第18話 南雲邸の……
結局、一睡も出来なかった。何やら、色々考えだしてしまったら、頭が冴えてしまって、気付いたら5時だった。こんな感じだ。
静かな夜だった。
横の胡桃は未だ爆睡。(6時半現在)
普段から徹夜をする習慣がない訳ではないが、今日一日持つかと少し心配になる。
音量を絞って、テレビをかけると大概の局でニュースをしていた。当たり前だが皆さん、元気なこって。
案の定テレビショッピングをしているな、という局もあるが。
それはさておき、どっこもやること一緒。与党の支持率が微増しただの、どこぞの県長がやらかしただの。違いがない。
おもろないから、消したった。
顔でも洗いに行くか……!
部屋から出る時、結構な音が鳴ったが、胡桃が起きる気配は皆無だった。昨日、はしゃぎすぎやねん。
下に降りると、家政婦の……なんちゅう名前やったか、キヌでええか、が朝餉の準備だろうか何かしていた。
で、確か洗面所はこの辺だった筈……。
ビックリ。何と先客がいた。
「あ、浜本先生、おはようございます」
巧君だった。
「おはよう。朝、早いんだね」
「ええ、祖父の件で色々考えてしまって……」
そうだった。巧君にすれば、
「っていうのも冗談ではないんですけど、実際はこっちです」
と言って、巧君はスマホを出す。
「これの大会を回していたら、いつの間にか朝になってまして……」
と、見せたのはあの某野球ゲーム『プロ野球ス○リッツ』。そう言えば、今大会やってたなぁ〜。昔やってたけど、多忙ゆえ最近はログボの回収しかしてない。ログボと言えば、どうも鳥谷敬が出てくる。連続出場記録のために凡打と拙守を繰り返す鳥谷……。
それはそうと
「どこの純正でやってんの?」
「当然、阪神純正です。現役がピーピー(自主規制)でもOBは強いですし、何より阪神ファンですから」
ええ子や。
「もう一戦して来ます」
頑張って、と一応応援してあげた。
きっと、彼もじいちゃんのことを気にしないようにしているのだろう。決してゲーム廃人などではないはずだ。そう思いたい。そう思おう。
2階に上がって、部屋に戻ると胡桃が起きていた——なんてことはなく、爆睡していた。よく寝るなぁ。もうちょいしたら起こすか。
そう言えば、ふと思ったけど、巧君もオールなんやな。
コンコン。
どこか、扉を叩く音がする。
「ん……?」
「ご朝食はどうされますか?」
時間を確認すると、朝の9時前。顔を洗いに行ってから2時間と半くらい経っているから、どうやら寝落ちしてしまったらしい。
流石にマズイ。胡桃のことをとやかく言えなくなってしまう。
「すぐに行きます」
「判りました。階段を転げ落ちぬようにお気をつけ下さい」
寝ぼけて怪我して手間を掛けさせるな、ということかな?
「胡桃、行くで」
「Z z z z……」
まだ、寝てたんかこいつ。
てっきり起きているもんだと思って声を掛けたんだが。
まぁ、でも私が胡桃に起こされるパターンよりマシか。
「中元、起きろ!もう、朝の9時や」
「ふハァ!」
やっと起きたか。
「中元、朝飯、食べに行くで」
「何、笑とるんや」
「何か、先輩のこと見てたらフニャけてしまって……」
「寝ぼけんのも大概にしいや」
「ええ、そうですね!朝ご飯、食べに行きましょう!」
変なヤツ。
(胡桃サイド)
「ん」
わたしは朝起きるのが苦手だ。でも、修学旅行とか他人と一緒に泊まった時は不思議と一番最初に目が覚める。お陰で、朝に強いという誤った認識で学生時代を過ごした。
でも、どうやら今回ばかりはそういう訳にいかないだろう。
もうすっかり、明るくなってきているし、先輩のことだ。きっともう起きているだろう。
「先輩、おはよぅ……」
え?思いっきり寝てる……。
テーブルに突っ伏した状態で、しっかり寝てる。先輩、お寝坊さんだ……!
「先輩?」
「……ん……」
これを返事ととってはいけないだろう。
先輩、可愛い……。こっそり寝顔撮っちゃおっか。
バレなきゃ問題ない。殺人も死体がなければ立件できないって言うし、隠し撮りも写真が見つからなければ問題ない、はず……。
パシャ。
隠し撮り防止にスマホで写真を撮るとそんな音がする。
先輩、起きちゃったかな?
「……Z z z z……」
大丈夫みたいだ。
コンコン。
「ヒッ」
「浜本様、中元様」
「ん……?」
ヤバい。急いで、寝たふりをせねば。そう思って、わたしは布団をガバッと被る。
「ご朝食はどうされますか?」
ご飯出来たんだ……。
「すぐに行きます」
「判りました。階段を転げ落ちぬようにお気をつけ下さい」
結構、ズバズバいくタイプの家政婦みたいだなぁ〜。
「胡桃、行くで」
あれ?今、先輩に名前で『胡桃』って呼ばれた気が……。じゃぁ、先輩は舞美先輩……かな?
「Z z z z……」
ザ・寝たふり。ここでバレたら全てが水泡に帰すから結構マジで。
「中元、起きろ!もう、朝の9時や」
また苗字に戻ってしまった。また名前で呼んで欲しいなぁ。
「ふハァ!」
なかなかいい演技じゃない?
「中元、朝飯、食べに行くで」
「何、笑とるんや」
いつの間にか、フニャけてしまってたみたいだ。気を付けないと……!
「何か、先輩のこと見てたらフニャけてしまって……」
「寝ぼけんのも大概にしいや」
「ええ、そうですね!朝ご飯、食べに行きましょう!」
下に降りると、南雲先生以外はもう揃っていた。
「先生はまだなんですか?」
先輩……じゃない舞美先輩が訊く。
「普段だったら、もう来られる頃なんですけど、今日はまだ……。さっき、声を掛けさせて頂いた時も何の反応もなしで……」
「それって、少し引っ掛かりませんか?」
そう声を上げたのは、確か南雲先生の担当編集者の仲川さん。
「確かに、昨日の今日ですからね」
舞美先輩も同調。
「単に、まだ寝ているだけかもしれませんけどね」
絢音さんが言う。
「それだったらそれでいいじゃないですか。一応様子を見ておきませんか?何もなかったら僕のせいにして頂いていいですよ」
「でも、部屋には鍵が掛かっておりましたよ?」
「合鍵は?」
「いえ、中からのみ掛けることが出来るものです。ドアも窓もそのタイプだったと」
「じゃぁ、庭の方に回ったら、カーテンの隙間とかから中の様子が見えるんじゃないですか?」
取り敢えず、何もしないよりかは……とその案を採用したわたしたちは庭に回った。わたしが植木鉢を1つ自然に還してしまった、あの庭だ。
「どうです?見えますか?」
舞美先輩が訊く。
「いや、ちょっと、カーテンで完全に隠れてしまっていて」
うん?もしかして……
「あの!あの小窓は鍵が掛かってないんじゃないですか?」
そう言ってみる。
「あ、ホントだ。でもちょっと高くて見えないですね」
「脚立が確かあったはず……!取って来ますね」
そう言って、三田谷さんが走る。
先生がご無事ですように。普段は無宗教もわたしだが、そう祈ってしまう。何に祈っているのだろう……?
「持って来ました!」
息を切らした三田谷さんが脚立を設置する。
「はッ!先生、先生!急いで窓ガラスを割ってください」
脚立を上って部屋の中を見た仲川さんがそう声を上げるまで時間はかからなかった。
そして、その数分後、わたしたちは先生の亡骸を目にすることになる。
少し、今回は長くなってしまいました。
胡桃に一回は喋らせたいなっていうのがあって、でもやっと事件が起きたのだから丁寧にも描きたいなというのもあって。
いよいよ、次回からは捜査編です。もう暫くお付き合いよろしくお願いします。
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