第22話 胡桃のファインプレー——解決編……?——

「それで、犯人は誰なんですか?」

 目を爛々とさせ訊いてくる胡桃を、とりあえず宥める。

「まぁ、待って。いいか、あくまでも南雲先生が殺されたと仮定した時の推理や。だから、一回中元に聞いて欲しい。

 間違いとか、抜けがあったら遠慮なく言ってくれ」

「良いですけど、自信あるんでしょ?」

「確かに、この通りやったら筋も通るし、色んな疑問にも納得がいく」

「ま、聞かせてくださいよ。大丈夫です。相手が先輩だろうが、バシバシ意見言っちゃいますよ!」

 胡桃だから心配しかないが、適任者がこいつしかいないんじゃどうしようもない。

 胡桃にも判りやすいように1つずつ丁寧にいくとしよう。



 庄司さんの話によると、ワインに入っていたと思われる青酸系の毒物を服用したことによる青酸中毒が死因やとのことやった。

 南雲先生は殺害されたと仮定してるから、毒物が混入したのは仲川さんから南雲先生にワインが渡ってからと考えてええ。ここまでええか、中元。

 仲川さんが元々ワインに毒物を仕込んでいた可能性?

 それやったら、警察介入時点ですぐ判るわ。私らはその時何もせんでええ。今やるんは、それ以外の可能性の検証や。

 それにワインは店の名前が入った紙で包装されとった。店から購入した後、ワイン中に封を開けずに毒物を入れて、再び包装をする。これはなかなかに大変や。

 毒殺予告の件はどうや?仲川さんが犯人と仮定すると、上手い言い訳が思いつかへん。

 仲川さんが犯人の時は疑問が多いけど、これから言う仮説は結構な疑問を解消してくれる。理屈が通るんや。

 もうええか?尺が足らんなってまう。

 

 じゃぁ、最初の前提に戻るで。

 ワインの中に毒物が入れられたのは先生の手にワインが渡ってから、庄司さんの言う死亡推定時刻——昨日の23時から今日の1時まで——の間。

 この時、ワインに毒物を入れられたのはいつやという話になる。

 お〜い、中元。ついてこいよ?

 で、さっきの話、クイズや。ワインに毒物が混入されたのはいつやと考えられる?

 

 意外にいいところに目を付けるな。

 やけど、先生が——何の用かは知らんけど——夕刊を取りに行ったかなんかで部屋を離れたんは偶然や。それこそネロ皇帝じゃあるまいし、ずっと青酸カリを持ち歩いてるなんて考えにくいやろ。

 それに、そんな昼間から先生がワインの封を開けていたとは考えられんから、その時、封は閉じたままやった。やから、その先生が偶然部屋を開けている間に封を開けずに毒を混入するという結構困難なことを犯人はせんとあかんことになる。

 だから、ワインに毒物が混入されたのはおおよそその時じゃない。

 となれば、考えられるんは

 それ以外に先生がトイレにたった時とかはないの、か?

 生理現象も当然偶然のことやし、何より、トイレは先生の部屋の前や。流石に先生が近くにいる間に部屋に忍び込んで素早くさっきの行動をすんのはこれも考えられん。

 ええか?判った?

 で、先生が風呂に入っている間にワインに毒が入った。これは、偶然ちゃう。先生はいつも一番風呂を拘って入っていた。やから、毒殺犯はこの時のために青酸カリを携帯していても何の不思議もない。

 想像するんや、先生が風呂に入りました。先生の部屋の鍵は内側からしか掛けられないからこの時、先生の部屋は鍵が掛かっていなかった。

 毒殺犯が部屋に入ります。昨日のように毒殺予告が来てても先生の結構呑気に風呂に長く入っとった。普段からそうなんやろ。仮に烏の行水やったとしても郵便受けを見たりする時間より長いことは事実や。

 想像出来てるか?

 じゃぁ、ここに来て毒殺犯に想定外のことが起こった。

 そう、や。

 離れた時はあったけど、それは先生が風呂から完全なる風呂上がりのおっさんの様子で上がってきてからや。その時には毒殺犯は既に部屋から抜けとかなあかんからな。

 じゃぁ、どうやって犯人は部屋から抜けたか。


 や。


 そうやろ?そこしか犯人が部屋から出る方法はない。私がおるんやから。

 証拠がない?

 そうや、私もそう思っとった。

 でも、さっき、前嶋社長がこんなことを言っとったんや。



 社長は昨日、中元が植木鉢を割るところを見とったそうや。やけど、その植木鉢が今日になるとなおっとった。

 やから、社長はこんなことを言った訳やな。

 で、後で私はこんなことを中元に訊いた。



 ってな。やけど、中元の答えはノーやった。

 もう、判ってきたか?なおしたんは先生の部屋に忍び込んだ犯人や。

 犯人はやむを得ず、窓から庭に抜けようとした時、庭に当然足をつけるわな。

 その足の元にちょっと土が掛かったくらいの植木鉢があった。

 それだけやったら、元々割れてた可能性を普通考えるわな。

 でも、この時、さらに犯人にとって不運なことがさらに起きた。や。

 タイミングがずれてたら良かったんやけど、後に残った状況から見るにタイミングが丁度やったんやな。

 つまりはこういうことや、犯人が窓から出たそのタイミングで家政婦が皿を割った。犯人の足元、そこには割れた植木鉢がある。

 普通の心境なら少し離れたところの音やと判る。でも、犯行——ワインに毒を仕込んだだけやけどな——を終えた時の心境を考えると間違えたとしても不思議はないし、何しろ、事実、自分が足を着いたところには割れた植木鉢がある。

 取り敢えずは植木鉢をどうにかしようという気になってもおかしくはない。

 

 どうや?考えてみれば、中元のファインプレーのおかげやけど、辻褄が通るやろ?


 ほな、仕上げや。犯人様とのご対面や。

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