アクセルの街 編

第12話 再会

 夕暮れの町並みを、冒険者風の男女四人が歩いていた。

 何やら心身ともに疲労しており、四人の内三人までが何か全身ヌメヌメして無事なのは胸の大きいおさげの少女だけだった。


 何よりその団体からは、異様な臭気が漂ってきている。


「ふ~やっぱり、あの爆裂魔法はオーバーキル過ぎるだろう

 よっぽどでなければ封印だな

 これからは別の魔法で頑張ってくれ、めぐみん」


 うんざりした表情で小柄な少年が言えば、背負われている少女が言葉を返す。


「使えません……」


「え、何が?」


「私は、爆裂魔法以外の魔法は使えないんです

 覚える気もありません !」


「え、何言ってるのよ?

 爆裂魔法を使えるくらいの魔力量があれば、他の魔法も大概使えるはずだし、難易度的にも爆発魔法と炸裂魔法の複合の爆裂魔法を発動できるんだからね !

 それより下位の魔法習得なんて、選り取りみどりじゃないの?」


「そうなのか、アクア?」


「ええ、そうよ」


 青髪の少女アクアが胸を張って答えると、茶髪の少年、カズマはなんとも言えない顔をした。


「私は、爆発系の魔法が好きなんじゃありません

 爆裂魔法が好きなんです

 確かに他の魔法を覚えれば、冒険は楽になるでしょう

 でもこれは私のポリシーなんです」


「めぐみん、言いたくないけどそれじゃパーティーには入れてもらえないよ?」


「ゆんゆん、貴女が抜ければいいではないですか」


「いや、正直に言ってむりだな !

 なにしろ、一通りの上級魔法が使えるゆんゆんが、パーティー加入を希望してくれてるんだ

 癖の強い魔法使いは、俺では扱いきれないよ」


 大声を出すでもなく、筋道たてて説明されてみれば、一行に注目していた見物人も非難の声をあげることはなかった。


「まあ、帰ってから報酬は公平に分けるからな、ごくろうさん」




「あんたらが、めぐみんをいらないなら俺が連れていくさ ! 」


 涙を必死にこらえていためぐみんが声のした方を振り返ると、ずっと会いたかった少年が以前より精悍な表情で近づいてきた。


「久しぶりだなめぐみん 、ちょっと待ってろよ『ハイパークリーン !』」


 背の高い少年が指輪を付けた左手を向けて詠唱すると、粘液まみれですごい臭いが綺麗さっぱりなくなって、カズマ・めぐみん・アクアは入浴したように清潔になっていた。


「アラシ、いつアクセルに来たのよ !

 私達がこっちに来てから受付に聞いても、とっくに出ていったって言われちゃったし、もう」


「ゆんゆんも久しぶりだな

 俺もテレポートの魔法を覚えたから紅魔の里に戻ってきたんだ

 めぐみんとゆんゆんに手紙を預かった

 今日、ギルドで探したんだがクエストに出た後だったみたいだからな、俺も一撃グマを倒して来た」


「知り合いみたいだな、ちょっと俺にも紹介してくれよ」


 そう言ってサトウカズマは、目の前の少年を観察した。165㎝の自分より10㎝以上高いだろう。


 灰色に見える革鎧に青いマントをつけている。

 腰には白銀の長い剣を差して、左手にはマナタイトと言う魔硝石を嵌め込んだ銀の指輪をつけている。そしてなにより、目を引くのはその黒髪と赤目だった。


「まずは、自己紹介だな

 俺の名はアラシ、紅魔族族長の居候いそうろうでゆんゆんとは婚約者フィアンセになる

 そして、めぐみんは義妹だ !」


「……何故それを言うんですか?」


「最初にはっきり言っておかないとな」


「あいかわらずね、アラシ

 もちろん、結婚するのを楽しみにしているわ」


 


「じゃあ、私からいくわよ

 我が名はアクア、皆が崇めるアクシズ教のご神体そのもの、水の女神アクアとは私のことよ!」


「えっ……」


「あぁ、そう思ってるかわいそうな娘なんだ

 そっとしてやってくれ」


「なんでよー !」


 アクアの名乗りとカズマのフォローでアラシは微妙な顔をした。


「それで、俺はサトウカズマだ。」


「とりあえず、汚れも綺麗になったし、このままギルドに直行しましょう。」


 ゆんゆんの発言に全員異議なく、泣きそうだっためぐみんも元気になってユウヤにおぶってもらっていた。

 その隣をゆんゆんが当然のように歩き、アクアが楽しそうにおしゃべりしていた。


 カズマは複雑な表情で最後尾を歩いていた。


「いや、その気はないな

 俺は冒険者と言うより傭兵のつもりだし、せっかく会えたんだから、めぐみんと一緒にいたいしな

 まあ、そっちには、ゆんゆんが加入したんだ。

 こいつは、大抵のことはそつなくこなすし、接近戦もできるから、重宝するはずだぜ。

 大事にしてやってくれ」


「ああ、わかった」


 やがて、ゆんゆんから手紙の返事を受け取った少年が立ち上がる。


 それを見て、口一杯にほうばっていた食べ物を急いで飲み込んだめぐみんがつづく。


「俺達二人の勘定はここにおくぞ。」


「アラシ、おんぶしてください。」


「もう歩けるだろ?」


「私がおんぶして欲しいんです。」


 見つめあった後、しゃがんだ少年の背中に少女が嬉しそうにしがみつき、二人は外に出ていった。


「それじゃあ、カズマさんこれからよろしくお願いします。」


「ゆんゆんは、さっ……。」


「はい、何でしょう?」


「追いかけて一緒に行かなくて良かったのか?」


「私は、これが初めてのパーティー加入です

 ここでパーティーでの戦いかたを学んでいきます

 アラシの横に並ぶのなら、私はいっぱい修行をしなければ成りません !」


「何よカズマさん、自分で断ったのに、めぐみんのことが惜しくなったの?」


「そうじゃねえよ !」


「主役になるには、才能の他にも不断の努力も加えて運も必要なのよ」


 俺は運だけかよ……


 サトウカズマは、自分の冒険者カードを見てため息をついた。

 

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