第25話 魔王軍幹部 ①

 その日、アクセルの街では幸いにも雨は降ってなかったので依頼を受けることにした、アラシパーティー。


「昼前にギルドに来て『ブラックファングの討伐』の依頼があったのはラッキーでしたね」


「いや、めぐみん、それってラッキーと違うから !

 駆け出しの街で一撃熊の亜種のブラックファングなんて、塩漬けクエストになる扱いだから!」


「クリス、それでも毎朝、紅魔の里でモンスターを狩ってる私たちには可能だし、ギルドの依頼は素材換金だけじゃなく依頼報酬が入るからね」


「じゃあ、話に一段落ついたところで、相手もしびれを切らしてるからな。 さっさと始めよう」


 アラシが一同に号令をかける。

 現地に着いて、それ程かからないウチにクリスが目標のブラックファングを見つけた。

俺の歌を聞けぇ~ ブースト魔法!』の詠唱の後、奇襲をかけようとしたところ、その後方から一撃熊の群れが現れた。



「何かに追いかけられてるように見える !

 めぐみん、先にこの群れだけでも片ずけよう」


「準備はできてますよ、エクスプロージョン!!」


 閃光と爆音が轟き、一撃熊が十頭も四散した。

 残ったブラックファングも瀕死の状態でクリスがなんなく仕留めた。


「アサシンになって攻撃力が上がったの?」


「それだけじゃないよ、ねりまき。

 新しく獲得した会心の一撃のスキルのお陰でね、どこでも武器が命中した部分が相手の弱点になるんだ !」


 


「必要ポイントは多かったみたいだけど、クリスはずいぶんスキルポイントが貯まってたみたいだし、問題ないよね」


「それにしてもクリスが、レベル七十とは驚きです」


「今まで一人で活動してきたことが多かったからね。

 それでも盗賊職だから、ギルドでは注目されなかったんだ。

 他の人には、カードを見せなかったからね。

 でも、それを言うなら、君たちのレベル上昇の早さは、すごいよ !」


「まあ、私とあるえは、レベル十八に上がってるし、めぐみんは?」


「今ので二十二になりました。

 そしてアラシは……」


「空気が変わったなクリス、分かるか?」


「これは……ゴブリンにコボルドにレッドボアに、ああ、一撃熊も一杯いる !

 他にもまだ分からないけど後から来てるよ !

 ギルドに知らせた方がいいんじゃないの?」


「いや、ここで見逃しても依頼が来るんだ。

 被害が出る前にやってしまおう。

 爆裂魔法を使ってしまったから、めぐみんは慎重にな。 えーてーフィールド !

 今回は逃がさないために奴等を囲んでるからな」


 そう言ってアラシが白銀の長剣から衝撃波を放つ。


 ナンクルナイサーだ。

 アラシはハーフボイルドのスキルを好んで使うが、以前よりも威力が増している。

 複数の一撃熊が巻き込まれて倒れ伏した。

 めぐみんは、槍で地道にコボルドを相手している。


「いっくよー、ライトオブセイバー!」


「ライトニングストライク!

 おまけにカースドライトニング!」


「ふふん、魔法の檻からでられないんだから、攻撃し放題だね♪」


 ◇◇◇


「うーん、辺り一面死体の山だね~」


「それでも、レベル上げには役立ったよ。

 これでレベル二十だ !」


「私もあるえと一緒♪」


 少女達が賑やかにしゃべってるところにアラシが戻って来た。

 大きなトカゲのようなものを引きずっている。


「それは、バジリスクじゃないですか?

 危ないところでしたね」


「俺には奇襲スキルがあるからな !

 石化攻撃でお前らが襲われる前に仕留められてよかった」


 その後、ギルドに戻り、依頼の他にどこかから逃げてきたであろう、大量のモンスター討伐の報告に驚かれたが、追加の報酬が出た。


「今回は災難でしたね、アラシさん。

 本来なら、ブラックファング一頭だけの討伐依頼なのですが、十数頭の一撃熊にゴブリン・コボルド・レッドボア、ついでにバジリスクですか……」


「素材も買い取ってもらうがバジリスクは、こちらで引き取るぞ !」


「そうですか。

 追加報酬と素材の買い取り分と合わせて千二百万エリスをお渡しします」


「それで、熊どもが逃げてきた理由があるのか?」


「……つい最近、魔王軍の幹部らしき存在がそれほど遠くない古城に来てると報告があったんです」


 待っていた仲間に、この場で小分けにしてもらった報酬を分けていると、カズマ達が近づいてきた。


「よう、もう帰るのか?」


「ああ、受付で聞いたが魔王軍の幹部が来てるらしいな?」


「お前らは気づかなかったようだが、今朝から、低レベルの依頼は軒並み出てないんだよ」


「じゃあ、しばらく仕事はなしだな。

 別な街に行くか」


「お前らが行って倒してきてくれよ !」


「それより、相手の偵察が先だろう」


 出て行こうとするアラシ達を、カウンターの奥から出てきた年かさの男性職員が呼び止めた。


「あなた方にその古城に現れた幹部の偵察をしてきて貰いたいのです」


 アラシが仲間を見回すと、無言のうちに賛意を表していたので、依頼を受けることにした。


「了解。

 明日は朝から来て打ち合わせをしよう。

 それでいいな !」


 頷いたベテラン職員を見て、少年少女らは冒険者ギルドを出た。


 アラシの様子を見て驚いたカズマは、

「アイツ、バジリスクの死体を引きずって行ったぞ !」


 呟いたつもりが、興奮したのか大声になっていた。

 それに、律儀に答えるゆんゆん。


「たぶん、紅魔の里に持ち帰ったら、鍛冶屋と魔法の武具を作る気なんだと思います」


「そうなのか、ゆんゆん?」


「王都で製作されてる武具より、性能面なら、紅魔族が作ったものが上です。

 テレポートが使える強みですね」


 ゆんゆんは、羨ましそうな表情をしていた。


「低レベルの依頼がないのは、さっきので確定だし、俺たちはどうするかな?」


 パーティーリーダーのカズマは悩んでいたが、三人の女性達はバラバラに行動していたのだった。


 シュワシュワで酔いながら騒ぐアクア

 一撃熊を見てもだえているダクネス

 いつまでもアラシの帰った方を見ている、ゆんゆん


 このカズマパーティーの明日は、どっちなのだろうか ?


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