第11話 襲来

 空を覆うほどの大量のモンスターがいた。

 全て翼を背中につけた飛行型の魔物だ。


 明らかに異常事態だ。


「不味いな……ひとまずは、めぐみんの家に行って こめっこの無事を確かめるのが先決だな」


「私もそれがいいと思うよ

 ひょいざぶろうさん と ゆいゆいさん、今は里にいないんだよね?」


「ええ、完成した製品を売りに行ってて、まだしばらくは戻ってこないはずです」


 ……そうなのだ。

 今、家には、こめっこが一人で留守番してるはず……こめっこ、どうか無事でいて

 


 たどり着いた我が家にはカギは掛かっておらず、中には誰もいなかった。


「こめっこ、こめっこは、どこですか?

 こめっこ !?」


 血相を変えて飛び出そうとした私の手を左右から伸びてきた腕がつかんできた。


「ゆんゆん、アラシ、二人とも離してください !

 こうしてる間にも、こめっこが!」


「まあ、待てよ

 ゆんゆんは、何か手軽に食べられるものを台所から持ってこい

 めぐみんは、こめっこが行きそうな場所に心当たりはないか?」


「こめっこは、あれから大抵ホーストと一緒にいることが多いです

 魔神の丘か、でなければ猫耳神社にいるはずです」


「……分かった

 めぐみん、走ることに成るから靴を取り替えろ !

 ゆんゆん、食料と水を用意したか?」


「うん、袋からすぐ取り出せるようにしたから」


 ゆんゆんは、私達にそれぞれ袋に入ったものを渡してきた。

 中身はおにぎりと唐揚げにした肉だった。


 おのれ、我が家の貴重な食料を……

 無言でブーツに履き替えた。


「手分けして探すのがいいんだろうが、魔法を取得してない魔法使いは戦力にならない

 ここは、三人でまとまって探すしかないか」


「一緒に行ってくれるのですか?」


「何を当たり前の事言ってるんだよ !

 いつもの里周辺のモンスターだって中級魔法じゃ無理だろうが !

 用意できたら、行くぞ。」


 目を伏せる、目にも止まらぬ速さとはこの事だ

 二体の敵を切断した彼の死角から音もなくもう一体が迫る。


「アラシー ! 」


 唖然としてしまった

 彼は迫ってきた敵に対して、振り向きざまに斬擊を放って周囲を巻き込んで消滅させてしまったのだ。


「凄まじいねえ

 すでに、一流のソードマスターの域に達してるじゃないか」


 アーネスが息を整えながら呟く。


 二人が戦っている場所を敵は包囲しようとしており、少しずつこちらに下がってきた。


「準備完了よ

二人とも下がりなさい!」


 ホーストが飛んでくる。

アラシが矢のように駆けてくる。

 そして、ウォルバク先生の掲げる杖からまばゆい光がほとばしる


「エクスプロージョン!!」


 一直線に伸びた猛烈な爆炎は前方の辺り一面をなぎ払い、巨大なクレーターを造り出していた。

 空を覆っていた無数のモンスターも見当たらない。


「もう、モンスターは居なくなったのかな?」


「さすがにきつかったわね

 先生、疲れちゃったわ」


「先生は今日はもう爆裂魔法はキツいでしょう

 猫耳神社に帰って休んでください

 出来ればホーストとアーネスと一緒に、こめっこ達を守ってほしいんです」


「あなたは、……アラシ、あなたはどうするつもりですか?」


 私は気がついてしまった。

 里のモンスターは一掃されつつある。

 侵入した敵の全滅はすぐだ。


 しかし、新たに大量の敵が外から迫っている。


 魔王城のある方角から押し寄せてきているのだ。


「ここにいる皆は疲れている

 しかし、俺は戦える

 そして、ここが魔法を習得するタイミングだ !」


 彼が懐から冒険者カードを取りだし一覧に指を這わせる。習得した魔法が濃く浮かび上がる。


「超級魔法!

 何ですかこれは?

 必要取得ポイントが80ポイント!!

 何ですかこれは!」


 問い詰めようとした彼は超級魔法を唱えた !


奇跡魔法パル◌ンテ !」


 アラシが空中に浮いていた。


「運が良い、いきなり当たりを引くとはな 」


 驚く皆を尻目に飛ぼうとしていたアラシに向かって私は思いきりジャンプして彼にしがみついた。


 面食らった彼だが、しっかりと私を抱き締めてくれた。


「アラシ、私も行きます

 連れていってください」


 私の目を見つめた彼は背中にしがみつかせて高度をあげた。


「行ってくる、終わったら合流するから」


 大空を飛んでいる、アラシと二人で。

何だか嬉しい、今だけはアラシと二人きりだ。


「ぼんやりしているところ悪いがな、そろそろだぞ」


「下に降りるのですか?」


「まさかな、地上部隊もいるようだが空中にもそれなりに敵がいる

 こっちが上空にいる間に勝負を決める」


 彼は自分の白銀の剣を掲げて短く呟く。


「この世の全てをなぎ倒す力を !

 敵を滅ぼせ、奇跡魔法パ◇プンテ !」


 瞬間、紅蓮の炎に包まれた大量の巨大岩石が魔王軍に降り注いだ。空にいた者も、地上にいた敵も等しく跡形もなくなった。ただ一人生き残ったのは、急いで障壁を貼った敵の指揮官だけだった。


 信じられないものを見た目をしたその少女は、満身創痍ながら飛行して退いた。

 強い意思を秘めたその視線は真っ直ぐアラシを射ぬいていた。


「あっけなかったですね

 追わなくてよかったんですか?」


「俺のレベルを考えてくれよ

 今、魔王城に行っても、なぶり殺しにされるのが落ちさ

 それよりもまだ少しは魔力がある

 猫耳神社まで空中散歩しよう」


「何故、横抱きに態勢を変えるのですか?」


「このほうが景色を見やすいだろう?」


 いわゆる、お姫様だっこをされている状態だ。

 私は、恥ずかしさで彼の首にしがみつく。

 景色など見ている余裕などない。


「アラシは私のことをどう思っているのですか?」


「前に言った通りだ。俺はめぐみを妹と同じくらい大事に思っている、必ずお前を幸せにする」


 何も言えなくなってしまった私は、黙って彼にしがみついていた。静寂は決して不快ではなかった。


 あれから一週間、魔法学園レッドプリズンを卒業したアラシは今日が旅立ちの日だ。

 卒業した彼だが、毎日の魔物狩りの他に時折攻めてくる魔王軍の撃退にもブッコロリーらのニート集団と共に参加していた。


 あの女指揮官も攻めてきたがアラシを見かけると急いで撤退した。

 なぜか、強い者に対する憧れがその目に宿っていると感じたのは気のせいか。

 食料を我が家に届き、魔王軍から奪った装備を里の鍛冶屋に持ち込んで自分用の鎧などを製作してもらっていた。


 里の入り口で戻ってきた族長と ゆんゆん、私が立っている。そばには、こめっこもいる。


「一年以内にテレポートの呪文を覚えて一度戻ってきます。その時は……。」


「本当に、ゆんゆんで良いのかね?

 たまたま私が君を助けたから恩義を感じて無理をしているのではないかね !

 君はめぐみんと仲良しのようだから、めぐみんの方が良いのじゃないかね?

 彼女も望んでいるようだしね」


 少し離れたところから、あるえに ねりまき もこちらをうかがっている、おのれ……


「俺は、ゆんゆんが好きです。

 確かに一夫多妻の制度はありますが、俺のお姫様はゆんゆんです

 ゆんゆん、卒業したらアクセルに来い

 その頃になったら、俺も駆け出しの町に行く。」


「あなたは、他の街を廻るのですか?」

 アラシの動向が気になり、私は思わず聞いてしまった。


「俺のレベルが微妙だからな

 アクセルでは仕事がないかもしれない

 各地を廻ってみるさ、王都は面倒だが……」


「分かりました

 私も卒業したら、必ずアクセルに行きます

 そこで再会しましょう」


 逃がさない、私を惚れさせておきながら、勝ち逃げなんて許さない !

 絶対にアラシを私に惚れさせてやる !


「私もアクセルに行くよ!絶対にアラシとまた会うからね?」

 ボッチ……ゆんゆんが目を深紅に輝かして宣言すると、


「もちろん、私も諦めないよ」


「私もお父さんに言って冒険者になるんだから!」


 このビッチにアバズレが!


「アラシは今、私と話しているのです。邪魔しないでもらおうか!」


「なに言ってるのよ、めぐみんは !?

 アラシに好きだって告白してないでしょう?

 自分の意思を伝えてないのに束縛するのはおかしいわよ!」


 ……コイツらは敵だ!

 私は全身真っ赤になるのを意識してアラシに向き直る。


「アラシ、あなたを私の男にしてみせます

 妹なんかで満足なんかできません !

 必ず私の夫にしてみせます」


 一瞬驚いた彼だが、笑みを浮かべた。

 そして、用意していたのか茫然ぼうぜんとしている内に背を向けて歩き出してしまった。


「我が名はアラシ!

 紅魔族随一のハーフボイルドにして、やがて英雄と呼ばれる者、ゆんゆんを必ず嫁にするもの!」


 背を向けた彼から大声で宣言が聞こえた

 私は卒業したら、必ずアクセルに向かうと誓った。


「ねえちゃん、こめっこもアラシの嫁に成る !」


あのヤロウ、とうとうこめっこまでタラシましたね !

絶対に許しません!

必ず捕まえますよ、アラシ !


───── 紅魔族の里編 完 ─────




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