第8話 紅魔族髄一のプレイボーイ ③

【めぐみんside】


「降参よ。 鍛練を始めてから、数日で抜かれるなんて、思いもしなかったわ 」

 両手を上げながら、ヤレヤレと首を振るソケット。


「お見事、ゆんゆんの婚約者くん !」


「アラシ、あなたはブッコロリーに自己紹介をしなかったのですか?

 これだからコミュ症は……さっさと名乗りをあげたらどうですか」


 ブッコロリーを見て、私とゆんゆん、それぞれ見てタメ息をついてからアラシは木の根元に置いておいた自らの剣を鞘に入ったまま眼前に掲げて高々と名乗りをあげた。


「我が名はアラシ。紅魔族随一のハーフボイルドにして未来の英雄足る者 !

 やがて、ゆんゆんを妻にする者!」


 ………… 何を言ってるのだ、この男は?


 ソケットは、ニヤニヤしながらこちらに歩いてきているし、ゆんゆんは顔を真っ赤にして唸っている…その眼までピカピカと光らせている。私は、私は……何故か胸の奥が痛かった。


「ワァ~、めぐみんが泣いている !

 どうしよう、どうしよう?」


 言われてみて気が付いた、私は何故……涙が出ているのだろうか……


「そうだな、とりあえずは……先に、コイツらを片ずけなくちゃな!」


 そう言うとアラシは今まで使わなかった白銀の長剣を抜き放つとしげみから現れた狼の群れに向けて斬撃を放った


「ナンクルナイサー!!」


「いつの間にか囲まれていたようね

カースオブライトニング!!」


「こういうときこそボクの出番かな?

ライトオブセイバー!!」


 アラシ、ソケット、ブッコロリーのスキルや魔法が放たれた !


 わたしもゆんゆんも、これでは戦力外だ。

 二人ともまだ、スキルポイントが10にも達してない。

 魔法学校に入学して間もないとはいえ……。

 魔法が使えない魔法使いは役立たずだ。

 その後も、一撃熊や見慣れない背中に翼の生えたモンスターもアラシが、なんなく倒してしまった。

 安心からか、へたりこんでしまった私を背負ってくれたのはアラシだった。


「ゆんゆん、人手を集めてくれ。倒した獲物で肉が採れる奴はめぐみんの家に運んで欲しいんだ。」


「はい、はい。

 その他にもアラシが倒したものは私が換金の手配しといたげるよ、じゃあね。」


 遠ざかる、ゆんゆんを見送っていたユウヤに背負われた私も家に向かう。

 ソケットとブッコロリーはまだここにいるようだ。私を背負っている広い背中が温かい。

 安心して意識を手放した。


 ◇◇◇

 今朝も普通に朝食が出た。

 どうやら、アラシが狩った獲物を保存食にした以外は毛皮その他を売って生活費に回したらしい。

 流石の我が父、ひょいざぶろうもアラシが私に貢いだも同然の物を自らの開発資金にはしなかった。

 いや、しようとしたら……母、ゆいゆいに張り倒されたらしい。


 こめっこが連れてきたクロネコは結局、ゆんゆんの家に引き取られた。

 こめっこは執拗に食べようとしたが、いつでもゆんゆんの家にお呼ばれできると聞いてあっさり首をたてに振った。


「今日もホーストにカツ丼をおごってもらおう。」


「待ちなさい、こめっこ。ホーストとは誰ですか?」


「遊んでいたときに子分になった。漆黒の魔獣もその時邪神の墓から出てきた!」


 今、この子は何と言った?

 まさか、我が妹が邪神の墓の封印を解いたと言うのですか?


 そう言えば、私が幼いときもあそこで遊んでいて封印が解けた中から現れた巨大な魔獣を魔法使いのお姉さんがその圧倒的な魔法で撃退した。


 私は、その凄まじい破壊力に魅せられて必ず習得することを誓った。

 お姉さんが使っていた魔法、爆裂魔法を !


 ◇◇◇

「めぐみ~ん、学校行くわよ !

 今日から一緒に登校する約束でしょう?」


 朝からのボッチ娘の呼び声に私は考えを中断して顔を上げた。


 そう、邪神の墓の再封印がされるまで単身での登下校は制限されているのだ。


 ゆんゆんに返答しようとして私は固まってしまった。

 彼女の後ろに、昨日私を背負って帰った浮気男の顔が見えたからだ。


「今日はアラシも一緒よ、うれしいでしょう?」


「アラシが一緒で嬉しいのは、あなたではないのですか、ゆんゆん !」


「うん、うれしいよ !

 アラシと一緒なのももちろんだけど、こうやってめぐみんと登校できていっぱいおしゃべりできて、前から比べたら、なんだか夢みたい」


 ………ゆんゆんは、頬を上気させてほほえんでいる。


 自分からクラスの輪に入っていればもっと前から、この顔ができたろうに。


「アラシ、あなたはどうですか?

 もちろん、ボッチのゆんゆんだけでなく、この美少女の私と一緒で嬉しいはずですよね?」


 うん?

 無表情のこの男を、からかったのだけれど……

 コイツは、またもや私を横抱きにしてずんずん歩き出した。


「こら、何をするのです。他の生徒もたくさん登校してるのですよ?早くおろしなさい、やめろぉー !」


「めぐみんってヤメロというわりには顔が、にやけてるじゃない。

 もう、これで全校公認だね……何か、羨ましいな」


「さっき、嬉しいかって聞いたな?

 嬉しいぞ !

 こうして、めぐみんを抱いて登校できるんだからな。 」


 不味い、からかうつもりが逆にからかわれている。


 ゆんゆんは、にやにやしてるし、アラシは、わざと密着するように抱えているし、恥ずかしくないのか、コノ男は !?


 ……結局、居合わせた男子生徒にも散々からかわれたし、何故か校門に待ち構えていた、あるえとねりまきの無言の眼差しが怖かった。




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