第7話 紅魔族髄一のプレイボーイ ②

ゆんゆんにだけは負けられません !

「あの男は浮気性です !

あるえなんかに気を取られているのが、よい証拠です」


「それってヤキモチなの、めぐみん。

自分が、かまってもらえないから……」

しつこい、ゆんゆんに逆に問い質してやる。

「アラシを好きなのは、ゆんゆんの方なんじゃないですか !?」


しかし、ゆんゆんは少し考えてから、

「そうだね……私はアラシが好き。

出会ったばかりだけど、お嫁さんに成れたら良いなと思うけど、アラシは冒険者に成って里を出るみたいだし………………私も冒険者に成ろうかな 」


なっ 、ゆんゆんがそこまで考えているなんて想定外です。

「ゆんゆんは将来の族長ではないですか !

良いのですか ?」


ゆんゆんは狼狽うろたえることなく、

「テレポートを覚えるから大丈夫。

何時でも戻れるようにするからね。

それに、あるえ だけでなく、ねりまき や どどんこ だって、いつの間にかアラシと知り合って夢中みたいだしね…………ふにふら は相変わらずブラコンのままだけど」


「……あの女タラシがぁ~ 」


ねりまきも私たちの同級生。

この里髄一の酒屋の娘で、将来は居酒屋の女将に成るのが目標だったはず。

容姿も私より背が高く長い黒髪で男には魅力的に見えるはず、性格だって悪くない。

……私も髪を伸ばそうかなぁ~。

どどんこは、多少性格が悪い所があるが、なかなかスタイルも良く、学校の成績も私、ゆんゆん、あるえに続く第四の女でもある。


「何を考えているのか想像出来るけど、アラシが自分からアプローチをしているのは、めぐみんだけなんだよ !?

心配なら、アラシが稽古している所に行ってみよう。

さあ、こめっこちゃんにお土産のサンドイッチを渡したら直ぐに行こうよ 」


◇◇◇◇◇


我が家に着いた私とゆんゆんを妹のこめっこが出迎えてくれた。

「姉ちゃん、おかえり !」


良くみると、私のお下がりのマントだけでなく、身体中が泥だらけになっている。

どうやら、遊びから帰ってきたばかりのようだ。


「こめっこ。 あなたには私の下僕からの貢ぎ物のサンドイッチをあげましょう」

「姉ちゃん。 すごいや、 下僕がいるなんて !」

こめっこは、急いでサンドイッチをハグハグと食べつくし、黒い子猫を抱えてい追いてきた。


「ねえ、めぐみん。 この子猫、羽根が生えているよ !」

ゆんゆんの言うように背中に小さな羽根がある。

私の使い魔にするのには丁度良いでしょう。

そんなことを考えていると、後ろから声がかかった。


「そこへ行くのは、めぐみんと族長の娘さんではないか ?」

ニートのブッコロリーだった。

「はじめまして、ゆんゆんです」

真面目に自己紹介するボッチ娘。


「誰かと思えばじゃないですか。

私とゆんゆんは、ゆんゆんの婚約者が剣の稽古をしているようなので、見物に行くところです」


少し思い出す仕草をしたニートが、

「あ~ぁ、最近帰ってきた子だね。

あれは、かなり強いね !」

ニートが驚くべき発言をした。


「そんなことまで判るんですか、ニートのクセに !?」

「ニートにだって人権はあるんだから、よしてくれよ !

彼はたぶん、今もソケットと訓練しているはずさ !

僕はソケットのことなら、何でも知っているからね。

彼が、この里に来てから毎日のようにソケットと訓練しているんだよ。

隠れて見ていたら、ソケットに見つかっておいだされてしまってよ」

私たち二人は、ブッコロリーのストーカーぶりにドン引きしたけれど、気を取り直して森の奥に向かった。


◇◇◇◇◇


森に近づくと、木刀同士の打ち合う音が聞こえてきた。

良く見ると、二人の男女が凄まじい速度で斬撃を交わしている。

この里髄一の美人占い師のソケットが、めまぐるしく体制を変え上から下へ、下から背後へ、魔法まで組み合わせて攻撃をしている。


魔法まで使っていたら、もはや剣の訓練だとは言えない気がするのだけど。

私たちが驚いているのを確認したブッコロリーが、

「大丈夫だよ、よく見ててね」


確かに良く見ると、ソケットの攻撃は当たっていない。

風魔法や雷魔法でさえ、かすってもいない。

常に動き回り、時には木の枝から枝へと跳び移って距離を稼ぎ、いつの間にか死角からソケットに斬り付けていた。

『魔王を倒す』と言ったのも出任せでは無いことが判る。


「僕も最初に見た時は驚いたよ !

ソケットは剣の腕では、この里髄一の腕前だからね。

それを、彼は最初から彼女の動きに付いていくのだから……彼は、いったい何処で修行したのかな ?」


私たちが話している間に勝負がついたようで……

アラシが両手に持ち変えた木刀を下から救い上げるように振ると、巻き上げられたソケットの木刀が宙を舞った。

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