが見当たらないって…」


「……え?…そうなのか?

 俺が来た時は

 エントランスの掲示板に

 何かのお知らせ、貼り替えてたぞ?…」


「俺、ちょっと見てくる…」


 カバンを置いて

 管理人室へ向かった



 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



『ジジイ、どこにいるんだろ…』


 階段で各階を見回っても

 ジジイの姿はなくて


 管理人室にも居ない



 たまにマンション周辺の

 草むしりもしていたから


『外かな…』


 エントランスから外へ出て

 マンションの裏側へ



「……えっ…」



 倒れているジジイを見つけた


「…ジジイ?…大丈夫?」


 …血の気が引いていく



 ━━ いやだ…



 ジジイの元に走り 抱きかかえて

「ねぇ!!!ジジイ、聞こえる???

 目を開けてっ!!!」



「…ぅぅ…ぅっ…」


 胸を押さえ顔をゆがめている


 救急車を呼ぶにも

 スマホは部屋に置いてきたカバンの中…


『どうしよう…』

 取り乱す寸前だった その時、


「アミさんっっ!!!!」


 須賀さんがこっちに来てくれた



「…ぁ…あの…ジジイが…っ…!!!」


 何から どう言えばいいか…

 混乱していた



「アミさん、大丈夫だよ!

 今 救急車呼ぶからね…」


 須賀さんの落ち着いた優しい声に

 頬に熱いものが伝っていく


「大丈夫だから…」

 そう言って微笑んで

 指で涙を拭ってくれた


 須賀さんは私の近くでしゃがむと

 ポケットからスマホを出して

 そして、もう片方の腕で

 私の肩を抱えてくれた



 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆



 救急車の中…


「早く見つけられなくてごめんね…」

 ジジイの手を握りしめ

 何度も謝る


 

 病院に着くと

 ジジイを乗せたストレッチャーは

 慌ただしく処置室へ運ばれる


 体の震えが止まらない…



 須賀さんも一緒に

 救急車に乗ってくれて心強かった



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