第9話 養殖
「ようし、自分の武器が有る者は、それを取れ。
無い者は、ここから好きなものを選べ」
今日は養殖の時間割だった。
残念ダメ教師のプッチンが手近な雑魚モンスターを拘束、無力化して、それを生徒がとどめを刺して経験値とスキルポイントを得ると言うものだ。
ゆんゆんは、先日購入した自前の短剣を持っている。
他の生徒達は無造作に置かれた巨大な武器を持ち上げるため自らの魔力に語りかけたりしていたが……
「先生~ !これ、みんな外側だけ細工しただけの木製じゃないですか」
「ゆんゆんは減点5だ、少しは空気を読め」
各々武器をたずさえ、私達は森に入った。
なお、この養殖授業も男女合同である。
近くには他の男子に混じってアラシの姿も見える。 16歳の彼は他の男子に比べても、身長だけで170㎝はあるだろうか。
「それでは先生が片っ端から拘束していくからな
少し経ったら進んでこい」
そう言って残念なダメ教師が、ずんずんと奥に入って行った。
「フリーズバインド!」
考え事をしていたら、他の面々もグループ分けをして進んで行ってしまった。
アラシも他の男子2人と行ってしまう。
「ほら、めぐみんもいつまでもアラシに見とれてちゃ駄目だよ」
声をかけてきた、ゆんゆんに反論しようとしたが珍しく私以外の女子ふにふら や どどんこも一緒に行ってしまった。
「めぐみん、組む人がいないなら私達と、どうだい?」
「私もめぐみんと話したいかな」
話しかけてきたのは、あるえと………ねりまきだ。
「……分かりました
私は逃げも隠れもしません
一緒に行こうじゃありませんか !」
目の前に首から下を凍り漬けにされたトカゲがいる
「お先にいいかな?」
頷いた私とねりまきを確かめてから、あるえがハリボテの大剣を振り下ろした。
断末魔の声をあげてトカゲが絶命すると、あるえは自分の冒険者カードを見て満足げにしている。
どうやら、レベルが上がったらしい。
「ねえねえ~ めぐみんはアラシのことを、どう思ってるのかな?」
ねりまきの質問に答えに迷ってしまう。
「別に……あの男が、こめっこや我が家のために獲物を貢いでくれたことには感謝していますが、それだけです」
「ふう~ん
アラシは明らかにめぐみんだけを特別扱いしてるよね? ゆんゆんも言ってたよ」
「何が言いたいんですか?」
「別にぃ~
ただね、ゆんゆんやあるえだけじゃなくて、わたしもアラシのこと好きだから !
必要なら冒険者に成って着いても行きたい
ダメなら、テレポートの呪文を覚えて彼には毎日里に帰ってきて会ってもらいたいかな」
「うん、アラシが冒険者になった後も顔を会わせたいのは私も同じかな」
モンスターにとどめを刺した、あるえも口を挟んできた。
「アナタ達は作家と居酒屋の女将をそれぞれ目指すのでしょう? 冒険者にならないのでは?」
「さっき言ったわね、私はアラシが好き
そして、私も正真正銘のアークウィザードよ」
「わたしも、ねりまきと同じだよ
さて、そこで質問に戻ろう
めぐみん……君はアラシのことをどう思っているのか、正直に答えて欲しいかな?」
「わ…私は……」
私は最後まで答えることが出来なかった。
しげみの奥から、ゆんゆん、ふにふら、どどんこが血相を変えてこちらに走ってきたのだ
しかも、背中から翼を生やしたモンスターが追いかて来ている !
アレは断じて養殖用の無力化されたモンスターではないはずだ !
「何をやってるんですか、ゆんゆん!
私達まで、巻き添えにしないでください」
「そんなこと言ったって、しょうがないじゃない。
アイツはクロちゃんを見た途端に追いかけてくるんだもの。」
「捨てなさい、助かるために !
まっ黒クロ助には尊い犠牲になってもらうのです」
「いやよ !
絶対に手放さないわ」
いつの間にか、一緒に走って逃げているのは、私とゆんゆん二人だけになってしまった。
クロ助が狙われているのだと分かって、ふにふらとどどんこは離脱した。
あるえ と ねりまきもプッチンに助けを求めに行ったのだ。
どうしたらと考え事をしていたのが、いけなかったらしい。
木の根につまずいて転んでしまった。
「めぐみん、早く起きて逃げて!」
後ろを振り返ればモンスターは滑空して目前まで迫ってきていた。
もうダメだ、私は何も伝説を残さないまま死んでしまうのか。
覚悟の目を閉じると……
「ナンクルナイサー!!」
衝撃波によってモンスターか真っ二つになった。
声のした方を見れば、白銀の長剣を持ったアラシがこっちに走って来るのが見えた。
「二人とも無事か?」
「ありがとうアラシ !
よくここが分かったわね」
「あれだけ、騒いでればな……
後、あるえ と ねりまきにも感謝だな」
見ると、アラシとグループを作っていた男子二人の側に、あるえ と ねりまきが立ってこちらに手を振っている。
アラシが、やって来ると翼を生やしたモンスターの首を切断して復活しないことを確かめた。
そしておもむろに近くのしげみに声をかける。
「プッチン先生 !
生徒が危険に成っているのに何故、助けないんだ?」
「もちろん、最高のシチュエーションを狙っていたのだ
タイミングが大事だからな」
「めぐみん や ゆんゆんに何かあったらどうするつもりだったんだ?」
アラシは……この男はあきらかに怒っていた。
私達を命の危険にしたモンスターに……
そして、側に居ながら、すぐに助けに入らなかったダメ教師にも腹をたてている。
「めぐみん、怪我してないか?」
私を心配してくれてる紅い瞳は優しい光を帯びている。
紅魔族の黒い髪がきらきら輝いていた
彼が側にいる安心感で、私は意識を手放していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます