第10話 悪魔

「見慣れないモンスターが出たから午後は授業は無しだ !

 皆、決して一人では帰宅しないようにな!」


 担任教師の言葉を受けて私は帰り道を歩いていた。


「それで、あなたは何処かに寄っていくのですか?」


「ああ、こめっこのことが気になるからな

 見当をつけてる魔神の丘に行ってみるつもりだ」


 珍しく私たちと帰りを一緒に歩いていたアラシに話しかけてみたらこの答えが返ってきた。


 背中を見せて歩いていく、女タラシを見送ってから、ゆんゆんをじっと見る。


「私たちも行くんだね、めぐみん」


「当然です!各自、家に荷物を置いたら現地集合と言うことにしましょう」


 急いで身支度をして、途中で合流したゆんゆんと二人で駆けつけた魔神の丘

 そこにはコウモリのような翼を生やし、口から牙をのぞかせる、いかにも悪魔といった巨漢がしゃがんでいた。


 その目の前にどんぶり飯を頬張るこめっこと、横にアラシが胡座あぐらをかいて座り込んでいた。


「コメッコから離れなさい、この悪魔が!」


「そういきり立つなめぐみん

 少なくともコイツはこめっこには危害を加えな

おい、紅魔族流の名乗りをあげてやれ。」


「ふふん、ではいくぞ。

 我が名はホースト。上位悪魔にして怠惰と暴虐の女神ウォルバク様に仕えるもの!

 やがて、こめっこに召喚されて使役されるもの!」


 なんだろうか、紅魔族に合わせたのだろうが最後が残念すぎる……


「なんか恥ずかしい!」


 私の隣でゆんゆんも引いている。

 呆然としてる間に事態は進展していた。


「それでな、ホーストがこめっこと邪神の墓の封印を解いたわけだが、出てきたのがアノ黒猫だ。

 そして、ホースト

 実はな、そのもっと前にここに居るめぐみんが、小さいときに封印を解いてお前の探してるウォルバクはとっくに紅魔の里を立ち去っているそうだ」


「なんだってー !

 じゃあ、ウォルバク様は今どこに?」


「俺の推測だが、アルカンレイティアか……魔王城の何方どちらかだ。」


「よし、さっそく行ってみるぜ。」


「まあ、待てよ

 どうせ魔王城に居ても、居心地はよくないだろう

 ウォルバクを見つけ出したら、一緒に紅魔の里に住めば良いだろう」


「えぇ、なに言ってるのアラシ !

 上位悪魔なんだよ?

 怖いんだよ!」


「上位悪魔だからだよ

 それに、ここに住んでこめっこの子守りをしてもらいたい

 ホースト、この里には猫耳神社と言う場所がある

 そこに住んで里の住人になる気があるなら、族長の家まで一緒に来い」


「俺にはアーネスって同僚もいるんだけどよ?」


「一緒に里の住人になればいいさ

 悪魔だからって変な人間にいいがかりを付けられたり、ろくでも無いのに召喚されるよりは気楽だろう?

 それに、ウォルバクは自分から積極的に行動を起こすタイプじゃないんじゃないか ?」


「まあ、それもそうなんだけどよ。」


 結局、全員でゆんゆんの家に行くことになった。

 上位悪魔であるホーストを見かけた里の住人は騒然としたが、将来魔王軍に所属して攻めて来られるよりは『里に所属してその住人になってもらった方が紅魔の里のためになる』と言うアラシの意見が最終的には支持された。


 邪神を崇める里と言うのがかっこいいらしい。


「アラシ、あなたは何者なんですか?」


 今現在、私たちは二人きりだ。家に帰る私を例のごとくアラシが送ってくれている。


「我が名はアラシ、紅魔族族長の娘婿に成る者!

 だが、この生を受ける以前の記憶もあるぞ……」


「え?それはどういうことですか?」


「大事なことだ

 俺が、ゆんゆんが好きだ !

後、めぐみんを妹のように思っていると言うことだ」


 どちらからともなく、我が家に着くまで私たちは手をつないでいた。

妹か、今はまだ……アラシのことを、『お兄ちゃん』とは呼びたく無い !


 ホーストは紅魔の里周辺を捜し廻った。

 やはり、ウォルバクは魔王城にいたらしい。

 そこで何やら一悶着あったようだが、城にいた見通す悪魔が騒ぎを起こした隙に逃げてきたと言っていた。

 アーネスという女悪魔もちゃっかり付いてきたが彼女の巨乳に里の男どもの目は釘付けになっていた。


 あの女は敵だ、巨乳なんか滅べばいい !


 昔、私を助けてくれたお姉さん、ウォルバクは里の魔法学校レッドプリズンの教師に成った。

 アーネスは各地の情報収集をしているし、ホーストはすっかりこめっこの子守りが板に付いている。


 そうして、アラシがこの里に来て一週間がたった。

 学校の授業が終わった後で私と ゆんゆん、アラシの3人で帰宅していた。


「アラシもレベルが20になったんだね

 スキルポイントもまた76ポイントになってるよ」


「あなた、1レベル上昇でスキルポイントが2も上がってるのですか?」


「どうやらそうらしい。超級職の恩恵かな」


「そんなのズルいではないですか !

 私も ゆんゆんも、まだ中級魔法を覚えるのがやっとですよ !」


 そうなのだ。私のスキルポイントは15。ゆんゆんは昨日、11ポイントになったばかり。


 これでは、爆裂魔法はおろか、上級魔法もまだ覚えられない。

 アラシが先に卒業したら、この里から居なくなってしまう

 そんなの嫌だ !







…………思考にとらわれて下を向いていたら空を覆うほどのモンスターの群れが襲来して、紅魔の里中に警報がけたたましく鳴り響いた。


 

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